エッセイ320/APLAC 日本とオーストラリアの自転車事情

今週の１枚（07.07.23)

　　ESSAY ３２０　：　日本とオーストラリアの自転車事情

　写真は、シドニーCBD（都心）を疾走するサイクリスト。過去に偶然撮った写真ですが、本題にピッタリはまるので選びました。しかし、結構気合の入ったツーキニスト（自転車通勤者）って感じですね。

　初めてオーストラリアにやってきて、安くて簡単な移動手段として自転車利用を考える人は多いです。しかし、実際に日々自転車を利用している人は極めて少ない。僕も最初は自転車を考えましたが、あっさり「こりゃ、あかん」と断念しました。

　なぜか？というと、①シドニーはやたら坂が多い、それもかなり急で長い坂が多い、②自転車は車道を走らなければならない、の二つの理由からです。
　①の坂ですが、本当に多いですよ。「坂が多い」というよりも、「たまには平坦なところもある」と言った方がいいくらいのものです。それもかなり急だったり、延々坂道が続いたり。ジェットコースターのような坂を見たり、あるいは１～２キロにわたって全て上り坂という場所を見ると「こら、あかん」という気分になる人は多いです。

　②の「歩道を走ってはイケナイ」ですが、これもよく守られていまして、うかつに歩道なんか走れる雰囲気ではない。だから車道を走るわけですが、シドニーの車道の速度制限は標準で時速60キロ、実際には80キロで車が走ってる場所もかなりあります。また、トレーラーとか大型トラックが多い。ああいうバケモノみたいな車両群を見てると、なかなか気楽にサイクリングという気分にはなれません。それに車道の左の路肩部分が狭いので、「車道を走る」ということは事実上一車線を占拠して、後ろの車の通行を妨げながら走るという感じになります。実際、自転車が路上にいるときは、後ろから運転していても自転車の速度に合わせて減速しますし、急ぐときは車線変更します。こちらの人は、そういうことが当たり前だから我慢強く自転車に合わせてついていきますし、クラクションも鳴らしません。でも、自分が走るとなると、日本人の気遣い習性が抜けず、他の車両に迷惑かけてるような気がして気がひけたりします。

　実際、シドニーでは自転車に乗ってる人は少ないです。いたとしても、全身サイクリングスーツとヘルメットで決めた、いわゆるスポーツサイクリスト、アスリート系の人が多いです。あとはせいぜいがシティで宅配便をやってる自転車。また、彼らは抜群の体力と運動神経で走行速度もかなり速いし、車道を走っていてもそれほど車両の通行を阻害しません。競輪選手や、ヨーロッパあたりの自転車競技選手みたいな感じで、「あのくらいにならないと乗れないのね」ってため息混じりに納得します。

　ところで、「自転車は車道を走らなければならない」「でも、子供は例外で歩道を走ってもいい」「ヘルメット着用は義務」というのは、オージーから教えてもらったり、なんとなくの地元知識としてはありましたが、ちゃんと自分で法律をあたって調べたことはありませんでした。いい機会だから、調べてみました。

　NSW州のRTA（道路交通に関する役所）のホームページにいくと、自転車に関するルールを載せているページがあります。Bicycle laws and penalties というところですが、この際、正確を期すべく、全文を引用しておきます。

Bicycle laws and penalties

Under NSW legislation a bicycle is considered as a vehicle. As such, cyclists are required to obey the road rules, including stopping at red lights or Stop signs, Giving Way as indicated by signage and giving hand signals when changing direction. As cyclists have responsibilities when using the road system, they also have the right, like other vehicles, to use the road and be shown courtesy and care by other road users.（NSW州では自転車は車両とみなされる。したがって自転車は車道の交通標識を遵守し、転回の場合は手でその旨表示するなどの義務を負う。と同時に、車道を利用する権利を持ち、他の利用者（自動車など）からレスペクトされる権利を有する）。

A bicycle means a vehicle with one or more wheels that is built to be propelled by human power through a belt, chain or gears (whether or not it has an auxiliary motor) and includes a pedicab, penny-farthing, scooter, tricycle and unicycle. See Australian Road Rules for further information.

Cyclists also have some special rights, which include:（自転車は以下の特別の権利を持つ）
　・Riding two abreast, no more than 1.5 m apart
　・Travelling to the front of a line of traffic on the left hand side of the stopped vehicles
　・Travelling in Bus Lanes and Transit Lanes. However, cyclists cannot travel in Bus Only Lanes
　・Travelling on the footpath where indicated by signage　（★歩道通行可の標識のあるところでは歩道を走れる＝標識がなければ車道しか走れない）
　・Cycling on the footpath if the cyclist is less than 12 years old. An adult, who is riding in a supervisory capacity of a cyclist less than 12 years old, may also ride with the young cyclist on the footpath（★12歳以下だったら歩道を走れる。12歳以下の子供を監督する大人も歩道を走れる）
　・Turning right from the left hand lane of a multi-lane roundabout with the proviso the cyclists must give way to exiting traffic

To be a legal road vehicle during the day, a bicycle must have:
　・At least one working brake
　・Either a bell or horn fitted to the bike, within easy reach and in working order
To be a legal road vehicle at night, a bicycle must also have :
　・Lights fitted and in use when riding at night - a steady or flashing white light that is clearly visible for at least 200 metres and a flashing or steady red light that is clearly visible for at least 200 metres from the rear of the bike（200メートル前から視認可能な白色灯、同距離後方から視認可能な赤色灯を装備すること）
　・red rear reflector that is clearly visible for 50 metres when light is projected onto it by a vehicle's headlight on low beam（50メートル離れても自動車のヘッドライトに反射する赤色反射板を装備すること）

It is compulsory to wear an approved helmet correctly when riding a bike. This applies to all cyclists, regardless of age, including children on bicycles with training wheels and any child being carried as a passenger on a bike or in a trailer.（承認されたヘルメットを着用することは義務）
Failing to obey road or bicycle rules may result in a fine.

　ということで、ちゃんと法律にも明記されているようです。

　ところがですね、「車道を走らなければならない所が日本と違う」と思ってたのですが、最近知ったのですが、原則として車道を走らなくてはならないのは日本も同じだったのですね。

　これは、2007年7月16日付のAERAの「エコに優しい自転車邪魔か／30年ぶりの自転車関連の法改正」という記事を読んでいて知ったものです。記事によると、自転車は道路交通法で「軽車両」とされ、当然車道通行が原則。歩道を通行できるのは「歩道通行可」の標識がある場合に限った特例で、その場合でも歩道の車道寄りを走らねばならないことになっています。しかし、こんな規則は殆ど誰にも知られておらず、皆さん当たり前のように歩道を走っているのが現実（僕も日本にいるときはそうだった）。

　自転車と歩行者の事故は10年間で4．8倍と激増し、アンチ自転車の世論の風当たりも強くなっている。このような世論を追い風に、警察庁は30年ぶりに自転車に関する道路交通法を改正し、今国会に提出しました。「交通量が多く車道が著しく危険な場合は、歩道での自転車通行を認める」という文言を織り込んだもので、逆に言えば「特に標識が無くても歩道を走っても良い」という歩道通行機会を増やすものであり、同時に自転車を車道から閉め出すようなニュアンスもある。

　この法改正に反対する自転車愛好者達が反発し、自転車活用推進議員連盟という国会議員の集まりも警察庁の幹部を説明に招いたそうです。このチャリンコ議員連盟には、元国家公安委員長という警察の親玉のような肩書きを持つ谷垣禎一議員までいるので、警察庁も配慮し、「自転車は車道原則。歩道を走るのは緊急避難的な場合に限る」という文言に修正されました。法案は、先月（2007年6月）14日に可決され、１年以内に施行されます。

　この一連の法改正に関連して、ヨーロッパ諸国の自転車事情が紹介されています。いわく、日本以外の先進国で自転車が歩道を走っている国はなく、ドイツでは自転車道が全国を網羅し、大きな交差点には自転車専用信号すら設置されている。パリには、総延長300キロを超える自転車道がある。日本の場合、もっとも自転車環境整備が進んでいるといわれる名古屋市でさえ、自転車道は36．3キロであり、ドイツ・ミュンヘン市の284．3キロとは比較にならない。

　その他、日本の自転車愛好者達の取材がなされ、自転車事故の８割は交差点で起きるので、交差点での自転車レーンやカラー舗装などの整備が有効ではという意見、パリのようにバス専用レーンと自転車を共通し、バスは25キロの速度制限を設けるのが良いのではという意見、人々の意識改革としてはまず車道原則を徹底させることで自転車のマナーも改善し、自転車の走りやすい街を目指すなどの意見が掲載されています。

　以上は記事の要約ですが、とりあえずウラを取るわけではないですが、道路交通法が結局どう変わったのかサーチしてみました。が、これが意外に手間取ったというか、分からなかったです。改正（案）についてのページは沢山あるのですけど、実際にどういう形で成立したかは不思議なほど見つからない。成立したばっかりの法律ということで、法令検索システムでも更新が間に合わず（5月分まで）、衆議院のページにいっても去年分までの制定法律までしか見つからず、頼みの官報は検索システムが有料になっているわで、結局この国は、今どんな法律が成立したのか国民が無料で簡単に調べるシステムはないんか？たいした民主国家だわ、くそ、と毒づいてしまったわけです。まあ、どっかで見落としているのでしょうけどね。

　結局、自転車の安全利用の促進について　（平成１９年７月１０日／中央交通安全対策会議／交通対策本部決定）PDF版の巻末の「参考２　道路交通法の改正による自転車の通行方法等に関するルールの見直し内容」というのが、一番近いように思います。これによると、

１普通自転車の歩道通行に関する規定
(1) 普通自転車は、歩道通行可を示す標識等がある場合のほか、
　① 普通自転車の運転者が児童、幼児又は車道を通行することが危険であると認められるものとして政令で定める者であるとき、
　② 車道又は交通の状況に照らして当該普通自転車の通行の安全を確保するため、歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき、
には、歩道を通行することができる。
ただし、警察官等が、歩行者の安全を確保するために必要があると認めて歩道を通行してはならない旨を指示したときは、この限りでない。
【該当規定】道路交通法第63条の４第１項

(2) 普通自転車は、歩道の「普通自転車通行指定部分」（標識等により普通自転車が通行すべき部分）として指定された部分については、当該指定部分を徐行しなければならないが、歩行者がいないときは、歩道の状況に応じた安全な速度と方法で進行することができる。
【該当規定】道路交通法第63条の４第２項

(3) 歩道を通行する歩行者は、標識等により普通自転車通行指定部分があるときは、当該指定部分をできるだけ避けて通行するよう努めなければならない。
【該当規定】道路交通法第10条第３項

２乗車用ヘルメットに関する規定
児童又は幼児を保護する責任のある者は、児童又は幼児を自転車に乗車させるときは、乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。
【該当規定】道路交通法第63条の10

　ということで-----、えーと、結局、自転車が歩道を走れるのは、①標識、②児童、幼児など、③車道が危なくてやむを得ないときですね。どこがどう変わったのか前が分からんので確実には言えないけど、②③が追加ってことでしょう。特に③がAERAの記事になっていた「緊急避難的なもの」ってやつでしょう。

　あと、子供の自転車にはヘルメット着用になりました。しかし、「努めなければならない」という「努力規程」ですので、絶対にヘルメットをしろ、してなかったら問答無用で処罰するぞってことではないのでしょう。

　さて、上の記事ですが、これを読むと「なるほどねー」と思ったのですが、「ふうむ、しかしなあ、、、」とまた色々考えてしまったのでした。

　色々と考えてしまうポイントはあるのですが、まず大きな発見は、自転車に関する法規制については、日本とオーストラリアで殆ど同じであるってことです。だって、日豪ともども、自転車は原則車道でしょ、でも子供は歩道を走っていいわけだから殆ど同じじゃないですか。あとヘルメット着用の範囲（大人をも含むか）、義務の強さ（罰則あるか）が多少違うくらいです。

　ということは、法律は殆ど同じだけど、自転車に乗る人が多く、皆さん普通に歩道を走っている日本と、自転車に乗る人が少なく、ほぼ全員ちゃんと車道を走っているオーストラリアとで現実は180度違うわけです。つまり日本の方が全然法律守ってないわけだし、そもそも法律を知らない。弁護士だった僕でさえ、自転車は原則車道ということについては曖昧な理解しかなかったもんね。自転車の交通事故とかで、通行車線が過失割合に関係する事件でも手がけてれば知っていたでしょうけど、一般市民的な感覚では、「自転車が車道を走ったら危ない＆車の邪魔をしてウザったい」くらいにしか思ってなかった。

　そうそう、ちなみに今回の改正案を書いているサイトの中には、「この改正によって自転車は原則車道になった」という真逆な理解をして書いているものが結構ありました。違うでしょ。「原則車道になった」のではなく、もともと原則車道であり、その原則に対する例外（歩道通行可能な場合）が増えた、むしろその車道での通行が制限されつつあるってことでしょう。でも、これ、プロのライターさんや、毎日新聞なんかでも誤解してる（ように読める）文章がありました（たとえばココ、あるいはココ）。プロのライターやジャーナリストが、特にこの問題を取り上げて執筆していた場合でさえ正確に法律を理解していないんだから、一般市民が全然誤解してる or そもそも知らんというのも無理ないですね。

　なんで日本とオーストラリアでこうも違うのか？これは非常に興味深い問題ですが、美味しすぎるので後にとっておきます (^_^)。

　ときに、今回の改正の動きや記事を読んでて、「あれ？なんでそうなるの？変じゃん？」って思いませんでしたか？

　というのは、記事によれば、歩行者と自転車の事故が激増していて、歩行者に対する脅威として自転車に対する風当たりが強いという時勢があるわけですよね？だったら自転車の原則車道を徹底させ、歩道から閉め出すべきでしょうが。ところが改正は全く逆の方向を向いている。車道原則に対する例外＝「歩道を走っても良い場合」を広げている。歩行者と自転車の事故激増状況を減らしたかったら「歩道を走るな」とすべきであり、「もっと歩道を走ってもいいよ」と言わんばかりの今回の改正は、「もっと事故が増えて、歩行者が負傷してもいいよ」と言ってるのと同じでしょ。そうは明確に言ってないけど（当然だけど）、ベクトルとしてはそうでしょ。

　こんなの子供でもわかるメチャクチャな論理展開なんだけど、これだけ無茶な理屈をあっさりを言われると逆に気付かなくなってしまうのか、コメントのしようもなくなってしまうのか、AERAの記事でもこの点はボカして書いてます。「自転車に厳しい世論の”追い風”を受けての法改正だったわけだ」と書いてるけど、なるほど徐行義務とかヘルメット規程なんかはそうかもしれないけど、歩道走行拡大は真逆であり、世論は追い風どころか向かい風です。でも、記事ではここを突っ込んでない。まあ、スペースの関係もあるし、ここを突っ込みだしたら泥沼になるから書けなかったのでしょう。でも、これだけ平然と真反対な論理を言われると、プロのライターさんも幻惑されて「今回の改正で原則車道になった」と正反対な誤解をしちゃったとしても無理はないです。

　意外なことに、このクソ当たり前なツッコミをちゃんと書いてある記事やサイトは少かったです。ちゃんと突っ込んでいるのは、この問題を真面目に捉えているサイクリスト達であり、有名なところでは自転車通勤を提唱実行している（ツーキニストと自称しておられる）疋田さんで、彼のメルマガに今回の改正の問題点が指摘されています。　同メルマガには、「だいたいだね、「（主に歩道上の）自転車が加害者としての事故が激増している」という現実をとって、その解決策を「歩道上の自転車解禁」とする、というのは、誰がどう考えても矛盾だろう。矛盾、というより、間違っている、というより、本末転倒、というにも足らず、ただ単に知能が低いとしか思えん。」と指摘されています。一連の改正騒動の背景や将来像に関するコメントとしてはこれが一番よく言及されています。また、東京第二弁護士会でもこの点を突いた意見書を提出しており、今回の改正案に対する考察としては、僕がパーッと見た中では、これが一番よく検討されていると思います。

　しかし、歩道の暴走チャリに批判的な”世論” とやらが高まっているならば、疋田さんのような自転車愛好者サイドではなく、まずもって歩行者である”世論”がこの改正に大反対していなければならないはずです。でも、そんな空気は全然ない。なんでないの？そもそも、本当にそんな”世論”なんて実在するの？って疑問になってきます。

　ただし、警察庁側の弁護をするとするならば、多分こういうことだと思うのですよ。確かに車道原則だけど、ママチャリや子供自転車などの実情からすれば、一夜にして彼らを歩道から閉め出すのは無理。しかし、車道通行規則がこうも無視されている状況もおかしいので、まずは法律を現実に近づけ、歩道通行を合法とする場合を以前よりも広く認めつつ、歩行者と自転車の共存関係を計っていくのが現実的な対応だろう。仮に自転車の歩道全面禁止と決めたところで、現状のようにまるで無視されてしまうだろうし、これを日本全国でイチイチ取り締まることは現実問題不可能である、と。まあ、それはそれで分からんでもないです。

　さらに付言すると、道路に関するお役所は、道路規制は警察庁（法務省）、でも道路を造るのは建設省、それを管理するのは運輸省、さらに各自治体（＆自治省）が入ってきてグチャグチャになっていたというのが従来のいわゆる「縦割り行政（の弊害）」と言われるものでした。法務省が道路交通法を改正しても、その改正を実のあるものにするための道路建設がなされない、自治体が動かない、結局絵に描いた餅で莫大な税金の無駄遣いをしてたわけです。それを正すために、2001年に省庁再編成を行って、マンモス機関・国土交通省となったわけですよね。さあ、今回の道交法改正によって、自転車レーンが急ピッチで整備されるとか、標識が立てられるとかその種の連係プレーが行われるかどうかです。国民として（そしてその代行者としてのマスコミが）監視すべきはそこだと思うのですよ。結局、省内セクト争いや粗雑な連携プレーだったら、省庁再編成とは名ばかりで、巷間非難されている「ホチキス再編成」だったのねってことになります。でもって、法改正の説明のサイトはあるけど、６年前の省庁再編成を実感させるような動きはあんまり見あたらないし、マスコミ等でも省庁再編成の実効性を検証しましょうという動きもない。本当は個々の自転車問題なんかよりも、この点が一番大事な点（国家行政の根幹に関わる部分）だと思うのですが。なんで、誰も気付かないのだろう、言わないのだろう。

　さて、自転車というのは、車道を走れば自動車の邪魔であり、歩道を走れば歩行者の脅威であるということで、どっちに転んでも叩かれる哀しい立場にあります。道路には車道と歩道の二つしかなく、道路利用者は自動車、自転車、歩行者の３者がいるわけで、「二つの椅子に３人が座る」ということですから、根本的なところでムリがあります。この無理を解消しようと思えば、椅子を三つに増やすこと、つまり自転車専用レーンを拡大することしかないでしょう。

　一方、自転車は、温室ガスも出さず、石油資源も消費しないエコロジーの超優等生であり、自転車利用の奨励は世界の先進国の潮流ですらあります。また、運動不足の解消→健康増進→医療費や老後の介護費の抑止という意味では、個人と国家にとってメリットの大きなものでもあります。世界的な正義はむしろ圧倒的に自転車側にあるといってもいい。

　よって、この基本的な事実から論理的に出てくる方策は、自転車レーンの飛躍的拡充しかないでしょう。歩行者の脅威問題は「車道通行の励行」「歩道通行禁止の徹底」によって解消されるべきってことになるでしょう。秦の始皇帝のような絶対的な独裁者が居て、現存する車道の１車線を強引に自転車レーンに変えて、自転車レーンを走る自動車は即死刑、自転車レーンを走ってる自転車にクラクションを鳴らしたドライバーはその場で射殺、歩道を走る自転車も即死刑！ってな具合に徹底してくれれば、一夜にして問題は解決するでしょう。自転車だってトロい歩行者がうようよしている歩道よりも、自動車に気兼ねなく悠々と走れる自転車レーンを走りたいだろうし。また、そうなれば自転車利用者も増え（実際、都市部の移動手段としては自転車が速い）、路上の自動車も減るだろうから（自転車が増えるスペース増と自動車が減るスペース減を差し引けば）、結果的に交通渋滞はむしろ緩和される。

　といっても、そんな始皇帝のような独裁者はいないから、ゆっくり改革していくしかない。改善速度の遅さは民主主義の宿命だから仕方ないにせよ、根本的なベクトルとしてそっちを向いているのか？っていえば、まあ、向いてないですよね。ヨーロッパのように自転車に優しく、自転車のステイタスが高い社会にしていこうという方向にはなっていないし、そっちを目指そうという意思は今回の改正からは感じられず、また世論やマスコミからも感じられません。唯一自転車愛好者の皆さんが声を出しているだけって感じでしょう。その意味では、日本がヨーロッパみたいになる日は遠いと言わざるを得ない。絶対無理！とすら投げ出したくなるくらい。

　どうして日本はこうなってしまうのか？なんでヨーロッパみたいにならないのか？なぜ、日本人は車道原則の自転車が歩道を爆走し、正しく車道を走ってる自転車を自動車は尊重せず、誰も法律を知らず、誰も法改正にツッコミを入れず、社会をより良くしていく大きなビジョンも持たず、語らず、共有せず、実行せず、ひたすら自分さえ良ければいいんだと言わんばかりの行動に出るのか？日本人というのは、将来像を描く知能も持たず、それを行動に移す実行力も持たず、遵法意識も低いという、要するに頭が悪いエゴイストの集まりなんか？って気もするわけです。

　もちろん話はそんなに単純ではないと思います。個々人の生活習慣や態度からすれば、日本人よりもヨーロピアンの方がずっと自己中だったりする局面も多いわけですし、均一的でムラのない知能水準（例えば文盲率の異様な低さ）からしたら日本は世界でもかなり高いレベルにあると思います。個々人の資質にそんなに問題はないとしたら、何がイケナイのか？

　オーストラリアの自転車事情は日本とヨーロッパの丁度真ん中くらいにあると思います。ヨーロピアンがオーストラリアに来ると、なんて自転車が乗りにくい社会なんだとブーブー言うようだし、シドニーでも自転車レーンの整備度はお世辞にも高いとは言えません。結果として自転車を利用する人は異様に少ない。

　その代わり、オーストラリアの自転車で歩道を走ってる人は非常にマレですし、走るんだったら即通報されたり、その場で注意されたりする覚悟が必要。僕はオーストラリアに13年住んでいますが、未だにママチャリ的な自転車を見たことは一度もないし（売ってないし）、自転車の二人乗りをしているのを見た記憶もありません。歩道を歩いていて自転車の脅威を感じた記憶もない。また、車道を走る自転車に対するレスペクト度は日本よりもずっと高く、自転車によって減速を強いられた自動車が自転車を煽ったり、クラクションを鳴らしたりする光景はマレです。多分そういう状況だってあるんだろうけど、毎日車に乗ってる僕の記憶にはないですし、こちらで車を運転するときは歩行者と自転車には非常に気を遣います。

　総じて言えば、オーストラリアにおける自転車は、日々の移動手段というよりは、ローラーブレードやヨットのようにスポーツ＆レジャー器具である場合が多く、休日になると四駆の後ろに子供用自転車を括り付けて家族でレジャーに出かけるという姿が一般的です（自転車を括り付ける棒も売ってる）。もしかしたら、ヨットやボートを持ってる人の方が自転車を持ってる人よりも多いかもしれないってなもんです。だからこそ、問題が少ないのかもしれませんね。そもそも乗ってる人が少ないんだし、乗ってる人はガタイのいい競輪選手のようなスポーツマンタイプが多く、車道をかなり高速で走行するから自動車との摩擦も少ない。ちなみに、オーストラリアの自転車競技は世界的に非常に強いです（よくメダルをとってる＝トラックレース・マディソンの部ではシドニー五輪、アテネそれぞれ金メダル二連覇、トラックレース・ケイリンの部ではシドニー銀、アテネで金＆銅、）。

　一方、日常の足としてはあまり普及していないわけで、エコ的には伝え聞くヨーロッパの状況には全然及びません。皮肉な言い方をすれば、日常の足として普及するだけの自転車環境が整ってないから、誰も自転車に乗ら（れ）ず、自転車問題も起きていないと。放置自転車の問題など皆無です。

　日本だって皆が法律を守っていたら、気合の入った自転車野郎以外はほとんど誰も自転車に乗れないから、そもそも自転車問題も起きていないでしょう。では、なぜ日本では皆が法律を無視して乗っているのか？ですが、一つには遵法意識が希薄だってことがあるでしょう。これは日本だけの問題ではなく、アジア諸国全体の特徴であり、おおむね先進国になればなるほど遵法意識は高くなる。でも、西欧諸国には劣るとはいえ、世界全体で見れば日本人の遵法意識はそれほど低いものではない（例えば、ワイロを贈らないと何一つ物事が進まないというわけではない）。だから、遵法意識や民主主義の徹底度合という問題はありつつも、それだけではない、なにか他のファクターがあると思います。

　こう考えることは出来ないでしょうか？なぜオーストラリアではそんなに自転車に乗らないでやっていけるのか、なぜ日本では自転車がそれほどまでに必要とされるのか？です。オーストラリアよりも日本の方が、どうしても自転車を使わざるを得ない事情があるのではないか？

　ここは中々難しい問題で、客観的にいえば、日本の方がはるかに公共交通機関は整備されています。シドニーの電車網なんか大きな政治問題になっているくらいのヒドさです。バスは割と整備されているとはいえ、まあ、日本といい勝負くらいでしょう。自動車の値段は、これはもう日本の方が全然安いでしょう。特に中古車の値段は日本の方が格段に安い。そういった環境だけで見ていれば、日本よりもオーストラリアの方が自転車に乗りたくなってしかるべきです。

　次に交通渋滞という問題があります。日本の交通渋滞の方が激しいから、とてもじゃないけど車なんか利用していられず、自転車が多く利用されるという仮説です。確かに日本の渋滞はヒドイものがありますが、シドニーだって場所によっては結構ヒドイ。確かに住宅街などは混んでいないけど、それは日本だって同じでしょう。日本でも混んでいるのは国道○号線とか○○街道といった幹線道路であり、あるいは駅前周辺です。そして幹線道路がいくら混んでいたとしても、だからといって自転車というオプションに向かう確率は低い。なぜならこれらの幹線道路利用者は中長距離が多く、ツーキニストのように気合の入った自転車利用者以外はそれほど使わない。また、日本で自転車密度が高いところは必ずしも道路渋滞が激しいところではない。例えば自宅マンションから近所のスーパーへの買物、学校、通勤の拠点になる駅までというルートで人は多く自転車を使う（＝駐輪場があったり放置自転車が多い場所）が、交通渋滞を避けるということが自転車利用の第一の目的になってるかどうかは疑問です。それに、ある程度の距離の迅速移動を目的にするなら、自転車よりも原付やバイクの方が好ましい。

　日本でどういう人が一番自転車に乗っているか考えてみると、通学に利用する中高生であり、近所の買い出しや子供の送り迎え、あるいは朝晩の通勤途中のターミナル駅と自宅の間に利用する場合でしょう。中高生にはそもそも車というオプションはないし、近所への買い出しは駐車場が十分に整備されていない。買い出しだって地方都市のように十分に駐車スペースが用意されている場合は自動車利用者が多いでしょう。そして、歩道を高速で駆け抜ける暴走チャリ系は体力の有り余ってる中高生世代が多い。また、いわゆる買物系ママチャリの場合、無灯火で走るわ、ベルで歩行者を追い散らすわ、マナーの悪さを指摘する声は多い（多分にイメージ先行という気がするが）。

　そういえばオーストラリアでは、中高生が自転車に乗って通学している光景というのは殆ど見たことがないです。また、前述のようにママチャリという存在自体がないです。いわんや、前後に子供と買物の荷物を乗せ、ホルダーに傘を固定してという完全武装のママチャリなんか、オージーには想像もできないでしょうし、そんな姿で歩道を走ってたら、他人に話しかけることに全く気兼ねのないオージー達から集中砲火を浴びるでしょう。

　ああ、なんか段々分かってきたような気がしますが、要するに日本の自転車の特徴は、これらのガキチャリとママチャリなのかもしれませんね。日本人の自転車保有台数はメッカである中国を越えてるらしいし、一人一台らしいです。なんでこんなに自転車が普及しているのかというと、誰でも気軽に乗れるお手軽さが良いのでしょうが、誰でも気軽に乗るから、「車両」としての自覚も、知識も、技術も、マナーも乏しく、それがゆえに問題を引き起こしているって部分はあると思います。オーストラリアでは（あるいはヨーロッパでは）、自転車に乗るためのハードルが高く、ある程度の体力と運動神経、交通知識がないととてもじゃないけど車道を走れない。要するに日本で言えば原付以上の中型バイクに乗るくらいの根性と気合が必要なのでしょう。仮に日本がヨーロッパのように自転車ステイタスが確立した社会になったとしても、ガキチャリ、ママチャリはそこで自転車に乗れるのか？というと乗れないでしょう。

　でも、日本のチャリだって無責任体質だから乗ってるだけではない。乗るための必要性があるからこそ乗っているのでしょう。ママチャリという一つの“文化”というエッセイに鋭い考察が載せられていましたが、時速12キロという本格的な自転車からしたら超トロいスピードだとしても、歩く速さの4倍はあるのであり、徒歩１時間が15分で済むという恩恵は巨大です。また、自転車には移動を迅速にするというスピードアップ機能の他に、重たい物でも持てるというキャリアー機能があります。幼児を抱っこして、数キロの買物袋を下げながら１時間歩けというのは僕だってイヤですよ。でもチャリだったら、そのくらい結構スイスイ出来てしまう。かなり重宝しますよね。

　じゃあ、なんでオーストラリアでは、ガキチャリやママチャリの需要がないのか、あったとしても抑えきれるのかというと、ママチャリに代替するものといえば、車 or 徒歩 or 乳母車（プラムという、”ベビーカー”は日本語）です。でもって、これらに対する社会の保護が高い。まず車で行く場合、スーパーの駐車場の最も便利なパーキングロットには、お年寄り、身体の不自由な人のほか、乳母車利用者のための専用になってます。そのどれにも該当しない僕らは、「くそお、あそこ空いてるのになあ」と思いながら遠いところまで停めなければならない。そしてこれで駐車違反の切符を切られた場合（Disabledの証明書を出しておかずに駐車した場合など）、通常の駐車違反の２－３倍の罰金を取られます。とりあえずのカッコつけのキレイゴトでこういう区分にしてるだけではなく、かなり真剣に守らせようという気合が入ってます。また、バスもバリアフリー式のものが多く、乳母車の乗車を皆が嫌がらずに助けるという風潮がある。階段なんかではまず誰かが助けてくれますよね。電車に乗るときも同じです。それに夫婦で歩く場合、乳母車を押すのは大体男ですね。

　徒歩についていえば、こちらの住宅街は人が少なく、緑が多く、公園もまた多く、結構呑気に歩ける所が多いし、歩いていても気持いい。それに基礎体力が全然違う。オーストラリア人（ヨーロピアン）の女性の骨格筋肉は日本人（アジア人）の男性と同じだし、スポーツクレイジーな国だから同年齢の日本人よりも10歳以上は若い運動能力を持っているでしょう。まあ、体力は遺伝的なものだから仕方ない部分が多いとしても、子供やお母さんに対する社会の眼差しの優しさとサポートは、オーストラリアの方が高いと思われます。日本のママチャリ側を弁護するとしたら、こういった社会環境の差というのは非常に大きいと言えます。ママチャリを非難するなら、代わりに旦那が買物しろ、旦那が保育園の送り迎えしろ、企業は従業員にそれをやらせるだけの時間的余裕を与えろ、それを破った企業は労働裁判で会社の屋台骨がへし折れるくらいの賠償金を払わせろ、さらに乳母車で電車やバスに乗っても皆で助けろ、迷惑そうな顔をした奴は即死刑！くらいの気合で、全力でサポートしてからの話だって気もしますよ。

　ちなみにガキチャリの面ですが、こちらの場合16歳で車の免許が取れますから、移動の必要性がある高校生はもう車利用になるケースが多いです。大体お父さんがついて、個人売買で安い車を一緒に買ってきて、乗らせて、修理のやり方なんかを教えたりします。また、大学に行かない場合は高校１年で卒業しちゃうから、高校２－３年生の絶対数が少ないし、この世代は進学コースだから勉強もかなりハードです。あと、中学高校の場合、放課後に残ってクラブ活動とかいうケースが少ない。一旦家に帰ってそれから別のグランドに集合とか、場所を変える場合が多い。せーので下校するので、スクールバスがよく利用されています。16歳で卒業、免許、18歳で卒業、自活って感じだから、一本立ちできないうちは親が送り迎えなど結構面倒見るし言うことも聞かせるけど、早く大人世界に放りだして「あとは自分でやりなさい」ってする、そのあたりの事情の差ってのもあると思いますね。

　もう一点、補足するとするなら、オーストラリアって全体ののんびりしてるから、セカセカ移動時間を短縮しようとはあんまり思わないって部分もあるのかもしれないです。これはエッセイでも良く書いてますが、10分や20分歩いていても別にそんなに退屈に感じないのでしょう。日本に帰るといつも思うのだけど、刺激的な情報が一定の早さで流れてないと、退屈で退屈でたまらんって部分があります。僕なんかセッカチだったから、平均的な日本人のペースですらイライラしてましたもんね。日本一セカセカしている大阪ですら、歩いていて他人を追い越すことはあっても他人に追い越されるってことは滅多になかった。「もっとチャッチャとやらんかい！」という感じで、エレベータの「閉」ボタンを押すスピードは誰よりも速いという (^_^)。

　でも、こっちに住むと、そこがガラッと変わるんですね。もう人格が変わったみたいに「別にそんなにセカセカ急いで何が待ってると言うのさ？」ってな感じで、エレベーターの閉ボタンも押さないで放置したり（どうせ数秒後には閉まるから）、車乗らないのだったらもう歩こう、10分や20分程度歩くのはそんなに苦でもないしってな感じで、多少の時間を惜しがって自転車にしようとはついぞ考えないです。自分が車を運転してて、渋滞に巻き込まれても、前の車が縦列駐車をやるときに待っていても、前に自転車が走っていて減速を余儀なくされても、日本にいるときよりは遙かにリラックスしてます。そのあたりの精神的な部分が、日本とオーストラリアではかなり違う気がします。

　日本にある僕の実家は京都駅から徒歩20～25分くらいの微妙な位置にあり、最初に帰省した頃はこの距離をトボトボ歩くのがかなり苦痛で、自宅の自転車を使ったりしてたのだけど、かなりオーストラリア人化が進んでくると、20-30分くらいの徒歩移動だったら別に屁とも思わなくなりました。あんまり退屈だとも思わないし、体力的に辛いとも思わない。

　このあたりの精神と体力の差ってのもあると思いますが、これはもっと社会構造や人生のあり方、価値観など複雑なファクターの産物なのでしょう。

　以上、ツラツラ述べてきましたが、こんなのはほんの序章に過ぎないのでしょう。ちょっと調べただけでも、オーストラリアだって自転車愛好者の協会がありとあらゆる活動や主張をしているし、今年の10月17日には、「自転車で出勤しようデー」が全国的に企画されています。オーストラリアも、自転車についてはホットな争点であり、かなり激しく戦ってるという気がしますね。

　今回のエッセイを書くのに泥縄式にサイトをパララと調べただけで消化不良なのですが、この段階で思うことを最後に幾つかまとめておきますね。

　①．いわゆるヨーロッパ型の本格的な自転車野郎系の促進とサポートはやっぱり必要だと思います。自転車に対する風当たりは強いだろうけど、自動車よりは遙かにマシですよ。自動車が一台走ってることによる社会的ダメージ（事故の危険、石油資源の枯渇、温暖化ガス、道路渋滞）に比べれば、そのドライバーが自転車に転向してくれた場合の社会的なメリットは計り知れない。また、平均巡航速度30～50キロで走れる彼らは、原チャリかそれ以上の行動能力と交通知識を持ってる場合が多いから、いわゆる暴走チャリ系の弊害は殆どないでしょう。オーストラリアで車に乗ってて自転車に寛容になれるのも、彼らを一般車両並に信頼できるからです。ちょっと遅めのオートバイくらいに思えば良く、いつ突拍子もない行動に出るんじゃないかとハラハラ心配しなくてもいいのはとても楽です。

　このまま化石燃料の国際市場がタイトになって、ひょっとして10倍のくらいの値段になったら、あなただって僕だって他人事ではないですよ。仮にリッター1500円になったら、満タン給油で5万円、10万円がぶっ飛ぶわけで到底車なんか乗ってられない筈です。そういう時代があと10年、20年、50年後に絶対来ないと保障できますか？出来ないでしょう。そうなったときに慌てて自転車に乗り換えても、車道が未整備だったらとんでもない混乱が起きる。だから今のうちから、意識改革と道路整備はしておいていいのではないか？ってことです。

　②．いわゆるママチャリ、ガキチャリ系は、自転車野郎系とは切り離して考えてみた方がいいと思います。乗らずに済ませるような環境整備＝ベビーカー・フレンドリーな環境、こちらのスーパーでやってるような近隣無料宅配制度、託児所や学校のスクールバスや公的支援（失業保険給付時期を延長し、その代わりのコミュニティサービス・ボランティアを増やすなど）は考え得る限りいろいろやっていくべきでしょう。同時に、それでも乗る必要がある人は大量にいるでしょうし、彼らが一般車道を走るのは無理が多いことから歩道通行になるとしても、マナーや罰則の強化などでセーフティを上げることは可能だと思います。

　「切り離す」というのは、例えば、一種自転車（車道のみ通行可能な自転車野郎系）と普通自転車（歩道可能のママチャリ系）に分け、一種自転車は原チャリと同じく免許制にする。普通自転車は免許制にするのも大変なので登録制にし、いずれもナンバーをつけさせ、年に一度の車検もやらせる（オーストラリアでそうであるように1000円程度に最初から検査料を低く法定しておく）。登録や免許費用の20％は事務経費にし、80％は事故用の賠償保険財団にキープし、事故があった場合の被害者救済にあてる。日本に１億2600万台自転車があるなら、一台年に1000円徴収しても年収約1000億円の財団が出来、自転車被害者の救済には十分なベースになるでしょう。

　歩道チャリの場合は、そもそも機能的に15キロ以上のスピードが出ないようにするとか、交通ルールの講習（歩行者に対しベルを鳴らすのは実は違法行為であるけど、誰も知らないのが現状）。さらにこれらの法規を実効性あらしめるために、違反自転車への通報制度の拡充。例えば、ナンバーには固有の振動数の発信装置を埋め込み、事故や違反があった場合の証拠にする。これは技術的には廉価で可能だと思われます（携帯電話の本体部分の原価はおそらく無料に近いくらい低廉化してるだろう）。暴走チャリをみつけたらチャリめがけて手持ちの携帯電話をかざすと自転車から発信される振動数をキャッチして登録番号が出てきて、それをそのまま警察に信号を転送することが出来るとか。そろそろこの種のことが技術的に出来ても不思議はないし、自動車にだって設置したらいいではないか。

　余談ですが、自動車には前方にマイクロカメラを設置し、セキュリティカメラや飛行機のブラックボックスのように直近10分の分の映像を録画～自動消去するようにしておくのはどうでしょうね。こうすれば、複雑な事故が起きた場合、周囲の車の映像記録から事故状況をかなり精密に再現できる筈（GPSデーターと時刻設定電波の併用によってかなり正確なデーターになる）。また、周囲の違法自動車の違法行為を録画→通報出来るので、交通違反者は激減するはず。プライバシーの問題は（直近10分どこを走ってたのか丸わかりだから浮気がバレるとか (^_^)）、この映像を取り出すのは組立工場レベルの設備がないとダメにして、且つ警察も令状がないと取り出せないようにすればいい（ただし、録画映像をその場から警察のデーターバンクに転送することは誰でも可能にする）。

　大体暴走チャリやら、マナー違反のママチャリやらが非難の対象になってるようですが、多くの事象というのは、全体のほんの一握り、数値でいえば１％程度の不心得者がいるだけだと思います。彼らが常習犯的に何度も何度も繰り返すから実数以上に多く見える。また社会を騒がせるから、あたかも全員そうであるかのような巨大な幻影錯覚が起きるのでしょう。だから、ごく一握りの「問題児」をピンポイントで爆撃できたら、それでかなり問題解消って気もするのですよ。

　なお、ナンバー登録制にすることで放置自転車問題はある程度は解消できるでしょう。相手が特定されれば、通知、処分の行政／司法手続がスムースになりるから、撤去や廃棄もしやすいはず。

　以上、これらはフラッシュアイディアにすぎませんが、考えようによっては生産的な平和共存も可能だと思われます。

　しかし、最初の記事で一番ひっかかったのは、特になんの法改正もなく、どういう社会変化もなかったにも関わらず、自転車対歩行者の事故が10年間で4．8倍になっているという点です。これは「自転車」という問題ではなく、人々のマナーの悪化とか、事故回避の運動神経の劣化とか、そういった問題でしょう。本論から外れるから書かないでおいたけど、気になるといえば一番気になりますよね。この10年で日本人はそんなにも自転車を暴走させるようになったのか？なぜそうなったのか？あるいは、これは統計のマジックで人々や役所の意識の高まりによって、それまで事故として警察処理されなかったものもされるようになり、統計に反映しているに過ぎないのか？でも、統計マジック説も否定しがたいですよ。だって、わずか10年で日本人が５倍近く凶暴になった、、というのもねえ、、、そうなんスか？

文責：田村

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