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今週の1枚(2012/05/21)



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Essay 568 :ナギー(naggee) と ナガー(nagger)

   〜 人間関係における「隠されたテーマ」
 写真は、North Sydney。帰宅ラッシュが始まりかける頃です。だいぶ日も短くなりました。丁度あと1か月で冬至ですね。日本では真逆に夏至になりますが。



 前回「マスコットトラブル」を書きましたが、あれを脱稿してアップロードした途端(ほんとにその3分後くらい)、僕自身の「マスコット」に遭遇することになりました。過去のエッセイに何度か書いてる腰痛です。いつぞやのギックリ腰ほど悲惨ではないですが、「ギックリ」のうちの「ギッ」くらいはいわせてしまいました。いやあ、大して無理な体勢だったわけでもないのに、なるときはなるもんですねえ。「え、うそ?」って。

 「あー、またかよ〜」といういつも感想に加えて、「まんまじゃん」「話が出来すぎてるわ」とも思いました。ま、しゃーないなと、ヘコヘコへっぴり腰で歩きながら苦笑してたら、数日前にこれまた顔なじみのヘビー偏頭痛が「まいど〜」とやってきて、のたうち回るハメになりました。さらに精力的な「まいど君」はカミさんのところにもやってきて、天井灯のトランスフォーマーはイカれるわ、パソコンは立ち上がらなくなるわ、車のバッテリーまでお約束であがるわ。まあ、よく働いてくれます。先週はわりと平和な一週間だったのですが、そうであってもイロイロあります。さて、今週はどんな「まいど君」がくることやら。

 閑話休題。今週は、先週書いてボツにした部分をやります。
 関係はするんだけど、話が違う方向に進みそうで、論旨がボケるな〜と思ってバッサリ切り捨てたのですね。

 それは何かというと、、、

nag

 "nag"という英単語があります。
 あまり入試には出ないと思うのですが、その意味する状況は、僕らの日常生活、いや全人生においてとってもよく出くわすものです。

 日本語に訳せば「小言をいう」「口やかましい」という意味ですが、英単語の常として和訳だけでは意味がよく読み込めないことがあります。わかるんだけど、ピンとこない。どうも収まりが悪いという。

 そういうときは英英辞典でひいたほうがドンピシャで理解できることもあります。英英辞書で評価の高いCobuildをひくと、nagというのは "If someone nags you, they keep asking you to do something you have not done yet or do not want to do., "「あなたが未だやってないこと、あるいはやりたくないことを、やるように言い続けること」です。"She always nags at me to keep my room tidy"(部屋をきちんと整理しろって彼女はいつも言うんだ)。

 "nagging"とING形になる場合も多く、”A nagging pain is not very severe but is difficult to cure"(それほどシビアではないが、なかなか直せない痛み)と説明されています。
 
 nagの本質は、@反復連続性とA精神的影響にあるのでしょう。同義語で"continuous""persistent"が出てくるあたりは連続性や継続性を、"distressing"" irritating"" worrying" が出てくるあたりは精神面への影響を意味しているのだと思います。つまりは「しつこい」、「あーもー、またかよ!」というニュアンスあり、それによってイライラさせられたり、心を乱されたりする。

 つまりは、「だー、もー、うるさいなあ!」というですね。
 この、「だーもー!」感が"nagging"という単語の本質なのだと思います。
 ここまで突き詰めないと一つの英単語を「覚えた」ことにはならず、英和辞典ではそのあたりがボヤけてて、「わかるんだけどわからない」という隔靴掻痒感につながり、コウビルドのように経絡秘孔的・ピンポイント解説をしている英英辞書が重宝される所以でしょう。

 この nag的な状況というのは、子供の頃から誰だって経験していると思います。やれ、「宿題やんなさい」「勉強しなさい」「お行儀良くしなさい」と言われ、職場では「報告が遅い」「詰めが甘い」とか言われ、家に帰れば奥さんや旦那に「帰りが遅い」「無駄遣いするな」だの言われ、実家に帰れば両親 or 舅姑にあれこれ言われ、、、

 多くは人間関係に基づきますが、nagging headache(なかなか去らない頭痛)、nagging fear(心を苛(さいな)む不安)。ソフトをダウンロードして試用すれば「買って登録しなさい」とポップアップの"nagging box"が出てくるし、家電製品やクルマなど機械類でも、なんか原因はよく分からんけど、忘れたころに出てくる「お馴染みの症状」"nagging problem"がある。

 反復して出てきて、その都度心を煩わされることです。このあたりが前回の話につながるのですね。つまりは「まいど君」であり、前回の「マスコットトラブル」です。僕の腰痛や偏頭痛も"nagging problem"です。

最大の"nag"〜夫婦関係

 ところで、"nag"が最もよく出てくる局面というのは、なんといっても結婚・夫婦関係でしょう。

 "nagging"で検索していたら、Nagging in Marriage Is More Common Than AdulteryというWall Street Journalの記事(2012年1月25日付)をみつけました。

 とっても面白い記事だったので、以下に全文を移記しておきます。
 平易な英文ですので、頑張って読んでみてください。一応訳もつけておきました。

Meet the Marriage Killer

It's More Common Than Adultery and Potentially As Toxic,
So Why Is It So Hard to Stop Nagging?

ELIZABETH BERNSTEIN


結婚生活の”殺し屋”とは?
それは浮気よりも普遍的でありながら、毒薬のような恐さをもっている。
人々はなぜ"nag"することを止められないのだろうか?
エリザベス・バーンスタイン

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相互侮辱の悪循環

 一読して、「なるほどね」と思いました。
 わざわざ書かれなくても、ある程度のところは経験的に知ってはいたものの、ここまでナギング行為にフォーカスをしぼって考えたことはなかったので、面白かったです。

 「俺、結婚してないからカンケーないし」と思われる方もいるかもしれないけど、ここで述べられているエッセンスは、結婚している/していないに関係なく、また男女間に留まらず一般の人間関係についても応用可能でしょう。子供の躾、部下や後輩の指導、クライアントへの説明などの教育・教示的な場面についても応用がきくし、対等な人間関係においても原理は同じ。

 要は「口やかましく言えばいうほど逆効果」ということですが、なぜ逆効果になるのか?です。そして、なぜ相手はそんなにガミガミ口やかましく言うのか、なぜ怒るのかであり、逆になぜ相手はこれだけ言ってもやろうとしないのか、それどころか逆ギレしたりするのか?です。

 ナガーとナギー、同じ問題について関わっているように見えながら、実は全然違うテーマを持っているということですね。 ナガーは、自分の重要性をどれだけ認識していてくれるのかがテーマになり、ナギーは自分をどれだけ信用してくれているのかが問題になる。ナガーが口やかましく言えばいうほど、ナギーは自分が信頼されていない侮辱として受け取り、ムカつく。しかし、ナギーがシカトすればするほど、ナギーは自分が軽視されている、侮辱されていると受け取るのでムカつく。どちらの方向からみても侮辱になってしまうという。だからやればやるほどこじれる。

 二人とも同じ駅のホームにいるように見えながら、ナガーは上り番線ホームにおり、ナギーは下り番線ホームにいる。双方とも先に進めば進むほど離れていってしまう。人間関係のヴィシャス・サークル(悪循環)のイチ典型です。

 ここでの教訓を、汎用性を広くするためにさらに純化し、エッセンスを抽出するなら、

 @、人間関係においては、しばしば語られているテーマ以外に、各当事者は「隠されたテーマ」を持っていたりする
 A、表面的なテーマに気を取られ、その隠されたテーマに気づかずにいると相手に対する侮辱になりうる

 ということでしょうか。


 えーと、このあとまだ色々書いたのですが(共感の原理とか)、長いのでボツにしました。
 まあ、今回自体が前回のボツ部分のフォローですので、これ以上増やしてどうする?という。また次回に廻しましょうか、腰も痛いことだし(^^*)。




文責:田村



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