ミもフタもないシドニー観光ガイド
シドニー観光のポイント(その1)
開発と保存
1996/12月11日
何となくシドニー観光をしてるとぼんやりした印象になりがちだという話を前回しました。逆に言えば、ポイントをつかんでメリハリきかせたら面白くなるわけで、そこらへんの話をしたいと思います。言うまでもないですが、「面白い」とか言ってもこれは「好み」の問題ですけど。
−ここは東京(大阪)だと思うこと−
シドニーは世界の観光客を集める観光地ですが、同時にメルボルンと共にオーストラリア最大の大都市でもあります。一国の中枢神経を司る、それはもうバリバリのビジネス街なわけです。東京や大阪と一緒です。
まずこの事を頭に叩き込んで下さい。あなたにとっては「観光地」でも、住んでる人にとっては「職場」なのです。地元のオーストラリア人でも「就職や進学のため」「シドニーに出てきた」という言い方/感じ方をしてるようです。シドニー南北に位置する衛星都市であるニューカッスルやウールンゴンの人々は自分達の町とシドニーとは全然別物だと思ってるようですし、生粋のオージーに「シドニーに住んでる」というと「じゃ、シドニーを案内してくれ」と言われかねません。町を歩くオーストラリア人も、僕らは「シドニーの人」と頭から思ってしまいがちですが、かなりの割合で「仕方なく」シドニーに出てきていると思ってる人も多いわけです。ちょっとばっかり長渕剛の「とんぼ」の世界なのかもしれません。
その割にはやたら奇麗な町だと思いませんか?グレートバリアリーフもケアンズもハッキリ言えば「田舎」です。エアーズロックなんか田舎以前に砂漠です。そのような地方が大自然に恵まれてるのは当たり前の話です。問題は、ビジネス的機能性のために開発しなきゃならず、必然的に自然環境を破壊しなきゃいけない宿命を負ってる大都会でありながら、これだけの景観や自然を保ってるという部分だと思います。東京や大阪がここまで美しいか?と。
そこで一つのポイントとしては、「シムシティ」の世界のように、人口400万人を養いながら、あるいはオーストラリア全体を支えながら、どこまで住みやすく美しい都市を築くかという視点で眺めると、違った風景が見えてくるのではないかと思われます。
これはもう住んでる人の価値観や、置かれている経済環境など様々な要素がミックスされているのでしょうが、分析していくと色々なことが考えられます。
街を歩いて気付くことは、超高層ビルがボンボン建ってる横で築100年以上の歴史的な建造物が、かなり大量に残っていることです(しかも現役で使用されている)。これが新宿副都心や大阪のOBPのように「全部現代的ビル」になってしまったらかなり雰囲気は違ってくるでしょう。都心のど真ん中にマーティンプレイスという歩行者天国の石畳の通りがありますが、両脇に並ぶ銀行本店やGPO(中央郵便局)などはおごそかな古い佇まいを見せており、非常にいい感じです。逆に「全面開発」をしたのが、都心西部のダーリングハーバーですが、見比べてみると、全然雰囲気が違うことに気付かれるでしょう。シドニー全部がダーリングハーバーのように無機的な感じに覆いつくされたら、印象もずいぶんと違ったものになるでしょう。
これは偶然そうなったのではなく、市民の意識の産物だと思います。観光地で有名なロックスも、その昔大規模再開発が計画されたのですが、地元住民の圧倒的な反対運動で、古い景観を守りながらの開発に路線修正されました。
反対運動のリーダーはJuck Mundeyという労組書記長で、地元の英雄でもあるそうです。遅まきながら、最近NSW州政府も、彼の偉業を称え、州の歴史的建造物トラストの会長になってくれるように要請したそうです→Untourist Sydney 12〜13頁。70年代、ロックスで警官隊によって強制退去させられる彼の写真も載ってます。
高度成長と共に過ごしてきた僕らなどは、何となく「ビルが高いのはエラいこと」のように思ってしまいがちですが、地元の人に聞くと、摩天楼立ち並ぶCBD(シドニー中心部)を「ugly(醜い)!」の一言で切って捨てたりするので、「そこまで言い切るか」とちょっとビックリした記憶もあります。新聞の記事や投書を見てると、「また当局のアホが下らない開発をして古い建物を壊そうとしている」というものを頻繁に見掛けます。観光客には有名なダーリングハーバーも地元にはあまり評判は良くないです(というかボロクソにケナす人もいる)。
歴史を見てますと、オーストラリアもイギリス植民地だったわけで、それが独立して「早く一人前になりたい」「追いつけ追い越せ」で頑張ってた時期もあるそうで、その意味では昔の日本に似てます。ハーバーブリッジもキャッチアップ意識のために、当時としては結構無理して背伸びして作ったという話も読んだことがあります。それなのに、開発一辺倒にならず、またハーバーブリッジ見てても「大きいことはいいことだ」だけの価値観ではなく「美しくなきゃ」という価値観もないと、ああいう形にならないんじゃないかと、僕は思います。オペラハウスにしても、当時のことを考えると、なにも建築に14年(だったかな)も掛けて、税金注ぎ込んで、あそこまで作るのに難しいデザインを採用したくてもいいじゃないかと思ったりもしますが、そこをやってしまうんでしょうね。
勿論、財界やら行政当局としては「きれい」だけではメシが食えないので、ことあるごとに開発しようとします。こないだ述べたオペラハウス周辺の開発もそのひとつでしょう。また、メルボルンに比べてシドニーは都市計画に失敗したと、地元からは手厳しい批判もされています。何が駄目かというと、歩道が無茶苦茶(メルボルンのように長年かけてコツコツと美しい石畳歩道にすべきだった)、建築基準で一階部分を公共用にすると容積率のボーナスが貰えるため、シドニーのビルは1階部分がいわゆる「ゲタばき」形式のものが多く(そういえば良く見ます)これがまた景観を駄目にしてる。最悪なのはモノレールで、
「なんであんな醜いものを市内中吊るさないとならないんだ」という批判の投書を少なくとも十通以上目にしたことがあります。
どうしてこんなに市民が「うるさい」のか、興味深いのですが、やっぱりそこはヨーロッパ系の移民の伝統的な価値観なのでしょう。イギリス系も古い建物や歴史を大事にしますが、特にイタリア系ギリシャ系
は「築2000年」の建物を市街地にボンと残しておいたりしますので、そこらへんの価値観は筋金入りなのかもしれません。
僕が昔住んでいた京都でも古都保存条例やら高さ制限やらいろいろ議論が尽きませんが、洋の東西を問わず事情は似たようなものなのでしょう。
なお、都心部で面白いようなところは、やはり新しい建物より古い建物の方が多いように思います。高層ビルは大体オフィスビルだから、仕事でもないと行きませんし。
そんなわけで、そこらへんのことを考えて街を歩くと面白いかもしれませんし、古い建物も丁寧に見てると「よくまあこんなに凝るわ」というぐらい、彫刻やら装飾がほどこしてあって飽きません。
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