今週の1枚(07.08.13)
ESSAY 323 : サブプライムローン・ショック
写真は、Middle CoveというところにあるHarold Reid Reserveという公園のloockout(見晴らしのいいところ)から眺めるミドル・ハーバー。
正面対岸はSeaforthというManly近くのサバーブ、右手にCastlecrage、左手にCastle Coveという日本人駐在さんが多く住んでるエリア。詳しい位置関係は右の小さな写真をクリックしてください。写真で見る限り、えらく山の中のようですが、実はノースの都心Chatswoodからクルマで10分くらいで着いてしまいます。
この写真は二つのことを物語っています。一つはシドニーのノースの豊かな自然、もう一つはノースを堪能するならクルマを持ってないとツライということです。逆にクルマをお持ちならば、地図とにらめっこしてルックアウトマークのついてある所を片端から廻るといいです。意外なシドニーが満喫できますよ。
そういえば日本は夏なんですよね。もうお盆。また気温も34度とかメチャクチャ暑くなってるところもあるようで、日本在住の読者の方には、何と申し上げたら良いか、お疲れさまでございますm(__)m。ナイターでも見ながら、枝豆と冷たいビールでもキューッとやってくださいませ。いいなあ、日本の夏。
さて、このクソ暑い時期に恐縮ですが、経済の話をします。昨今話題のアメリカのサブプライム・ローン破綻問題と世界への影響です。もうこの時点で読む気が無くなった方が7割くらいおられると思いますが、そんなに難しい話はしません。というか、出来ません。僕だってよく知らないですから。知りもせんのに何で書くのか?といえば、知らないからこそ書くのです。書くともなれば、一応ある程度調べてまとめておかなければなりませんが、この過程が学習には良いのですね。よく「学びたかったら人に教えろ」といわれますが、そのとおり。恥をかきたくない心理も手伝って学習効果倍増。
過去のエッセイのなかにも、こうテの「自分が知りたいから書く」という動機で書いたモノは山ほどあります。最近でいえば、前回の安倍首相もうそうだし、ホライトカラー・エグゼンプションやレバノンだってそうです。インターネット時代の昨今は、こういう調べ物をするのは非常に便利です。やらないテはないという。何となく知ってるようで、実は全然知らないという領域は沢山ありますが、あとで恥をかかないためにも転ばぬ先の杖です。いい年ぶっこいて「こんなことも知らんのか」ってのはイヤですもんね。これ、20代だったら別にそんなに恥じゃないし、30代でもまだ許される余地があるけど、40代で知らなかったら問答無用に馬鹿扱いされますからね。また、年をとるにつれそうやって自分に厳しくしていかないとアホになる一方ですから。
とは言いながら、書くだけ書いたらさっぱり忘れてしまうってこともよくあります。でもって、あとでまた調べたりしてたら、Google検索などに自分に文章が出てきたりして、自分の書いたのを読んで自分で勉強しているというアホな事態もときどきあります。ま、そんなもんです。
さて、このサブプライム問題、そこまでしてまで押さえておかねばならない問題か?というと、YESって気がします。なぜなら、世界経済の動向を復習するいい教材であること。そして、今後の変化をフォローするためのいい基礎になると思うからです。また、日本ではあんまり報道されていませんが、オーストラリアではかなりガンガン報道されています。アメリカと似たような不動産バブルにあるオーストラリアにおいては、今後の動向を考えるための基礎にはなるでしょう。
まず何が起きているか?ですが、世界の株価が下がってます。
NY株式市場では先週の木曜日(8月9日)に今年二番目の下げ幅を記録しましたが、それを受けたオーストラリアではさらにヒドく、金曜10日には6年前の9月11日テロ以来最大の下げ幅を記録しています。同じ日に日本も406円安でTOPIXでは今年最安値をつけています。
まあ、株の乱高下は別段珍しくもないのかもしれませんが、問題はなんでそうなっているのか?今後どうなるか?です。
原因ですが、アメリカのサブプライムローン問題がクレジットクランチ(信用収縮)を起こし、それが世界に広がっているということですが、これだけじゃ何のことかさっぱりわかりません。ここが勉強のしどころですね。
アメリカではここのところずーっと不動産バブルだったそうです。不動産の値段がどんどん上がるので買わなきゃ損というかなりのイケイケムードだったそうです。この傾向を受けて、2000年以降、低所得の人に組めるような住宅ローンが登場してきます。これがサブプライム・ローンで、プライムのサブだから直訳すれば「二流ローン」です。不動産ブームだから、資産が乏しく返済能力が怪しい人に対してでもガンガン貸しちゃってるわけです。審査も甘いが金利も高いという、日本における消費者金融の住宅ローン版みたいなものでしょう。なんせ住宅価格が上がるのだから、仮に全然返せなくなったとしても住宅を差し押さえて売り払えば損はしないだろうという安直さで、ろくすっぽ信用調査もしないで貸していたそうです。こういった流れは、日本のバブル時期にもよく見られた現象ですね。銀行さんが家にやってきて「借りてください」と頭を下げ、ノンバンクという存在が雨後の竹の子のように生えてきたという。
それだけサラ金まがいに無分別に貸し付ければ焦げ付くところも当然でてきます。2005年以降、アメリカがそれまでの低金利時代を脱却して金利を上昇するようになってから、返済不能になる人が急増してきました。
あ、ここで、オーストラリア在住の人はお分かりかと思いますが、オーストラリアでは日本とは比較にならないくらい金利が人々の間で重視され、大きな話題になってます。TVでもやたらインタレスト・レイト、インタレスト・レイトと言ってます。日本では、普通の人達が日銀が公定歩合を上げるかどうかを固唾を呑んで見守っているということはないです。平均的な日本人において「金利」といえば、すなわち「預金金利」であり、定期預金にしておくとどれだけ利息がつくかという問題として捉えられています。しかし、オーストラリアでは住宅ローンの金利の上下の問題として切実な生活問題として捉えられています。RB(リザーブ・バンク=日銀みたいな存在)が金利(インタレスト・レイト)をあげるかどうかで、人々の毎日の暮らしが変ってくるし、お父さんのお小遣いの額にも影響する。先週も金利上昇発表がありましたが、翌日の新聞には”Rates pain(金利が上がって生活がキビシイ)"というタイトルで2頁の特集を組み、今回の公定歩合上昇で月々のローン返済がいくら増えるかという親切な表が載ってたりします。面白いからスキャンして載せておきます。関心の高さが分かると思います。
もう一点、前提として知っておくべきは、日本人は堅実なタンス預金系民族ですが、西欧人はもっとギャンブラーというか、投資(インベストメント)というものを人生や生活の柱として取り入れています。不動産に投資するか、株や債券市場で稼ぐか、どういうミックス割合でどう運用するかというポートフォリオの組み方なんぞは「国民の常識」といってもいいです。子供の頃から教わるし。日本人はわりと「安全確実」なものを貴しとするメンタリティがありますが、こちらではローリスク・ローリターンなだけだったら妙味が無いから人気も乏しいです。日本でも株や投資に詳しい人がいますが、それがこちらでは平均的だったりします。また、株式投資は、株価の上昇だけを考える「投機」だけではなく配当狙いの本当の「投資」だから、株主総会は本来の趣旨どおり「投資説明会」であり、総会屋がうろうろしてるなんてことは構造上ありえないです。このような背景事情もあり、こちらの人は投資や金融関連のニュースに敏感であるし、公定歩合(プライムレート)の上げ下げには日本人以上に敏感です。
さて、そういうこともあり、アメリカが2005年以降金利上昇に踏み切った途端、ドカドカとアメリカ国内のサブプライムローン利用者がデフォルト(債務不履行、支配不能)に陥って倒れていきました。そりゃ、貸し付けの審査基準も相当に甘く、甘いどころか無いも同然みたい感じでイケイケで貸してれば、ちょっと失業したとか、ちょっと何かあっただけで焦げ付きを起こすのは当然とも言えます。
また、サブプライムローンの仕組みも、最初は返済額が少なく、あとでどんどん増えていくというものがあったそうです。日本のバブル時にもそういうのがありましたよね。「ゆとり返済」ってネーミングで、最初の3年は返済額も少なく楽で、4年目以降になると返済額がグーンと多くなる(場合によっては二倍)のだけど、その頃には収入も増えているから大丈夫ですよ、それより今のこの物件を買って値上がりを待った方が得ですよ、というセールス文句で多くの人がローンを組んだものです。都心から1時間半くらいの急行も停まらないような駅の、しかも駅から徒歩15分のワンルームマンションを3000万円で買ったりしたもんです。それもこれも全てが右肩上がりになると思ったからで、実際右肩上がりが続いていれば破綻しないんですよね。でも、そんなに無限に続くわけはないから破綻してドボンになる。バブルが弾けて、景気は悪いわ、物件価格は急落するわ、自分の給料も減るわ(失業しなくても残業代が大幅に減るのが痛い)という状況になれば、「ゆとり返済」も単なる「ゆとりがなくなるよ返済」にしかならず、破綻するという。このあたりの話は、今の30代後半以上の人だったらリアルタイムに知ってると思いますが、それ以下だったら話にしか聞いたことがないでしょう。日本にもそんな時代があったのですね。
さて、同じようなことが2005年以降のアメリカでも起きていたわけです。それが、日本のような怒濤のバブル崩壊、全面土砂崩れになってないのは、バブル日本のように土地神話に基づいた「地本主義」、不動産価格が全ての経済活動の根源であったという経済に構造になってなかったからなのでしょうか。とりあえず、わりと局所的な不動産価格の下落、一部の人が住宅ローンを支払えなくなっていたくらいのレベルの問題でとどまっていました。
それがどうして今日の世界恐慌まがいの事態に発展しているか?です。
まるで巨大な山火事が起きたかのように、今、世界の中央銀行は火消しに必死です。8月10日には、欧州中央銀行(ECB)が金融市場の不安を沈静化させるため、610億5000万ユーロ(約9兆8000億円)の資金を短期金融市場に供給してます。これは前日(9日)に続く2日連続の大規模な流動性供給で、2日あわせて合計で1558億ユーロ超(25兆円近く)に達しています。当のアメリカも大変で、米連邦準備理事会(FRB)も10日に「必要に応じて米金融市場に流動性を供給する」との緊急声明を発表、傘下のニューヨーク連銀を通じ、2回にわたって合計350億ドル(約4兆1000億円)の資金供給をしたようです。日銀も10日には、短期金融市場に即日で1兆円を供給する公開市場操作(オペ)を実施しています。
なんで中央銀行がお金を注ぎ込むことが、この問題の火消しになるのか、そのメカニズムはあとで勉強しましょう。ここでは、世界の金融首脳陣が夏休み返上で走り回っている、とだけ理解しておけばいいです。世界的な問題になっているという。
さて、アメリカのサブプライムローンの会社ですが、2006年くらいからジリ貧になり始め、今年(2007年)になるとバタバタと倒れ始めます。2007年3月13日に大手のニュー・センチュリー・ファイナンシャルがNY市場で取引が停止され、上場廃止になります。3月20日までに倒産のための資産保全を申請した会社は4社、業務停止は20社以上に上ります。ここまでは、無理な貸し出しをしたツケが貸し出した側に廻ってきたというくらいの話で済んでいたといえば、済んでいました。
それが全体に波及していくのが、2007年6月22日で、この日、米大手証券ベアスターンズ傘下のヘッジファンドがサブプライムに関連した運用に失敗したことが明らかになった時点からです。ここで金融市場全体に拡大していきます。
なぜか?ここが最大のポイントです。
答は「金融商品」ってやつです。すごく理解しにくいかもしれませんが、住宅ローンを「債券化して+売る」という方式があるわけです。不動産担保証券というやつで、不動産担保融資を裏づけとして発行された資産担保証券(ABS、Asset-backed securities)の一種です。これでも全然わかりませんねー (^_^)。あはは。これって、要するに「証券ってなーに?」「証券投資ってなによ?」「どうしてそれでお金が儲かるの?」という基本的な部分に関わります。ここが分かってるようで全然分かってないという。
社債というのがあります。会社がどっかの取引銀行から10億円借りるだけだったら普通のお金の貸し借りでしかありませんが、広く大衆に貸してもらうやり方があります。「ウチの会社に投資しなはれ、10年たったら1割単利息をつけてお返しします(だから10年後には2倍にして返す)」と約束して呼びかけるものです。その場合、Aさんが25万円で、Bさんが1万7686円貸して、、とかやってたら面倒臭くてしょうがないです。10億円分を分割して一口1万円ということにします。寄付なんかでも「一口いくら」でやりますから、同じようなものですな。寄付はそのまま上げっぱなしだけど、この場合は借金だから貸した(借りた)という借用証が必要です。それを定型印刷したお金みたいな紙をつくり、一口投資してくれた人には一枚あげ、10口投資してくれた人には10枚あげます。この一口借用証のようなものを債券とか証券とか呼んでるわけです。
「証券」というのは難しく言えば「財産上の権利や義務を表彰した紙券」ですが、ホテルのクロークの番号札のような単に一定の事実(何かを預けた)の証拠に過ぎない「証拠証券」と、財産上の権利行使に関連する「有価証券」があります。有価証券には、図書券、金券、クーポン券などもありますが、特に専門的で特殊な法規制がかかっているのが、手形・小切手、株式(株券)、社債などがあります。
証券にすると何がいいか?というと、やたら便利になるのですね。まず、巨額の原資産を小口分割できますし、持ち運びが容易で保存できるため取引が簡単、取引が簡単になるから流動性が高まり(いつでもどこでも売れる、買える)、そうなると換金が簡単だから価値が上昇するという。 「債券」というのは、有価証券のうち借金(債務)をあらわしているものです。
この債券や証券が普通の借用証と違うのは、返済期限まで待たなくても途中で誰かに売れるということです。10年後の満期に2万円の返済を受ける権利が書かれた紙切れですが、これを今2万円で売っても誰も買いませんわね。だから年利1割として1万円で売り出します。1万円で買ってくれた人に10年後に2万円償還すれば、会社としては年利10%で融資を受けたのと同じことになります。年率10%なんて高金利ですから人気がでます。1年目(あと償還まで9年)だったら、実際は1.1万円の値打ちしかないのですが、これにプレミアムがついて1.3万円で売れたりもするわけです。ではどこで売買するのか?というと、証券会社ですね。というか、社債の発行も証券会社が一括引き受けをして、お客さんに「買いなはれ」といって売るわけですよね。この証券を専門に扱ってる会社が「証券会社」です(金融自由化で銀行でも証券を扱えたりしますけど)。
僕らが日本で買ったりする中国ファンドなんかも、中期国債ファンドですから、国債、すなわち国の借金を債券にしたものです。公社債投信なんてのもそうですね。要するに借金の借用書が小口の紙キレになっているというものです。
しかし、誰でも紙に書けば証券が出来るかというとそんなわけはないです。僕がお金に困り、APLaC債や田村債というのを発行し、自分のパソコンでしこしこプリントアウトしても、まあ誰も買わないでしょう。「1年後には2万円払います」といって2万円と書いた紙を1万円で売っても、つまり年利100%という超高金利であったとしても買ってくれないでしょう。あなたも買わないでしょう。なぜか?僕に信用がないからです。「信用」とは何か?「約束通りお金を払ってくれる見込み、可能性」のことです。それが僕にはない。まかり間違ってもそういうことはないと思うけど、仮にどっかの証券会社が扱ってくれて、APLaC債を店頭で売り出したところで、世間の反応は「APLaCって何よ?」ってことで誰も買わないでしょう。その代わり、国とか地方自治体とか優良企業など「まあ、潰れないで返してくれるだろう」という所の債券は売れます。ガチガチに固いところはよく売れる。しかし利回りも低い。別に金利で釣らなくたって買ってくれるから、定期よりもちょっと高いくらいにしておけばいい。反面、皆がちょっとビビるようなところのモノは、利回りをよくして買わせようとする。ローリスクリーリターンか、ハイリスクハイリターンかですね。
また、こういった債券には市場が立ちます。もっと有利な投資先があるとなれば、証券や債券をかかえて満期まで待っててもしょうがないから売りに出しますし、ろくな投資先がないということになると、ここは堅実に債券でももっていようとかと債券の人気が高まり債券の値段があがります。このように債券の値段は日々変るとしたら、あとはもう株式市場と同じように投機、すなわちバクチが出来ます。債券市場が安い頃に債券を買っておいて、値上がりしたら売れば多くの利益を手中にできます。
さて、不動産担保債券というのは、ある住宅ローンなど不動産売買の返済してもらう権利を債券化したものです。AさんがB住宅金融から3000万円の住宅ローンを組んで新築マンションを購入したとします。BはそのままAさんの利息を含めた返済を月々受け取り、利息分を収入にしてもいいですが、この権利(返済を受ける権利+担保マンション)をセットにして、社債のような債券を発行することも出来ます。
かくしてアメリカのサブプライムローン会社が、自分の持ってる住宅ローン債権と担保不動産をセットにして住宅ローン担保債券というものを大々的に売ってたりします。RMBSと呼ばれるものです。Residential(住宅) mortgage(抵当ローン)-backed(バックアップされた) security(証券)です。この証券や債券を、サブプライムローン以外の金融機関が、数ある投資先の一つとして購入してたりするから、話は一気に世界にひろがるわけです。
この種の専門的な債券は、普通の民間人がダイレクトに買ったりはせんでしょう。あまりにも特殊過ぎてよくわからんし。でも、個人投資家ではなく機関投資家というのがいます。それはヘッジファンドなど投資専門の金融会社、あるいは投資銀行、信託銀行なども巨額の資金を顧客から預かり運用しています。普通の銀行だって有利な貸し出し先、あるいは投資先があればお金を出すでしょう。同じように、保険会社にせよ、年金とか公共の団体でも巨額の資金をもってるところはぼけっと定期預金にするだけではなく、より積極的に運用するでしょう。この「有利に運用」とか「積極的に運用」とか表現されている内容は、要するに世界中のあらゆる物事に投資をするわけです。
その投資先は千差万別であり、自分の国の株や不動産、社債や公債を買うだけではなく、ベネズエラの国債を買ったり、インドのベンチャー企業の株を買ったり、先物相場に手を出したり、円高になると思えば円を買ったり、ドルを売ったりするわけです。今、世界の経済はこういった金融投資の流れで動いています。その規模は実体経済の百倍とも言われています。つまりオーストラリアのロブスターを1トン買ったから代金1000ドルが日本からオーストラリアに送られましたというのが、実際の取引の裏付けのある実体経済ですが、その100倍くらいの規模で「今度はあそこが儲かるらしい」という思惑で、巨額の資金がこの地球を海流のように環流しているということですね。そのあおりをくって、ワーホリに来る人が円安で泣いたりするわけです。
ここまで分かりますか?って、日本でビジネスマンやってる人には欠伸がでるくらい退屈な常識話でしょうが、意外と自分で書いてみると曖昧な知識とかあったりするもんです。自分で書いてて、「ほー、なるほど」とか思ったりして。「クソ当たり前のことをクドクドと、、」と思ってるあなたは、一回自分でも書いてみたらいいですよ。勉強になるっす。
さて、このサブプライムローンが発行してる債券、不動産担保付債券(RMBS)ですが、実際にはこれにさらに二重三重のヒネリがかかります。
ヒネリその1は、RMBSをそのまま売ってないってことです。これがCDOというさらにややこしいシロモノです。不動産担保債券だけではなく、いくつかの他の種類の債券を、幕の内弁当や福袋のように混ぜこぜにして、パックにしてまた証券化するというもので、Collateralized Debt Obligationと英語に直してもよく分からない金融商品になっているということです。資産担保証券と訳されていますが、担保が不動産に限定されなくなってる点で、不動産担保付き証券と違います。
これは何を意味しているかというと、投資家は、サブプライローンによる債券を買ったのだという認識があんまりないし、どのくらい投資してるのかもにわかには分からないって点です。肉まんの豚肉に段ボールが入っていても気付かないようなもんです。CDOという金融商品を購入投資したのは確かだけど、何年何月どこから購入したCDOに問題となるサブプライローン発の債券がどれだけの割合で入ってるかなんて、よう分からんわけです。そりゃイチイチ調べれば分かるでしょうけど、毎日膨大な量を取引してるでしょうから、「う、やばい!」とピンときにくいってのがあります。これは多分に想像ですけど、そんなにすぐには分からんと思いますよ。例えば、中国産のニンジンが危ないってことになったとしても、あなたが過去1ヶ月の間にどこでどれだけニンジンを食べたかなんかすぐに思い出せないでしょう?何を食べたかは思い出せるけど、メニューの中の定食やら仕出し弁当やらのなかにニンジンがどれだけ入ってたかなんかピシピシ正確に覚えているわけないです。
さらに、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)というのがありまして、融資先の破綻リスクを切り出して金融商品に仕立て上げているのものあります。リスクヘッジのためといいますが、「破綻リスクを商品化」というあたりで、僕もついていけなくなりそうです。再保険のようなものだと説明されていますが、そういえば保険だって何かの「リスクを切り出して商品化」してることに変わりはないで、頑張れば理解できなくもないです。
個々の理解はともかく、ここで大事なことは、数年前だったら存在しなかったような新しい金融商品が次々に開発され、駆使されているということです。もうプロでもなんだかよく分からない、、、ってことはないんだろうけど、一目瞭然にわかるって感じではないようです。そして、その新しい金融商品が、例えばCDOだったら1兆5000億ドル、CDSに至っては20兆ドルというとんでもない規模の市場を形成しているらしいです。金融のハイテク化というやつでしょう。これがヒネリのその1。
このヒネリその1の結果として、2007年6月22日には米大手証券ベアスターンズ傘下のヘッジファンドが、サブプライムに関連した運用に失敗したことが明らかになったわけです。ババを掴んでしまったいたことが発覚したと。ここで問題は金融市場全体に拡大します。耳目に新しいところでは、アメリカの野村證券は既に今年の1−3月期に損失400億円を計上していたが、もっと被害が拡大するのではないかという見方から、野村ホールディングスの株価が急落、7月18日には年来発安値をつけています。7月26日の記事では野村の損失は1−6月期で720億円に達し、RMBS事業からの撤退も検討しているといいます。
ドイツでは、ドイツ産業銀行(IKB)が、サブプライム債券投資の巨額損失で経営難に陥り、筆頭株主の政府系金融機関が80億ユーロ(約1兆3000億円)規模の資金支援に乗り出すことが8月2日に発表されています。しかし、IKBは、つい10日前の定例記者発表ではサブプライム債券の崩壊で損失を出していることはないと説明していたわけで、いかに自分のところがどれだけの被害を受けるか当事者にも分かっていないか、です。個々の企業が分からなかったら、それを統括する国家レベルでも分からないわけで、各国の金融首脳部としては何をどれだけ手当てすればいいのか分からんというのがイライラの種でしょう。フランスでも、最大手の銀行であるBNPパリバは、8月9日に、サブプライムローン焦げ付きで生じた混乱を理由に傘下の三つのファンドを凍結したと発表しました。
言うならばウィルスみたいな感じなのでしょうか。サブプライムがヤバいのは分かってるのだけど、それがCDOという宿主に隠れてしまっているから発見しにくい。知らずにCDOを食べて、結果としてサブプライムに感染してしまった会社がバタリと倒れる。その倒れた会社に投資していた別の会社がまた倒れる、そして、、という見えない連鎖があるので、何がなんだかよく分からないでパニックになるという。
ヒネリその2は、信用収縮(クレジット・クランチ)です。
早い話が「貸し渋り」ですね。世界中のあちこちで、こうも優良企業、巨大企業が損失をだし、あるいは突然死のようにバタリと倒産され、しかも一体どこがどれだけダメージを受けているのか未だに全貌がよくわからないという暗中模索の状況では、人々はビビります。迂闊にお金なんか貸せなくなるし、投資も手控えようという気分になります。まあ、それはわかります。「恐いから金を貸せない、信用できない」というメンタリティが市場を支配したとき、信用収縮=クレジット・クランチといわれる現象になります。
しかし、これによって優良企業も企業運営の資金調達が出来なくなりトバッチリをうけます。まあ、どこもかしこも借りられなくなるわけではなく、とりあえずはファンド系の金融機関の資金調達や、サブプライムではない優良住宅ローン会社なども運転資金を貸して貰えず経営難に陥るという観測もあります。
そもそもこれまでの世界経済は「金あまり」状況にあったと言われます。資金調達は比較的楽で、問題はその資金をどこに投資するかだと。ところがビビって誰も金を貸さなくなるとなると、あちこちで資金ショートを起こします。やりかけの仕事もほったらかしになるでしょう。つまり、企業買収をし、リストラをしてから高く売るという投資ファンド会社は、全世界にやりかけの仕事(買収案件)をもっており、それが資金調達が難しくなったら、途中でほったらかしになってしまいます。そうなると買収先の企業の株価が下がるのも勿論ですが、投資銀行自体の経営も危ぶまれるようになるでしょうし、資金調達が益々困難になるでしょう。
このあたりの波及効果がどの程度広がるか、です。
先ほど書いたように、世界各国の金融首脳陣が必死になって巨額の資金を市場に注入しているのは、このクレジットクランチを起こさせないためです。市場で資金が枯渇したら、個々の企業としては血を抜かれたようなものですから、ヘタをしたら1週間くらいでバタっと死んだりしますし、実際突然死してる巨大企業が世界にでてきてます。人間の首を絞めるとどうして死ぬかというと、脳に酸素(血流)がいかなくなるからです。わずか数分酸素が供給されないだけで脳というのは死に始めるそうです。同じように企業における流動資金(運転資金)というのは血(酸素)のようなもので、短期間であってもそれが停まると致命的な結果を起こすことにもなる。クレジットクランチが恐いのはそこでしょう。そして、その個々の企業の集合体としての経済もまた影響を免れないわけで、本格的な大恐慌になってら手も付けられなくなるから、各国首脳は今のうちにお金を市場にバラ撒いて火消しに走ってるというわけでしょう。
ヒネリその3は、株式市場への影響です。これがまたよく分からんのですが、とりあえず先月後半から世界の株式市場はドタバタしてます。しかし、サブプライム問題は去年あたりから言われていたことでもありますし、今年の3月時点でも日本の新聞の経済記事でも取り沙汰されていたくらいですから、寝耳の水のショックが襲ったわけでもないでしょう。それに、一旦急落したあとまた値を戻したりして、どうも債券市場に比べて株式市場は反応が鈍いというか、よくわかってないというか、間接的な感じです。
これは多分、アメリカの低所得者への住宅ローンの破綻というローカルな出来事が、世界経済に波及していくまでの因果関係の見えにくさ、わかりにくさによるのかもしれません。アメリカでテロがあったとか、戦争があったとか、そういう分かりやすい要因があれば株価もビビットに反応するでしょうが、なんせ国内の二流どころのローン破綻ですからね。日本でいえば消費者金融が相次いで倒産してる程度のことでしょう。局所的な出来事に過ぎないっちゃ過ぎないです。だから、これだけ株価が下がっても、「なんで下がってるのかよう分からん」という人も沢山いると思います。
因果関係が見えにくいだけに、今後どうなるかもわかりにくいです。オーストラリアを始め、世界各国で株価が下がってますが、これもパニックに陥ってそうなったというメンタル的な過剰反応だという見方も多いです。多分にそういうキライはあるでしょう。ただし、実体経済においてアメリカの不動産価格が伸び悩んでるのは事実であるし、不動産が上がるからなんとなく気楽になってガンガン消費をしてきたという背景があったわけで(日本のバブルと心理は一緒ですな)、その元の部分がひえてきたら国内消費も落ち込み、ひいては実体経済的にも景気が悪くなり、株価も下がるという見方もありえます。なんせこれまでがイケイケブームだっただけに、一旦それに冷水をかけられたら反応も激しくなるという。
それに、企業買収を盛んに行っていた投資銀行はそのための資金調達としてCDOを発行していたらしく、債券市場の崩壊状態でCDOも売れず、資金難に陥るという点があります。そして、これまでの株価の上昇は、こういった企業買収が激しく行われることによって促されてきたとするなら、企業買収活動がこれまでどおりのイケイケムードでやらなくなった時点で、あるいはそういう観測が広がってきた時点で、株価も下がるという見方もありますし、現に今そうなっていると。
ということで、「風が吹けば桶屋が儲かる」というのが経済原理だとすれば、ローカルで且つハイテク金融商品の破綻という分かりにくい地点から話が始まってますので、何がどう風が吹いてどういう具合に桶屋に向かうのかが分かりにくく、それが株式市場の混迷を深めているような気がします。
最後のヒネリ4は、円キャリー取引と円高傾向です。
ここのところ一転して円高になってきています。対米ドルでもそうですが、対豪ドルでもいっとき105円とか飛んでもないレベルまできてたのが99円まで下がってきてます。トレンドは今、円高ドル安。でも、なんでそうなるの?です。
円キャリー取引というのは、金利がべらぼうに安い日本でお金を借りて、その資金をアメリカなどの世界市場に投資することです。僕だって日本でお金が借りられたらやりたいくらいですよね。今はそのへんの銀行の普通の定期預金の金利が6.2%とかそんなんですからね。日本で3−4%くらいの金利で借金できたら、それをこちらに持ってきて定期に預けているだけで結構儲かりますもんね。
さて、日本で借金をして「こちらに持ってくる」というプロセスの中に、円をドルに換えるという行為が入ってきます。つまり「円を売ってドルを買う」わけですから、皆が同じことをすれば、市場では円が売られ、ドルが買われる状況、つまり円は安くなり、ドルは高くなるという傾向になります。これが先月まで続いてきた円安傾向ですね。オーストラリアや海外に留学、ワーホリで来られる人は、ここのところの円安で泣いておられますが、恨むんだったら日本の低金利を恨んでください。アホみたいな低金利がバブル崩壊後未だに続いてますからね。
ところが、アメリカの債券はヤバいぞ、株式もヤバいぞということなったら、とりあえずここで一旦手仕舞いしようかって話になります。株を売って、そのお金を円に戻して借金を返すわけです。ここで、円キャリー取引の「巻戻し」と呼ばれる現象が起き、今度は逆に「ドルが売られて、円が買われる」展開になるから、円高ドル安になるわけです。
さて、そうなると今度は円高問題が出てくるわけですね。ワーホリの人や海外旅行者は大喜びですが (^_^)、日本人全体としては喜んでばかりもいられない、というか悲しむ人の方が多い。なぜって、円高になれば輸出が伸び悩むわけですから。それに全体の傾向として言えば、円高と日本の株安によって、銀行などの日本の金融機関がババをひく可能性もあります。
以上、あれこれお勉強してきましたが、もちろんこれで全てが分かったわけでも何でもないですし、今後どうなるかが分かるわけでもないです。ただ、ニュースなどに接する場合、「はいはい、なるほど」と頷けるためのベースが多少は出来たかなという程度です。
個人的な問題でいえば、別に右にいこうが左に行こうが、あーんまり関係なんですけどね。投資なんかやってないし、ローンも組んでないし。影響があるとしたら、ここ半年くらいの記録的な円安でお客さんになるワーホリさんや留学生さんが少なくなってきたなってことくらいで、円高に戻ってくれた方が僕としては都合がいいです。が、その影響も多少であり、それほど重大なものではないです。でも、まあ、自分を取り巻く環境くらいは知っておきたいですよね。
あと、思ったのは、アメリカもうそうですが、オーストラリア人も結構ナーバスになってるってことです。なんせ2001年以来最大の下げ幅を記録するくらい、多くのオーストラリア人投資家がパニックに陥ったわけですから。パニックになるにはなるだけの理由と原因があると思うのですが、それは又オーストラリア社会のリアルタイムの心理状況を反映していて、そこが興味深いです。
一言でいえばオージーだって、「いつまでもこんなバブルが続くわけはないよなー」と薄々感じてるってことでしょうね。だから、なんかネガティブな材料があると、「あ、やっぱり」と思ってしまうという。ホラー映画で、モンスターが今出るか今出るかとドキドキしてるときに登場すると「出たー!」って過大な反応をしてしまいますが、そんな感じなんかもしれません。
オーストラリア、シドニーの不動産価格はここにきてまた上昇してるといいますし、貸家の空き室率は極端に低いです。不動産需要バリバリあります。記録的な低失業率は未だに堅調です。過去30年以上、いや一生スパンでも今が一番経済的にいいと言われてすらいるのに、足元に忍び寄る不安って感じなのでしょうか。新聞などを読んでいても、不動産価格の上昇によるマネーゲーム的なリッチさよりも、普通の庶民が家を買えなかったり、アメリカのサブプライムほどではないにせよ、Low Docといわれる、貸し付けにあたり殆ど大した書類がなくても(ロー・ドキュメント)借りられてしまう傾向が問題になってますし、またわずかなことから返済難になり家を取られてしまう(リポゼッション)傾向が紙面を飾るようになってます。さらに、これだけ未曾有の好景気を演出している現政権であるにも関わらず、人気は低迷し、今年後半の選挙が危ぶまれている。
オーストラリア人のメンタリティは、「お金持ちにはなったけど、幸福になったわけではない」ってなところでしょうか。だから、もう、いい加減にしようかムードも社会の深層心理にあるのかもしれません。そのあたりは興味深いですねー。
文責:田村
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