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今週の1枚(2012/09/10)



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Essay 584: ワイル・E・コヨーテの瞬間〜鉄鉱石バブルと豪ドル暴落?

ビジネス英語を勉強しよう講座
 写真は、Seaforth。
といってもどこか分からないかもしれませんが、マンリーのちょっと手前(シティ寄り)。スピットブリッジから急な坂をぐわわっと上がって、上がりきったあたり、、って、こんな説明で分かる人だったら最初からシーフォースも知ってるでしょうけど。

 ここには、"Taste of Belgium"という有名なベルギーチョコベースのカフェがあります。サイモン君のブログが写真が綺麗でよくわかります。そこにトライに行ったときに撮った写真。

 ワッフル、ちゃんと時間掛けて温めてくれて美味しかったし、右の写真のチョコケーキ(名前忘れた)も甘さ抑えめで上品な味で良かった。ただ他のケーキがわりと普通(タルトの下のスポンジが、これは方針なんだと思うがポソポソ)だったりして、場所が場所だけにわざわざ行くほどのことか?というと微妙。

 でも、マンリー方面〜シティをバスで通過する機会があるなら、途中下車する価値ありです。マンリー方面ではシーフォースの交差点は交通の要所だから、どんなバスでも停まるしね。

 お店は上の写真でいえば、中央やや右、赤いポストの真ん前のあたり。手前の真っ赤なハデハデなオーニング(日除け)は実は不動産屋です。写真中央突き当たり付近は、もうその「交通の要所」の交差点です。Sydney RdとManly Rdという超分かりやすい道路。なぜかマンリーから来る道がシドニーロードで、シドニー(シティ方面寄り)がマンリーロードと逆転しているという。あ、Manly RdというのはSpit Rdです。坂を登るときだけ名称が変わる。登り切ったらまたBurnt Bridge Creek Deviationと名前が変わる。



関係あるって


 今週はハードな英文経済記事です。

 あ、もうこの時点で「逃げ腰」になっている人がいるかと思います。今週はパスしようかなあ、とか。
 まあ、英語×経済記事ですからね。楽しくはないよね。

 でも、実は結構「面白い」ですよ。ぱっと見にはボーリング(退屈)そうなんだけど、でも面白い。

 なぜなら、もしかしたら、あなたに非常に関係あるかもしれないからです。とりわけオーストラリアに来られる予定の方。
 今回の記事は、豪ドルは暴落するか?論=いつ換金すれば得か論でもあるからです。
 今は思ったほどオーストラリアドルは暴落してませんが、記事の最後の方に書かれている「ワイル・E・コヨーテの瞬間」なのかもしれず、そうだとしたら程なくしてドカンと下がるから、下がってから換金したほうが得です。しかし、下がると決まったわけでもない。そこらへんはどうなんか?です。

 ねえ、関係あるでしょう?あ、期待させてはぐらかすのも悪いから先に書いておくけど、結論的には「全然わかりません」です。為替の予想なんか100%出来るわけないのだ。ただし、現時点(2012年9月初旬)で「考えるべき材料」としてはこれだろうということです。

 次に、将来海外 or 英語環境で仕事をすることを(漠然とでも)考えている人は良い練習機会になります。@英語の勉強として、Aビジネス常識として、です。

 @英語勉強で言えば、将来的に永住権とか進学を考えている人、つまり最低でもIELTS6点クリアしないといけない人、あるいは英語圏でのデスクワークを考えている人は、手頃な練習素材だと思います。それも単に読むのではなく、「一気読み」してください。IELTS試験では「二度読みしたら落ちる」(時間が足りなくなる)と言われているくらいですから。ただでさえ日本人はリスニングとスピーキング(数十分タイマンで喋らされる)は点が悪いので、せめてライティングとリーディングで点取るべき。しかしライティングは書き方にコツがあるのでちゃんと練習しないと無理。だからリーディングというのは一番取っつきやすいのですね。ここで点を落としているようではマズイわけで、だからこの程度の英文は一気読みくらいのハードルでやってみてください。

 Aは、純粋語学の問題ではなく、ビジネスや経済概念が分からないから何言ってるのか分からないというパターンです。意外と「ワタシには関係ない」とか思ってる人いるんだけど、関係あるって!以下に引用したのは、専門の経済新聞ではなく一般紙の記事です。つまり一般レベルの内容でしかない。そして、その内容を見ると、おそらくは平均的なオージーだったらほぼ7-8割は理解するでしょう(人数的にも、理解度的にも)。そうでなければ一般紙の記事にならないし。それに、記事の中にも書かれているけど、タクシーの運ちゃんも、パブに行っても皆が知ってる、皆が知りすぎていることがむしろ問題だと。

 このあたりの「常識的なこと」が分からないと、地元のオージー連中の中に入っていけない、、、わけではないけど、やっぱりその部分でハンデを負う。男女系のイチャイチャ話とか、日本ネタとかエスニック話題のときはいいけど、世間の普通のサラリーマンのオージー同士がやってる会話に入っていけるかというと、厳しい。そうなると、彼らをお客にする商売をするにしてもしんどい。一般のオージーの場合、公定歩合が上がるか下がるかで可処分所得(個人のフトコロ具合)に直結しやすいので、セールス現場でも高めのものを売るべきか、バジェットタイプのラインナップを充実させるべきかの判断につながっていく。店頭での対応にビビットに関連するのですよ。これも記事に書いてあるように、上げ潮だったデパート売り上げが7月になった途端、過去7年で最大の下げ幅を記録したとか、予算が出ました、税制優遇措置を○○しましたということが、いきなり売り上げに響いている。

 それにこのあたりの世間話の領域が限定されて、「こいつにこんな話してもわからないよな」とか思われるのも癪でしょう?ワーホリや留学レベルで単に「お客さん」で来ているうちは「英語ダメだし」「外人だし」という言い訳が通用するけど、いよいよ本格的にやろうと思ったら、そんな言い訳は一切通用しない。海外に行くというのは、とりあえず「転校生」状態になるってことだから、皆が知ってることはとりあえず押えておく。努力で補えるところは可能な限り対等にです。

 つまりは、まあ「そのくらい知っとけ」レベルで、これはオーストラリアで職探しをする場合だけではなく、シンガポールで就職する場合も同じでしょう。てかシンガポールあたりの方がもっとキツイかもしれない。でもって、このくらいの記事だったら「頑張って勉強する」とかいうのではなく、朝、カフェでコーヒーを啜りながら、「ふむふむ」と半ばヒマツブシくらいの感じで、半分「娯楽」くらいの感じで読む。

 なあんてエラそげに言ってる僕自身あっぷあっぷなので、これを機会にいろいろ勉強させてもらいました。ゼミの発表担当になるとイヤでも勉強しなければいけないという。何のことはない、自分の勉強のために書いてるようなものです。世界史シリーズと同じです。

骨子


 先に骨子を書いておきます。

 既に日本でも聞こえているかと思いますが、中国の景気減速にともなって、オーストラリアの鉄鉱石輸出も急速に落ちています。リーマンショックも乗り越えて、先進国の中では好景気をエンジョイし、21年連続経済成長をしていたオーストラリア。巨額な財政赤字で消費税を上げたくらいでは焼け石に水の日本、ほとんど破産状態のギリシャなどに引っ張られて「共倒れになる親族一同」的な欧州、じーっと数年以上も痛みに耐え続けているアメリカ、、、など他国を考えれば、嘘みたいな状態のオーストラリアですが、それもこれも資源ブーム=鉄鉱石と石炭を中国にせっせと売り、しかもアホみたいに価格が高騰したので何にもしなくて坊主丸儲けという状態だったからだと思われます。

 でも、それももう終るかも、、、という話です。

 右の画像は、新聞記事のスキャンですが、この笑えるコラージュが全てを物語っています。真ん中の特殊作業車は、オーストラリア鉱山業の象徴のような超巨大ダンプ。パーティ・ハットを被って喜んでいるのは、右が記事で一番よく出てくるスワン財務大臣、真ん中がギラード首相(えらくオバサン顔の写真だけど)、左端がこれも記事で出てくる「毎日150億円損している男」、業界三位のフォーテスキュー社の創立者社長のフォレストさんです。

 ※と思ったら、真ん中の女性は後ででてくるジーナ・ラインハルト女史というご指摘がありました。ああ、なるほどって、でもこんな顔してたかな?眼鏡かけてる顔しかイメージになかったもんで。失礼しました。Google Imageで付き合わせてみたら、確かにそうでした。アップしてから数時間以内にお二人の方からメールをいただきました。ありがとうございました。


 皆さん浮かれて笑ってるけど、ここから先は急転直下、価格の暴落と共に奈落に底へというシナリオです。キャプションは当然、"PARTY'S OVER"。

 まあ、これだけで記事を読まなくても内容は分かりますよね。

 ここまでは前提知識で、では実際にどのくらい下がっているのか、なぜ下がるのか、今後どうなるのか、政府としてはどうするのか、政治状況的&経済的にどういう政策オプションがあるのか、また他の経済分野にどう影響するのか、そして懸案の歴史的高値をつけている豪ドル(日本円も高いから相対的にピンとこないけど)はどうなるのか?です。

 もちろんポンと結論がでるわけもなく、また出したところでそれが正しいという保証は全くないけど、どう考えたらいいのかです。知的に面白くなるのは、この後半部分ですね。社会福祉や高齢化との絡みも出てくるし。

 能書きは以上。いってみましょう。
 なお、いつもように訳は意訳してます。いわゆる翻訳の正統派からすれば変な訳をしてますが、これは翻訳という作業にどれだけの創造性を認めるか論で、それはそれで面白いけど、ここでは語りません。ただ、とりあえず分かりやすいように訳したつもりです。

 また、いちいち気がついたことをコメントでいれてます。文字を大きく、行幅を広めにとってるから見た目長いけど、実はそれほどの分量があるわけではないから、スラスラ読めると思います。

China slowdown turns off Swan's money tap

The Australian dollar has defied gravity but the plummeting price of iron could convince foreigners to abandon it in droves.

Peter Martin    September 8, 2012



WHAT if the Treasurer threw a party and no one came?

 もし!財務大臣がパーティを企画したのに、誰も来なかった、なんてことがあったらどうする?

This week, Wayne Swan implored the nation to celebrate an unbroken 21 years of economic growth - ''21 continuous premierships in the row'' - more than every other leading nation combined.

 今週、ウェイン・スワン財務大臣は、オーストラリアの空前の21年連続の経済成長を祝おうと国中に呼びかけていた。「21年間もずっと連続して首相の座にいるようなものだ!」--確かに、それは他の指導的な国々を合算したものよりも長いだろう。

But no one was popping champagne. The Fortescue Metals founder, Andrew Forrest, was losing personal wealth at the rate of $150 million a day. At the start of July, the iron ore spot price was $US127 a tonne. By Friday, it had slipped below $US87. Importantly, all of that 30 per cent slide in the spot price of Australia's biggest single export happened after the turn of the new financial year - it happened after the period covered by the June quarter national accounts of which the Treasurer was so proud.

 しかし、誰もシャンペンをポーンと開けようとはしなかった。
 フォーテスキュー・メタルズ・グループの創始者アンドリュー・フォレスト氏は、個人資産を毎日1億5000万ドル(ドル100円換算で150億円)も失っているのだ。今年7月はじめの鉄鉱石の市場価格は127ドル(米ドル)だった。この金曜(9月7日)までに、それは87ドルまで下落している。ここで重要なことは、この輸出単品目としては30%という最大幅になる価格の急落は、すべて新年度(7月1日開始)になってから生じているということだ。つまり、財務大臣が鼻高々で自慢している6月四半期(第四四半期)の経済実績期間の後に生じているのだ。

The Fortescue Metals Group :オーストラリアの鉄鉱石生産大手。オーストラリア国内でRio Tinto(リオ・ティント)やBHP Billiton(BHPビリトン)に次ぐ生産規模を持つ。

この「ミリオン」とか「ビリオン」などの「巨大数字」が、経済英語を読むときにネックになります。もう腹を括って覚えてください。僕がやったのは、まず日本円に換算してその重みを知る。計算しやすいからドル100円にして、1ミリオンドル(豪でも米でも)=100万ドル=1億円です。100万×100というのが咄嗟に計算しにくいから、もう「1ミリオン=1億円」とキメ打ちして覚える。「一本」って感じ。ミリオネラーは文字通り億万長者(資産1億レベル)。ビリオンはミリオンの千倍だから10億ドルであり、1000億円。ビリオネラーは資産1000億レベルの人ですね。

 巨大数値英語がメンド臭いのは、桁というか位取りが日本と英語で違うことも原因になります。日本は、万→億→兆という位取りを1万集まったら一つ上の単位になるという「万進法」ですが、英語の場合は「千進法」です。1000集まると上の単位にあがる。簿記などでは千進法で表記し、桁3つづつ「カンマ」を打つので英語と同じですが、日本語は万進。だから段々ズレてくるので、「だー、もー、わからん!」とかいう話になる。

 だから最初に覚えちゃう。乱数表みたいにして頭に叩き込んでおく。
 1ミリオンドル=1億円。1ビリオン=1000億円と。ちなみにその上でトリリオンというのがありますよね。1000ビリオンだから1兆ドル=100兆円です。昔、雑談してて「日本のGDPは?」と聞かれて、絶句し、指折り数えてそれでも死んでたものですが。日本のGDPは名目・実質いずれもアバウト500兆円です。だから「5トリリオンドル」になります。ドル100円を修正して80円にしたかったらちょい2割ほど上積みして6トリリオン。日本円で表示すると「500トリリオン円」です。

Rarely has an economic report card been so obsolete the moment it was released.

 発表された時点で既に時代後れになっている経済レポートなど、そうそうあるものではない。

 英語的には、いわゆる「倒置法」というやつですね。しかも強調否定倒置。この倒置構文とかになると中学英語ではなく高校英語レベルでしょう。難しいです。でも慣れよう。
 これ、読むのは段々慣れてくるけど、自分でゼロから英文を作る場合、倒置法を使いこなせるか?というと、今の僕ごときでは難しいです。ましてや、普通に喋ってるときに倒置法で喋れるかというと、もっと難しい。うーん、修行じゃ。

The near-vertical slide in the iron ore price has gouged 40 per cent from Fortescue's share price since the start of July, ripped $1 billion from the worth of its chairman, put it on Fitch Ratings negative credit watch and forced it to shed 1000 staff and wind back expansion programs already under way.

 ほとんど垂直落下のような鉄鉱石の価格下落は、7月以降、フォーテスキュー社の株価を40%も急落させており、1ビリオンドル(10億ドル=100円換算で1000億円)もの損をチェアマン(ここでは前述のフォレスト氏のことか)を及ぼし、格付け機関であるフィッチ・レーティングスをして同社を格下げ方向に見直させ、同社の従業員1000人のリストラを断行させ、進行中の事業拡大計画を白紙に戻させることになった。

 フォレスト一家の苦闘はよく新聞に出てます。検索したら沢山出てくる。

 しかし、なにげに読み流してしまうけど、7月に価格下落があって、9月初旬の時点で、巨大プロジェクトを中止し、もう既に1000人リストラしてるという点は見逃すべきではないと思います。このあたりの決断と実行の早さ。日本企業、てか僕ら日本人の共通癖でもあると思うのだけど、事態がヤバくなっても、つい「根性」で頑張ってしまう。量的ストレスには強いんだけど、質的ストレスに弱い。

 先日も、NECが本社正社員を初めてリストラとか言ってるけど、何を今更のスピードの遅さ。「聖域」とか言ってる時点で、世界レベルからしたら、もう終ってるとも言える。逆に言えば、海外で就職を決める場合、決まったと思っても安心しないこと。かなりの確率で半年後にはクビになってるくらいの考えで、次の手、その次の手を模索することでしょう。

Macquarie Equities says if the price stays that low, BHP Billiton's earnings will fall by a third and Rio Tinto's will halve. It might have to borrow to pay its dividend.

 マッコーリー・エクィティによると、もし鉄鉱石の価格がこの低水準のまま推移するなら、BHPビリトンは売上高の3分の1、リオ・ティントは約50%のロスを被るだろうと発表した。そうなれば、各社は配当金を払うために借り入れを起こさねばならくなるだろうと。

Macquarie Equities:オーストラリアの大手投資銀行
マッコーリー(MacQuarie)という名前はオーストラリアではやたら出てくる。マッコーリー大学はあるわ、辞書といえばマッコーリーとか、シドニーの州議事堂があるメイン官庁通りはマッコーリーストリートだし。ラジオでも、マッコーリーナショナルニュースとかやってる。来たばかりの頃、年中ラジオを聞いて勉強してたけど、やたらこの「マッコーリー」という響きが耳について、また英語発音で虚心に聴くと「まくわ瓜」に聞こえたりするから、最初の頃、「なに、この、まくわ瓜って?」とか思った記憶があります。

 それともかくマッコーリーグループ、オーストラリア経済界の重鎮でもあり、経済ニュースでよく出てきます。投資銀行(イベンストメントバンク)なので、一般預金業務を行ってる普通の銀行=ANZとかCommonwelthなどと違って、一般に馴染みは薄いのですが、でもビジネス系の話題になったら「知らない」とは言いにくい雰囲気ですよね。

BHPとRio Tintoもオーストラリアの巨大企業で誰もが知ってます。これを知らないというのは、日本人で三菱や住友を知らないというような感じでしょう。


Gina Rinehart was said to be the world's richest woman back in May, when the iron ore price was $US145. Unless it recovers from its present level, south of $US90, next year she will cede the title to someone else - most probably the US Walmart heiress Christy Walton.

 鉄鉱石の価格が145(米ドル)の高値をつけた今年の5月には、ジーナ・ラインハルト女史は世界一位の女性富豪になった。しかし価格が回復しなかった場合、つまり90ドル下落まま推移したら、来年に世界一の称号を他の誰か〜おそらくはウォルマートの女性相続人であるクリスティ・ウォルトン女史あたりに譲らねばならなくなるだろう。

It's easy to be beguiled by the drama of a collapse that might always be reversed. The Swiss investor Marc Faber (known as Dr Doom) identifies four mega bubbles in the last four decades, the biggest of which is the tenfold increase in the price of iron ore. He is able to produce a frightening graph making this year's collapse in the iron ore price look like the earlier collapses in the price of gold, the Nikkei and the Nasdaq.

 ここで、結局はその通りにはならない「いつもの破綻物語」に一喜一憂するのは簡単である。
 スイスの投資家マーク・フェイバー氏(「凶運博士」として知られているが)によれば、過去40年間に4つのメガ・バブルがあり、今回のオーストラリアの鉄鉱石は価格10倍という最大級のメガバブルであるという。彼は、過去の3つのメガバブル崩壊、つまり金相場、日本の株式相場(NIKKEI)、そしてアメリカのNasdaq相場のパターンをグラフ化し、今回の鉄鉱石価格下落もそれらのパターンに酷似していることを示してくれた

 このあたりから面白くなってくるのですが、まず最初の一文がヒネリがきいてます。
 beguil(ビガイル)というのは、騙す、気を紛らわす、うっとりする、慰めるという意味。
 "drama of a collapse=崩壊のドラマ"なんて表現もうそうだし、"might always be reversed"なんて文集はネイティブでないと中々書けないと思います。僕なんぞには逆立ちそても無理。だいたいmight(かもしれない)とalways(常に)がヨコに並んでるだけで論理破綻してるじゃんって気がするのだが、だからそれが表現技法なんですよねえ。

 直訳すれば「常に逆転するであろう崩壊のドラマに騙されるのは簡単である」ですが、これじゃ「なんのこっちゃ?」ですよね。このニュアンスを訳すのは難しいのだけど、意味は直感的にピピピと分かります。「結局そのとおりにはならない"いつもの崩壊物語"」としたけど、要はアレですわ、日本における「日本はもう終わりだ」系の話ですね。終わりだ、もうダメだ、大終末といった本が平積みされて売れてるんだけど、それで日本が本当に終った試しがないという。そういう本を読んで「ああ、もう終わりだ」感に皆さん浸りたいんでしょう。ちょっと麻薬的なんですよね。それを指して「ビガイル(騙される、うっとりする)」って言っているでしょう。そして、「常にその通りにならない、”いつもの終末物語”」ってすると、何となくピンときませんか?西欧でもそういうメンタリティはあるのですね。

 次に、"Know as Dr Doom"で吹き出してしまいました。いるのね、海外にも、そういう人。なにかというと「もう終わりだ」と運命づけてしまう。"doom"というのは、これは非常によく使う英単語。マスト暗記。doomsdayといえば「世界の終わりの日」です。「最後の審判」です。

 でも、この凶運博士の言うことも妙にリアリティはあるのですね。
 右は、新聞記事の表をスキャンして取り込んだものですが、過去の3つのバブル崩壊、(不)名誉なことに(?)日本のバブル崩壊も入ってますが、ドーンと上がってカクッと下がるこのパターンが酷似しているという。これだけ見てると、「おおお、そうかも」と言う気になるのですが、「でもなあ」と批判的にも思う。ドーンと上がって、カクッと下がったけど、すぐに持ち直して、あとは同じようなレベルで推移している物事だって他に沢山あるんじゃないのか?上がって下がるパターンだけを並べてみれば、いかにも法則性がありそうだけど、それは法則性がありそうなサンプルだけを最初に見繕って並べているからそう見えるだけって気もしなくもない。

 ただ、この先下がる下がらないは別としても、オーストラリアの鉄鉱石の上がり具合は異様ですよね。これがあるから2008年のリーマンショックも持ちこたえたのだといわれたら、うーむ、そうかもって思う。

The accepted wisdom had been that an extraordinary 18 million Chinese - the entire adult population of Australia - were pouring from the countryside into cities each year. Housing them had required steel, which could only be made from iron ore. The wisdom is being questioned because China's growth is slowing, it has unsold homes and it is closing steel mills.

 一般的に受け入れられている通説はこのようなものである。まず中国においては、1800万人〜それはオーストラリアの全成人人口と同規模である〜が、毎年、地方から都市部へと注ぎ込まれているという事実である。この1800万人を住まわせるための住宅が必要になり、住宅は鉄鋼を必要とし、鉄鋼は鉄鉱石からしか作れない。しかし、この通説は、中国の経済成長が鈍化してきているということで揺らいでいる。いま中国では、住宅は売れ残り、製鉄所は閉鎖されているのだ。

 今更ながらスケールの違いに驚かされますね。都市部では毎年!1800万人人口が増えているという。日本でいえば、毎年東京が1.5個出来ているようなものです。

 僕も最近まで詳しく知らず、中国の工業化が進んでるから鉄鋼、鉄鉱石がいるんだろうな〜くらいの漠然とした理解でした。でも、鉄鋼材を沢山つかう造船とか自動車とかそのあたりの精密メカはまだ中国は遅れているし、そんなに鉄鉱石いるのかな?と思ったのですよね。漠然と。でも、住宅需要でいるのか。他の記事でもあったけど、インフラ整備(道路や線路など)にも要ると。なるほど鉄鋼というのは、工業製品を作ると言うよりも、街そのものを作る局面で要るのか。だとしたら、、、です。

 だとしたら今後中国に限らず、世界のどこでも「都市化」が進むエリアがあれば、やはり鉄鉱石の需要はあるということであり、オーストラリアの輸出先はあるということですよね。ここが次につながっていきます。
 

The Australian Prime Minister's adviser on Asia, Ken Henry, affects an air of unconcern. Asked this week whether the mining boom was over, he reframed the question. ''There are people who would call the boom that is presently under way boom No.2, so maybe the question should be: 'Is boom No.2 over?''' he told a seminar at the Australian National University. ''I would suggest to you that if this really is the end of boom No.2, we will see boom No.3 and we will see boom No.4 and we will see boom No.5 and so on.

 オーストラリア首相のアジア方面アドバイザーであるケン・ヘンリー氏は、心配には及ばないと言い切る。今週、鉱山ブームは終るのか?と聞かれたとき、オーストラリア国立大学のセミナーで彼はこう答えた。「現在の”第二ブーム”をただの"ブーム”と呼ぶ人々がいます。質問は正しくはこうなるべきでしょう、”この第二鉱山ブームは終るのか?”と。もしこの第二鉱山ブームが本当に終るとしたら、第三ブームがまた来るでしょうし、第四、第五と続いていきます。」

''My view is the minerals development projects under way in Australia have a very long way to run. There will be periods of relative weakness but I wouldn't be writing off the minerals development story just yet.''

 「オーストラリアにおける鉱山開発のプロジェクトはまだまだ先はあるのです。それも途方もなく長く。もちろん弱含みに推移する時期だってあるでしょうが、しかし、鉱山開発物語がこれで全て終ったとは思ってません。」

 これは一転して強気論ですよね。たしかに、一理あるのですね。
 世界中が都市化されていくとするなら、鉄鉱石需要は尽きることは当分ない。もちろん、足踏みしたり、弱くなったりという変動はあるけど、方向性そのものは変わらない。多少、中国が息切れしたといっても、そんなことは一過性の問題に過ぎないと。

But in the here and now, the collapse in resource prices is a serious problem. The Reserve Bank governor, Glenn Stevens, drew attention to it in the statement released on Tuesday after the board meeting that decided to shift the bank's interest rate stance from neutral to an ''easing bias''.

 しかしながら、今この現在地においては、やはり資源価格の下落はシリアスな問題である。リザーブバンク(中央銀行)総裁のグレン・スティーブン氏は、火曜日に行われた役員会議のあと、公定歩合についてこれまでの中立的立場から緩和方向にシフトすると発表して耳目を集めた。

RBA=Reserve Bank of Australia は、日本における「日銀」みたいなもので、どこの国にもある中央銀行です。通貨の番人、銀行の銀行。その国の金融政策の総本山。中央銀行のトップ(総裁)はカトリックにおけるローマ法王みたいなもの。したがってその発言にはとても重みがある。アメリカの場合はFRB(Federal Reserve Board)で、現在の”法王”はバーナンキ、先代はグリーンスパンと、誰でも名前くらいは聞いたことのある(でしょ?)人々。

経済に疎いワタクシは、未だに財政政策と金融政策が手に取るように分かっているわけでもないのですが、税金を集めたり予算をつくって執行する「財政」と、公定歩合(金利)を上げたり下げたりして金融緩和(引き締め)をする「金融」とは全然畑が違う。ちょっと前までの日本では、財政と金融両方を大蔵省が握って権限が強くなりすぎたので、これを分割し、財務省と金融庁に分離したのは2001年の話でした。

過去のエッセイでも何度も書いてますが、オーストラリアでは、びっくりするくらい一般市民の公定歩合(通例、ただの金利=インタレスト・レイト=と口語では言われる)に対する関心が強い。上がったり下がったりすると、新聞一面のトップ記事になる。それもそのはずで、ローン(モーゲージという)を組み、しかも変動金利で借りてる人が多いので、金利の上下動は、モロに個人のフトコロに影響する。

 今月あと10万あると思うとちょっと高くても買おうと思うが、今月あと3万しかないと思うとやめとこうかなと思う。だから景気に直結する。いわゆる「フトコロ具合と相談」して、「財布の紐」が固くなったりユルくなったりするのと同じ。英語表現では、”hip pocket-nerve ”という言い方がある。財布を入れているお尻のポケットの神経ということで、意訳すれば「ふところ具合」ですね。

で、話は、オーストラリアの法王であるリザーブバンクのガバナー(総裁)が、今まで中立をキープしていた金利を、下げる方向で考えると発表したわけです。下げたわけではないけど、下げることを検討すると。つまり、この先景気が減速するぞということを、法王自ら公的に認めたわけです。
Iron ore has accounted for 22 per cent of our exports, coal another 16 per cent. The price slump means the nation is earning less from exporting these commodities. Figures yesterday showed exports of metal ores and minerals fell by $181 million in July and this helped widen the trade deficit.

鉄鉱石は、オーストラリアの貿易輸出総額の22%を占め、石炭はまた別に16%を占める。この価格急落は、オーストラリアは国全体として輸出による巨額の利益を失うことを意味する。昨日発表された数値によると、直近7月期において金属鉱資源の輸出額は181ミリオンドル(1億8100万ドル=181億円)減少し、これが現在の貿易赤字をさらに拡大することになる。
Mining tax and royalties from iron ore and coal have been factored into budgets. Western Australia was expecting to raise 17 per cent of its revenue from iron ore royalties this year. The Commonwealth was planning to raise $3 billion a year from a new minerals resource rent tax applying only to iron ore and coal.

鉄鉱石や石炭に対する鉱山税やロイヤリティは、国に予算編成の要素として織り込まれている。WA州は、今年度、これら鉱山税とロイヤリティによって17%の歳入増を予定していた。連邦政府は、鉄鉱石と石炭にのみ課せられる資源貸与税という新税によって3ビリオン(30億ドル=3000億円)の税収増を計画していたのである。

このあたり幾つも政治事情が絡み合ってます。
炭素税というのは、地球温暖化対策のために、排出炭素あたり幾らという税金をかけることで、鉱山系に強くかかり、また電気代の値上がりにもつながり、国民の生活を直撃します。しかし、与党政府としては、やらねばならないことはやるというスタンスを崩していません。

一方、オーストラリア経済においては鉱山系だけが笑いが止まらないくらい儲かり(そりゃあ笑うだろう、あれだけ値段が上がれば)、その余波で国全体が潤っているという構図なんだけど、実際にはそう均等に潤っているわけではない。"Two speed/track economy"と言われているように、国の中にイケイケで盛り上がってる流れと、「ボチボチでんな」という経済の流れがある。そこで政府としては棚ボタ的繁栄をしている鉱山系からお金を引っ張ってきて国中に注ぎたい、だから色々な税制を作る。しかし、鉱山会社は豊富な資金力にモノを言わせて、炭素税がかかると皆はもう死ぬしかないというスケアキャンペーンを展開したりで、ガチでぶつかってました。

 思うに、鉱山ブームを取り去ってしまえば、オーストラリアだって他の先進国と同じくグローバリゼーションで中産層が没落し、貧富の格差が広がってます。オーストラリアの貧困問題は、最近つとに紙面にでてきている。それだけに儲かってる鉱山から国内の割を食ってる層に所得の再配分をしようというのが政府の構図。

 しかし、それらの目論見は、全て鉱山会社が儲かってるという前提の話であり、その前提がコケたらどうなるか?というシリアスな問題があります。ちょっと後のパラグラフでより詳細に語られます。

The chief Australian economist at the Bank of America Merrill Lynch, Saul Eslake, says coal and iron ore matter because they have been major drivers of the economy. ''Households have been cautious about their spending, most parts of the economy have been shrinking,'' he says.

 バンクオブアメリカ・メレルリンチのオーストラリア主席エコノミストである、ソウル・イスレイク氏によると、石炭と鉄鉱石はオーストラリア経済の原動力になっていただけにこの影響は大きいと言う。「世帯においては家計について慎重になるでしょうし、他の多くの経済分野が縮小していくでしょう。」

What's galling to someone concerned about economic management is that they are coming off the boil at exactly the time the government has switched from pumping money into the economy to taking money out.

 オーストラリア経済の舵取りをしている人々を悩ませているのはタイミングである。この資源価格急落は、政府が国庫をからお金を注ぎ込んで経済を活性化させ、いよいよこれから税収という形で取り戻そうという、まさにその時期に生じたということである。

確かに、このタイミングは不運でしょう。リーマンショック以降、せっせせっせと国庫からお金をばらまいて経済を活性化させ、どんどん育ち、さあこれから税収で回収せねばという矢先に、これですからね。間が悪いにも程があるということでしょう。もっとも、だったら何時だったらいいのよ?というと、別に景気が悪くなっても良いとき、というのもないのだけど。

In the two months before the end of the financial year, it showered households with $2.85 billion in carbon tax and school child bonus payments, insulating people from the downturn in national income. Councils received their government payments early. Department store spending climbed 1.2 per cent and 3.7 per cent in May and June, then dived 10.2 per cent in July - its biggest slide in seven years.

 年度が終る最後の2か月の間、政府は、各世帯に2.85ビリオンドルもの炭素税と学童手当の大盤振る舞いをし、所得の低落を和らげようとした。そのためデパートでは5月に1.2%、6月には3.7%も売り上げが上がったのだが、7月になったら10.2%も売り上げが激減している=この落ち幅は過去7年で最大である。


The new financial year has begun with the resources downturn worsening and the government turning the money tap off. Everything has to be cut back in order to achieve the promised 2012-13 surplus.

 (7月から始まる予算の)新年度は、資源価格の低落傾向と政府の支出削減によって始まる。政府の目標である2012-13年度までに財政を黒字回復するという目標のために、全てのことが削減対象になる。

And it will probably have to be cut back more in the budget review due in November. Asked on Wednesday what he would do if the iron ore price didn't recover, Swan said it would make his budget task harder and that he would cut harder.

 そしてこの歳出削減は、11月の補正予算によってさらに厳しくなるかもしれない。スワン財務大臣は、水曜日に、もし鉄鉱石価格が回復しなかったらどうなるか?という質問に、それは黒字回復達成タスクがよりハードになるということであり、より一層ハードな削減をしなくてはならないということだと答えている。

''We are absolutely committed to delivering a surplus in 2012-13,'' he said. ''The government has a proven track record of delivering savings and we remain able and willing to do it again.''

 「2012-13年度までに黒字回復すること、これは絶対に達成すべきものと考えています」スワン財務相は言う。「政府は、国庫を回復させ、それで持ちこたえてきたという既に証明されている実績があります。それをまたやる覚悟はあります」
A former Reserve Bank board member, Warwick McKibbin, says cutting harder when economic activity is turning down is almost a definition of economic stupidity.

 リザーブバンクの元役員であるウォーイック・マキビン氏は、経済が低迷しようというときに政府支出を削減するなど、経済学の定義によれば「愚行」でしかないと言う。

''It's going to actually mean a much bigger slowdown in the economy. Any unit fall in the terms of trade is going to have a much bigger impact because of the feedback from fiscal policy,'' he says. ''What puzzles me is that Swan understood this. He was a Keynesian in 2008-09. In fact, he claims he saved all those jobs by doing what he did. Why wouldn't he be arguing the thing same now, when the terms of trade are falling again?''

 「それは、実際以上に激しい経済の停滞を招くでしょう。どの経済局面における低落も、政府の財政政策によってその被害が拡大されてしまうでしょう」とマキビン氏は言う。「私にはちょっと分からないのだが、スワンさんだってこんなこと位わかってる筈です。彼は2008-09年ときは立派なケインジアンでした。実際、彼はケインズ的財政出動をすることで全ての職を守ると宣言し、そして彼はそのとおり達成したのです。なぜ、今回彼は同じ事を言わないのでしょうか?同じように景気が低迷してきているのですから。」

 ここが経済と政治のジレンマなんでしょうね。
 現在のオーストラリア連邦与党は、ハングパーラメントと呼ばれる少数与党です。インディペンデント(無所属)議員を取り込んで何とか多数を確保しているという、「よく保ってるよな」と感心するくらいの綱渡りをしています。しかも選挙が近い。次は絶対ダメと言われながらも、直近ではちょっと風向きが変わってきて、野党党首のトニーアボット氏の強引ぶりに人気の陰りも見えてきているし、さきの州選挙で与党労働党は軒並み惨敗し、オセロがパタパタ変わるように各州政府が自由党連合に変わったんだけど、それから1年、結局誰がやっても大差ないんじゃないの?という認識もまた微妙に広がっています。

 こういう微妙な政治状況では、連邦与党としては難しい舵取りになるでしょう。スワン財務相が黒字にこだわるのも、さきのリーマンショックで大規模な財政出動が出来たのも、それまでの自由党連合政権時代での長い黒字時代で国庫が満たされまくっていたからこそであり、労働党に任せたらすぐに国庫を空にして国をダメにするという左派政権に宿命的につきまとう批判があるからでしょう。だから何が何でも黒字回復させて、「経済にも強い労働党」という実績を作らないとならないのかもしれません。まあ、推測ですけど。

 しかし、「いいなあ」と思いますよね。国家財政が黒字になるとかならないとか景気のいい話をしてるんですから。

He says Swan should have abandoned his commitment to a 2012-13 surplus as soon as it became clear the global financial crisis hadn't ended.

 マキビン氏は、スワン氏は、世界経済危機がまだ終っていなかったのだということがクリアになっているのだから、掲げている2012-13年黒字回復目標を一刻も早く捨て去るべきだと言う。

''He had a perfect opportunity after the European crisis emerged to scale back his promise on the surplus and say 'circumstances have changed, this is how we are going to deal with them'. Instead, he has held on and held on to the point where he is so locked in to a surplus that his credibility will be damaged unless he can deliver one,'' he says.

 「スワン氏にとっては、欧州経済危機が勃発している現在の状況というのは、過去の黒字公約を撤回して「状況が変わった。かくなるうえは」と皆に説明するパーフェクトなチャンスなのです。しかし、彼はひたすら頑固に黒字目標にこだわっていて、ここまで黒字にこだわってしまえば、もしそれが達成できなかったとき、それは彼の信用に致命的にダメージをあたえてしまうでしょう。」

The Treasurer's determination to return the budget to surplus no matter what will be made more painful by his earlier decisions to fund permanent increases in spending from vulnerable and uncertain mining and carbon tax proceeds.

 この財務大臣の”なにがなんでも”という黒字回復への固い決意は、脆弱で不確実な鉱山と炭素税収をあてにして行った永続的に支出増によって、より痛みを増してくるだろうと推測される。

The centrepiece of the budget, the ''spreading the benefits of the boom'' family payments, will cost about $1 billion a year, each and every year in perpetuity. The boom might end but the payments will continue forever. The permanent cost to government of the superannuation increases was ''funded'' the same way. Pensions and other benefits have also been increased permanently to compensate for a carbon tax under which revenue will be uncertain and looks like undershooting earlier estimates.

 今回の予算の中核をなす、「繁栄の果実を皆に分配する」という家族手当は約1ビリオンの支出を伴う。これは単年度だけではなく、毎年、永遠にかかるのだ。ブームはいつかは終るだろうが、支出は永遠に終らない。同じように永続的な私的年金の増額も、鉱山ブーム頼みである。公的年金やその他の福祉の永続支出も同じで、見通しが不透明で、予期したほどの税収があがりそうもない炭素税頼みである。

there's the National Disability Insurance Scheme and the dental scheme and the Gonski schools reforms. If the government knows how it will fund these on a continuing basis, it hasn't yet told us.

 全国レベルでの身障者の保険制度、歯科保険制度、そしてゴンスキ教育改革案などがある。もし政府がこれらを財政的に賄うに足りる何か策があるのであれば、それは未だ語られてはいない。

 ここがさらに問題ですよね。鉱山系の税収があがるという大前提で、大胆な社会改革や弱者保護政策を打ち出しているのですが、大前提がコケたら、絵に描いた餅になってしまう。そして、前述のようになんとかして黒字回復という、また高いハードルを自分で課してしまっているから、いよいよもって大変なことになるという。

The Treasury Secretary, Martin Parkinson, told a business audience last month that Australia would soon be unable to meet demands for new government spending from the taxes it had.

 財務長官であるマーティン・パーキンソン氏は、先月、財界の会合で、現在の税収からは、政府の新政策案に伴う支出を賄うことはすぐに無理になるだろうと述べた。

''As Australian incomes have continued to rise over past decades, so too has community demand for the government provision of what economists call 'superior goods', including aged care, health, disability, education and social welfare. These pressures will only be exacerbated in coming decades as the population ages,'' he said. ''At the same time, the taxation base is weaker than we had imagined in the mid-2000s. With hindsight, it is apparent that part of revenue collections then reflected a temporary bubble in the economy. The take-out message is that the days of large surpluses being delivered by buoyant tax receipts are behind us.''

 パーキンソン氏はこう述べる。「オーストラリア人の所得は過去数十年、一貫して伸び続けています。同時に、社会からの政府への要求もまた伸び続けています。経済学で「上級財」と言われる、高齢者ケア、健康、身障者、教育、社会福祉などです。これらの圧力は、社会が高齢化する来る数十年、より厳しくなっていくでしょう。しかしながら、同時に、税収の基盤は我々が2000年代中期に予想していたものよりも弱くなっています。今から思えば、それは税収の一部でしかなく、また一時的なバブル好景気だったと言えるでしょう。ここで導き出すべきメッセージは、税収の増大によって財政黒字がもたらされていたという時代は既に過ぎ去った、ということです。」

 ここがちょっと面白いのですが、財務長官といえば政府の高官でしょう?政府が「大丈夫だ、なんとかする」とか頑張ってるすぐ横で、身内ともいうべき長官が「いや無理でしょ」としれっと言ってるという。なんか、日本では考えられないですよね。

McKibbin, an internationally-recognised economic modeller, thinks a public recognition of the problem is one of the reasons the public is reluctant to spend.

 先に登場したマキビン氏は、国際的に有名な経済モデル立案者であるが、こういった問題が世間で広く認識されていることも、皆の財布の紐を固くする一因であるという。

''In our models, this effect is quite big. In the United States, I think it's one of the reasons no one is spending - particularly corporations, even though they've got money on their balance sheets. They don't know what taxes are going to have to rise to fix the fiscal position. They know someone is going to have to pay, so they save a bit more,'' he says.

 「我々のモデルによると、この影響は非常に大きいのです。アメリカにおいては、私見ではこれが誰もお金を使おうとしない一因だと思います。特に企業。バランスシートが黒字になってお金があったとしても、使おうとしない。歳入欠陥を補うため、どういう税金がどこにどうかかるか分からないからです。彼らは知っていますよ、誰かがこの赤字の穴埋めをしなければならないこと。だからせっせと貯めに入るのです」とマキビン氏は語る。

''You talk to a taxi driver in Australia, or go to a pub. You'll find people asking who's going to pay for all this stuff now the boom is over. It is weighing on consumption and it is weighing on investment.''

 「オーストラリアでタクシーの運転手さんに聞いてごらんなさい、あるいはパブでもいいです。このブームが終って、誰がこのツケを払うのかって話してますよ。そういった認識が消費に重石を乗せ、そして投資を鈍らせるのです。」

ここが冒頭でちょっと解説した部分で、皆よく勉強してるからよく知ってるのですね。でもそれが逆効果になって、消費を鈍らせ、さらに景気を悪化させているという。「経済学は心理学」というのは僕が今作った造語だけど、メンタル要素が非常にデカい。巷の経済予測が難しく、そして往々にして大ハズレだったりするのは、この心理予測が非常に難しいからだと思います。なにしろ「皆はどう思っているかを当てましょう」ゲームを全員がやってるので、何かが起きたり語られる度に皆の思ってる内容が変わり、その変わったという認識がまた新たな変化を産み、そしてそれが又、、、という永遠の合わせ鏡のようなものです。

Eslake agrees Swan has placed himself in an awful budget position. But he says it could give him the steel to make important savings.

 イスレイク氏も、スワン氏がとんでもない予算政策をしようとしていることに同意する。が、彼は、この苦しい立場が、重要な制限をするための鋼鉄の骨子になるかもしれないと言う。
''You know the saying 'never waste a crisis'? Well there is all sorts of middle-class welfare the government should be cutting - superannuation concessions, negative gearing, family trusts and so on. Quite often, desirable reforms take place only when a government is prepared to use a crisis to seize the day,'' he says.

 「『危機を無駄に遣ってはならない』って言うでしょう?確かに、中産層に対して政府が行っている様々な福祉手当、それは例えば私的年金の控除であったり、ネガティブギアリング(不動産投資に対する税制優遇)、ファミリートラスト(家族信託に対する税制優遇)などは、幾分かの犠牲を強いられるかもしれません。それに、しばしば、熱望されていた改革というのは、政府が危機を乗り越えるというハードな局面を利用することによって成し遂げられたりもするのですよ」とイスレイク氏は言う。

 今回読んでて、一番感心したのはこのくだりです。

 「never waste a crisis=危機を無駄遣いすることは許されない」って、いい言葉ですね。
 地震や原発で揺れている日本にも、まんま使える言葉です。

 確かに、大規模な改革というのは、平時では難しく、危機のドサクサで一気にやりとげてしまうしかないって機微はあるように思います。

 僕もなんで黒字回復と馬鹿の一つ覚えのように言い続けるのかなと思ってた部分はあるのですが、確かに情勢に「機敏に対応」といえば聞こえはいいけど、軟弱に流されているだけとも言えるのですよね。過保護な親が子供から求められるままアレコレ買い与えているような政策をしてても、国がブヨブヨになってしまって、いつかは破綻する。だから、ダメなものはダメ!と鬼呼ばわりされようが、一本貫くというのは政治の一つの姿勢かもしれないです。

 それに、思ったのですが、ネガティブ・ギアリングにせよ、ファミリートラストにせよ、これって小金持ち中産階級のための制度です。前者はまず家2軒以上もってて、不動産投資でわざと損をして、トータルで課税所得を減らして得をしましょうという制度だから、ある程度資産があっての話。でもそれって誰も彼もが真面目にやってりゃそこそこ資産を残せた時代の遺産みたいなもので、グローバリズムの浸透で中産層が痩せてきて、低所得層が増えてくるとしたら、そういう制度を中核に据えること自体が時代に遅れになっていく。だから、一気に体制をシェイプアップしてもいいかもしれないなと。もちろん遷移期には激しい痛みを伴うだろうけど。

And Eslake says unless the resources downturn is really severe, the RBA might be able to handle it without support from the budget.
''If Wayne Swan's need for a surplus prompts the Reserve Bank to ease monetary policy by more than it otherwise would, then there is probably no harm done,'' he says. ''The serious harm would be if they insisted on keeping [the] budget in surplus in the face of an earthquake like 2008.

 イスレイク氏はさらに続ける。資源価格の下落が非常に厳しいものになるのでなければ、予算編成をいじくらなくても、中央銀行レベルでなんとかできるかもしれない、と。
 「ウェイン・スワン財務大臣が黒字回復を真剣に求めれば、中央銀行も本来以上に金融緩和措置を取るでしょうし、それで収束すれば、大きな痛みを国民に及ぼすことは避けられるでしょう。しかし、2008年の地震(リーマンショック)並のものになって、それでもなおも黒字に固執するなら、国民生活への痛みはかなりのものになるでしょう。」

''Bear in mind one of Australia's strengths is that we are one of only a handful of countries with a triple-A rating and, given that these days the costs of not having a triple-A rating are higher than they used to be, that's not something to be lightly thrown aside. So it depends on the circumstance. If we've got a Lehman's-style shock, a hard landing in China, then my view would be that not only should we let the budget go into deficit but that we should do some stimulus as well - and if that costs us the triple-A rating, so be it.

 「ここでオーストラリアの強さというものを心に留めておいてください。オーストラリアは、いまや世界で一握りとなったトリプルA格の国です。そして現在の状況を考えれば、トリプルA格から落ちたとしても、かつてほど大きな悪影響が生じるというものでもないです。そのことは肝に銘じておくべきでしょう。したがってこれは状況次第と考えるべきでしょう。もしリーマンような衝撃、中国経済がハードランディングするようなことになれば、私の意見は、財政が赤字になるだけではなく、あえて活発な財政出動を行うべきだということです。そして、それによってトリプルAの座からすべり落ちようとも、それはもう甘受すべきでしょう。」

これも一つの見識だと思いました。
確かに、いまどきAAA格からコケたとしても、もうそれほどの大事件ではなくなってますよね。それにそういった格にどれだけの意味があるのか?って気分もあります。格付けの重みそのものが昔ほどではなくなってるような。

ところで、"so be it"って言い方は、よくします。ビートルズの名曲"let it be"と同じような意味で、あるがままにせよ、ほっておけ、くらいの意味です。ただ、"so be it"の方が実際の口語ではよく使うように思います。ちょっと切り口上で啖呵切ってるみたいな、ちょっと吹っ切った言い方。「こんなこと言ったらクビになるって?上等だよ、so be it!クビにでもなんでもしてくれよ」みたいな。「そんときはそんときだよ」「それはもうしょーがないよ」ってニュアンス。

''But in other circumstances that fall well short of that, which is where I think we are at the moment, if you can cobble together a mix of policy changes that includes cutting government spending that is clearly wasteful or misdirected in order to preserve a surplus while also having bigger cuts in interest rates than you otherwise might, and ideally if that also led to a bigger fall in the dollar than otherwise would have occurred, then that's probably a sensible compromise to make.''

 「しかしながら他の状況、リーマンショックほど激しいものではなかった場合ですが、この場合は、我々はひとつの正念場に立たされていると思います。様々な政策をミックスさせて、急ごしらえであっても何とかかんとかやっていけるかどうか。それは例えば明らかに無駄であったり見当外れの方角に向かいつつある支出を削減することで尚も黒字回復への道筋を残しつつ、さらに予想以上の大幅な公定歩合の切り下げをする。うまくいけば実際よりもドル安が促進されるかもしれませんしね。そしてこれらを慎重に見切って妥協を積み重ねていくことです。」

これが一番難しいでしょうね。いっそのこと、リーマンショックレベルにドカンときてくれた方が、何をするにも緊急事態だから仕方がないという、「非常事態の抗弁」みたいなものが使える。でも、微妙にショックがぬるかったりした場合、ガタピシやりながら、政策ミックスでやっていかねばならない。荒野を四駆で疾駆するような、ハンドル捌きが難しそうです。
英語的には、このクソ長い文章(全パラグラフが一文になってる)を訳すのにはコツがあると思います。てか「訳しちゃダメ」だと思う。これは、実際に喋ったまま書いているので、文章構造としては完結してないです。思いついた事柄を思いついたまま並べているだけでトータルでカッチリした文章になってない。でも口語って大体そうです。それを日本語フォーマット「私は〜です」のSOV構文に訳し直そう、後の文章をアタマにもってきて主語にして、、という「訳し上がり」をしようと思ったら死にます。いわゆる「英語脳」というのは、この日本語的訳し上がりをせず、英語的SVOのままダイレクトに理解すること。最初ブツ切りで気持ち悪いけど、慣れます。「二度読みしない」というのは、これが出来るかどうかです。

実戦的には、文章がピリオドで終るまでまってからオモムロに〜というやり方をせず、自分で途中で勝手にピリオド打って、ブチブチ小文に小分けしていっちゃうことです。ダラダラ長く喋ってる場合というのは、向うも一文にまとめようという気はなく、ただ並べているだけ。上の文章を、実際にニュアンスに即していえば、

But in other circumstances(しかし、他の局面になった場合ですね) that fall well short of that(つまりそこまでヒドくはならなかった場合ですけど), which is where I think we are at the moment(この場合、我々はある瞬間(正念場と訳したけど)に立たされることになるでしょう), if you can cobble together a mix of policy changes(幾つかの政策変更を急ごしらえでできるかどうかということです) that includes (それは例えば)cutting government spending (政府支出を減らすことですね)that is (どんな支出かといえば)clearly wasteful or misdirected (明らかに無駄だったり間違ったりしてるもので)in order to preserve a surplus(何の為かといえば黒字を維持するためですよね) while alsoとかなんとかやりつつ、その一方ではhaving bigger cuts in interest rates (金利の大幅な切り下げをやりつつですね)than you otherwise might(本来やるであろうレベル以上の大胆なカットです), and ideallyそして、うまくいけばif that also led to a bigger fall in the dollar (同時に大きなドル安をもたらすかもしれない)than otherwise would have occurred(本来起きるべきドル安以上のドル安です), thenそんなこんなでthat's probablyこりゃあ多分) a sensible (めっちゃ微妙な)compromise to make(妥協をすることになるでしょう).

という感じで、読みながらポンポン意味を確定して、読み進んでいくのです。「あとで〜」とは考えず、その場でもう処理しちゃう。実際出来るし、出来るからこそこういう喋り方をするわけですからね。

関係代名詞のthatとか、ifとか、分詞構文のingとか、whileとか出てきたら、もうそこで文章止めてブチブチ切っちゃう。「関係代名詞は機関車の連結で〜」という文法説明は正しいんだけど、そのとおりやってトータルで処理しようとすると地獄のようになる場合が多い。実際のネィティブが喋ってるときというのは、"that"というのは「次に何を喋ろうか考えている時間」だったりします。thatのところで喋るスピードがガクンと落ちるときがあります。and,,,that,,,(あんだん、、、だったあぁぁ、、みたいに)。その場で思いついたことを適当に並べているだけです。だから、キッチリ訳そうと思っても訳せない。最初からそういう構造になってないんだから。ゆえに、こっちも「ブツ切りでその場で処理」で情報処理していった方が理解しやすいし、そうしないと無理でしょう。

これに慣れてください。慣れれば、長文読解二度読みナシも出来るようになるし、逆に、こういう「ダラダラ喋り」が出来るようになります。最初にカッチリした文章を考えてから喋るのではなく、とりあえず思いついた単語を喋って、そのあと補正しながら、後から後から無限に付け加えていくという英語のしゃべり方ができるようになります。これが出来るようになると、ガクンと楽になりますよ。これが出来るようになって中級。それを洗練させていくのが上級。

The high dollar is bedevilling economic management.
Normally when resource prices climb, the dollar climbs to spread some of the benefits (via lower import prices) and move labour and capital away from competing trade-exposed industries (by making them less competitive).

 豪ドル高は、経済政策においては鬼っ子のような存在である。
通常においては資源価格が高騰すれば、ドルも又高騰してその利益を広げ(輸入価格の低下を通じて)、輸出産業から労働力を資本を奪っていく(より競争力をつけるために)。

最後にいよいよ豪ドル暴落するか論です。まずは豪ドル高(実は円高以上にそうなのですよ)ですが、日本の円高と同じような悩みがオーストラリアにもあります。価格競争力が落ちるから輸出が落ちるという。だから輸出産業部門では、競争力をつけるためのコストカッティング、つまり人減らしのリストラが行われるという。日本だけではない。

When resource prices slide, the opposite is supposed to happen. The lower dollar is supposed to spread the pain via higher import prices and make previously uncompetitive trade-exposed industries competitive again.

 資源価格が下落するとき、その逆の現象が起きる。豪ドル安は輸入価格の高騰を招いて痛みを社会に撒き、競争力で劣後していた輸出産業に再び競争力をつけるようになる。

That's the theory. This time, the Aussie has stayed resolutely high in defiance of convention. Since July 1, the iron ore price has slid from $US127 a tonne to less than $US87. The Aussie remains about where it was on July 1, at a touch about US102¢ (although, in the meantime, it had climbed as high as US105¢). Not only is Australia being denied the government spending shock absorber, it is also being denied the exchange rate shock absorber.

 しかし、これは理屈である。今回、オーストラリア人は、断固としてこういった慣行に反抗している。7月1日依頼、鉄鉱石の価格は127米ドル/トンから87ドルまで下がっている。しかしオーストラリア人のメンタルは、まだ7月1日の段階のまま、豪ドルが102米セントのままである(もっとも、その後豪ドルはさらに105セントまで上がっているのだが)。来るべき衝撃において、オーストラリアは政府の財政出動をショックアブソーバー(衝撃を和らげる装置)として使うのを否定されているだけではなく、為替レートを緩和措置として使うことをも否定されている。

これだけ鉄鉱石が暴落しているんだから豪ドルも暴落して良さそうなものなんだけど、不思議と落ちない。
普通だったら、景気が悪くなったら、通貨が落ちて(輸出力が回復し)、政府が財政支出をして景気を刺激するんだけど、景気刺激は前述の黒字回復で封印されそうな勢いだし、通貨は落ちてこない。

It's been happening because foreigners love our high interest rates and our triple-A credit rating. McKibbin is among those urging the RBA to buy foreign assets with Australian dollars in order to nudge the Aussie down, although there were signs emerging this week that it might not need to bother.

 外国人投資家は、オーストラリアの高い利回りと我々のトリプルA格付けを好んで投資してきた。マキビン氏は、中央銀行に中央銀行に対し、豪ドルを使って海外資産を買うように勧めている一人である、しかしながら、今週の動きをみているとそれほど気にしなくてもよさそうではあるが。

Foreign buying of Australian government bonds fell to its lowest point in three years in the June quarter. The proportion held by foreigners slipped from 79 per cent to 77.5 per cent. Although the iron ore slide itself hasn't hurt the dollar, if foreigners start to believe it will, they could desert it en masse, leaving little holding it up.

 この6月四半期では、オーストラリア国債を買う外国人投資言えは過去3年で最低であった。外国人保有比率は79%から77.5%まで低下した。このように鉄鉱石の価格の下落はオーストラリアドルの下落を招いていないのであるが、しかし、ひとたび外国人投資家がそう思い始めたら、我も我も大挙して売りに出るだろう。そうなってはもう手の打ちようがない。


Brian Redican of Macquarie Group says it could be the Aussie's ''Wile E. Coyote moment''.
''What we are referring to here is the well-known cartoon character who, when he's chasing the Road Runner, frequently runs off the edge of a cliff,'' he wrote to clients.
''Initially, at least, he doesn't fall. His legs are still running as if he is on land and he remains suspended in midair. But then he looks down and realises that there is nothing supporting him and it is only then that he succumbs to the forces of gravity and plunges towards the valley floor.''

 マッコーリー・グループのブライアン・レディカン氏は、「ワイル・E・コヨーテの"あの瞬間"のようなもの」と表現した。
 「我々がここで言及しているのは、あの有名なマンガであるワイル・E・コヨーテが、ロードランナーを必死でおいかけて、しばしば道から外れて崖から転落するような状況なのだ」と彼は顧客へ記している。
 「最初は、少なくとも、彼はまだ転落していない。彼の足は宙を蹴って走っており、彼はまだ宙に浮いている。しかし、彼が下を見て、そして足下には彼を支える何もなく、あとは重力の法則にしたがって落下していくしかないことを認識し、そして遙か谷底に転落していくのだ。」

なんで豪ドルが下落しないの、なんで?不思議だなあ?というのが、ここの骨子です。

そして、レディカン氏の絶妙な表現「ワイル・E・コヨーテの瞬間」が出てきます。これは「言い得て妙」で受けたみたいで、検索したら沢山の記事で引用されてます。「うまいっ!」って感じ。

しかし、上手いも何も、僕らにとっては「ワイル・E・コヨーテって何よ」「あの瞬間って?」「ロードランナーって何?」ですよね。このあたりが英語習得のネックになる、語学なんだか文化なんだか、ただの思い出話なんだからって部分です。

昔だったら死んでたんだけど、今はネットがあって本当に英語の勉強が楽になりました。昔は手持ちの辞書に載ってなかったら、もうそれ以上調べる術がなかったもんね。今は、ネットという無尽蔵の図書館があるので、幾らでも調べられます。だもんで英語習得期間は(特に中上級以上)、15年前くらいに比べたら半分以下に短縮されていると思いますよ、マジで。

 ワイルEコヨーテというのは、なんと戦後まもなくはじまったアメリカのTVアニメシリーズだそうです。で、お調子者のコヨーテ(狼と犬の中間くらいの種、英語では「かいおうて」と発音。"海王手"と覚えた)が、ダチョウらしきロードランナーを荒野で追いかけ回すという話で、要するに「トムとジェリー」みたいなものでしょう。

 で、「あの瞬間」というのは、確かに僕もどっかでよく見た記憶があるが、空中に飛び出たけど、まだ落下せず、「あれ?」と思ってこわごわ覗き、地面がないのに気づいてから、「きゃー」とおもむろに落ちていくという。はいはいはい、知ってる知ってるです。

 右の画像は、わざわざそのための画像まで探してきてくれた新聞記事から拝借しました。画像クリックすると記事本文全体をスキャンした画像になります。また、この記事のURLはココです。


 実際、豪ドル、下がってません。むしろ上がってたりする。
 これが経済のわけわからんところですね。理屈通りいかない。しかし、理屈通りいかないんだったら理屈なんかそもそもいるのか?という気もするし。

 いずれにせよ、これが本当に「ワイルEコヨーテ」的に、本当は暴落しなきゃいけないんだけど、気づいてないからまだ落ちてないという不思議なポジションにいるとするなら、いずれ、外国人投資家達が我も我もで資金を引き揚げ、一気にストンと下がるでしょう。

 これはちょっと興味深いです。どうなるのかなあって。
 冒頭でも書きましたが、今から豪ドルに換える人は、もしかしたら下がるかもしれないから、もうちょっと待った方がいいかもしれません。でも、そうなると決まったもんでもないので、どうかなあ?くらいで見てるといいくらいでしょう。

 本当に下がるかどうか?それは鉄鉱石輸出がこのままバブル崩壊するのかどうか、そしてそれは中国の景気減速がどの程度の規模なのか、それは何故なのかという肝心の部分が、中国的なブラックボックスでよう分からんので結局分からんです。

 普通に考えたら、毎年1800万人も都市部人口が増えているんだから、それが仮に50%減速したとしても1800万人が900万人になるくらいで、そうであっても途方もない数です。成長しないわけがない。一本調子の上りから、たまには階段の踊り場もあるよね程度のことかもしれない。しかし、ここまで成長してきた無理が祟ってきて、ここらで抜本的な対処がいるのかもしれず、そうなると中国の政治経済はオーストラリアのそれとは比較にならないくらい複雑で分からんから、ますますわからんという。

 まあ、どっちを向いても「よく分からん」という結論にしかならないのですよね。当たり前っちゃ当たり前なんだけど。

 ただ、これで本当の豪ドルが落ちて(公定歩合を切り下げ始めたらそうなるかも)、そうなると今世界のマネーは安住の地を求めてさまよえるオランダ人のように彷徨っているらしいので、相対的に安定しているのはやっぱり日本円だということで、またぞろ円高になるかもしれない。そうなると、とりあえず外国通貨で預金している人は、円に戻した時点で差損が発生するから塩漬けになり、景気回復に四苦八苦している日本経済はまたショックを受け、海外シフトがさらに加速されってシナリオになるかもしれず、でも全然そうならないかもしれず、よく分からんです。

 でも、今のところ、「落ちるべきものが落ちてない」という不思議な現象になっているということですね。


On Thursday, the chief economist at AMP Capital, Shane Oliver, spoke of an US80¢ dollar. He said, if needed, it would fall to US60¢.

 木曜日。AMPキャピタルの主席エコノミストのシェイン・オリバー氏は、豪ドルは80米セントまで下がる可能性について言及し、もし市場が求めるなら、60セント台までいうだろうという見通しを述べている。

 まあ、当然、そういう見方も出てきますよね。


 以上、お疲れさまでした〜。
 


文責:田村



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