エッセイ314/APLAC 秋葉原の「おたく狩り」

今週の１枚（07.06.18)

　　ESSAY ３１５　：　秋葉原の「おたく狩り」

　写真は、Macquarie Shopping Centre内にあるスケートリンク。おお、シドニーにもスケートリンクがあるんだ？ということで。「私もやりたい！」という人は、http://www.macquarieicerink.com.au/で料金や時間、場所を参照。

　先週の週末版の新聞の国際ニュースの紙面を読み進んでいくと（国際ニュースだけで数頁にわたる）、世界各地のシリアスな写真と記事のあとに、日本のメイドカフェの女の子達のカラフルな写真が出てきて、「うわあ」と椅子からコケそうになりました。

　面白いから当日の国際面の新聞のページを撮って並べてみました。

　左端からインドネシアのテロ組織について、以下右にアメリカの黒人差別について、イスラエルのハマス、中国の奴隷的労働についての記事があり、最後にドカンと日本のメイドカフェのお姉さん達が明るく登場するわけですね。

　うーん、浮いてるというか何というか。並べてみると、世界における日本のポジショニングが何となく見えてくるというか、世界からリアルタイムの日本はどう見られているかがちょっと分かるような気がしますね。まあ、どうでもいい囲み記事みたいなもので、これだけで判断できるものではないのは勿論ですけど。でもねー、こういう感じで新聞読んでれば、日本ってそういう国なのか、「なんなの？この国？」って思う人がいても不思議ではないでしょう。今、シドニーにいる日本人の方は、この記事を読んだオージーや他国の人から、いろいろ質問されるかもしれません。

　ところで、記事そのものは他愛もないというか、日本の新聞記事の右から左への引用記事といってもいいでしょう。
　秋葉原で横行しているとされる「おたく狩り」と自衛のためにナイフを持ち歩くおたくに関するもので、朝日新聞06月05日付「オタク狩りに対抗？「アキバ」で銃刀法違反の摘発急増」という記事が、6月16日付のSydney Morning Herald紙で、「Revenge is sweet for Tokyo's geeks」というタイトルで記事になっています。

　「だから、何なの？」というと、単純に面白いのですね。「こんな日本ドローカルな情報をシドニーで発信して意味あんのか？」という根源的な意味で脱力的な苦笑を誘うという点でも面白いし、「ふーん、キミらはそういう視点で面白さを感じるのね」という点でも興味深いし、”世界に冠たる”日本のアキハバラ＆おたく文化ということで、ある程度はニュースバリューがあるのねってことでもあります。まあ、世界的に「注目」されてるわけでは全然ないのだけど、世界の各地に散在している「ヘンな人達」の一部族としてそれなりには知られているという。

　面白さの第二点は、こっちがメインなのですが、日本の国内記事だったら100行で済むものが、こちらだと200行かかるということです。つまり、日本人同士だったら「秋葉原」「おたく」といったら説明抜きで分かるのだけど、海外だと分からない。だからイチイチ解説しなきゃいけない。それをどう解説するかってあたりが、「うわ、そこまで言うか」というくらいミもフタもない直截な説明だったりして、それが逆に新鮮だったりします。日本人の方が曖昧なイメージでわかった気になってたりする部分も多いのですね。あと、どれだけ解説するかって視点も面白いです。

　第三は、これは面白いというよりも英語のお勉強です。簡単な記事なんだけど、かなり英語に親しんでいる人でも相当辞書を引かないとならないでしょう。日本人が何となく使いそうな単語や言い回しを使わず、もう一歩踏み込んだレベルの表現をしています。その踏み込み方は、ある部分ではよりスラング方面に、ある部分ではより高尚で、より文学的な表現をします。そして、それが眉間に皺を寄せてシリアスに読む記事ではなく、週末のカフェでカフェラッテを飲みながら、「んふふ」って感じでリラックスして読むような記事で出てくるという。つまり、この程度のボキャブラリーや表現方法だったらクリアしておけってことです。ワンランク上というか、より実社会に近い英語を勉強するには格好の教材だと思います。そのあたり、ちょっとリキを入れて解説したいと思います。「英語の学習方法－リーディング（その４）　精読と濫読で書いたように、ここでは「精読」してみます。一字一句おろそかにしないで、「なんでそうなるの？」を徹底的に考えるという読み方ですね。

　まず最初に、元ネタになった朝日新聞の記事を掲げておきます。

オタク狩りに対抗？「アキバ」で銃刀法違反の摘発急増
朝日新聞　2007年06月05日17時31分

　電気街としてだけでなく、アニメグッズなど「オタク文化」の発信地としても知られる東京・秋葉原で、銃刀法違反容疑での摘発が急増している。その多くが同法２２条の違反に当たる「正当な理由がないのに刃体６センチをこえる刃物を携帯していた」というケースだ。警視庁が理由を分析したところ、「オタク狩り」と呼ばれる強盗被害に遭った際の護身用との動機が多かった。

　秋葉原を管内に抱える万世橋署では、０２年には、銃刀法違反容疑での事件送致の件数は１年間で３件しかなかった。それが０３年には７件、０４年には３５件に増え、０５年には８４件と３年間で２８倍になった。８４件という数は、警視庁全１０１署の中で、新宿署の１８９件に次いで２番目に多い。

　万世橋署が銃刀法違反の現行犯で摘発された人に対し、刃物を携帯していた動機を尋ねたところ、多くが「脅されたり、殴られたりしたときの護身用」と答えたという。

　警視庁幹部は「新宿は、暴力団員や不良少年が刃物を携帯していて摘発される場合が多い。一方、秋葉原で摘発されるのは、まじめでおとなしそうな若者たちだ」という。

　同庁が改めて調べると、秋葉原では最近、「オタク」と言われる若者を狙った強盗や恐喝事件が頻発していたことが分かった。

　昨年１１月には、新型ゲーム機の発売日に大学生（２０）ら２人が殴られて３カ月の大けがを負わされた上、現金４万５０００円などを奪われた。今年に入って逮捕された千葉県内の少年らは「発売日なら金を持ったオタクが集まると思った」などと供述した。

　秋葉原での摘発例は、こうした被害に備えて法律違反になることを知らずに刃物を携帯していたケースがほとんどで、起訴されることはまれという。

　しかし、護身用というのは銃刀法の「正当な理由」には当たらず、逮捕または書類送検される可能性がある。同庁生活安全部の幹部は「十徳ナイフやカッターナイフでも、種類によっては、ポケットやかばんの中にすぐ使えるような状態で入れていれば違反に問われることもあるので注意してほしい」と話している。

Revenge is sweet for Tokyo's geeks
Justin Norrie in Tokyo
Sydney Morinig Herald/June 16, 2007

geek

THE Japanese have dubbed it the real-life revenge of the nerds.
日本人は、これを現実世界におけるおたくの逆襲と呼んでいる。

The Japanese

[語法][国民名の語法] (1) Japanese,Chineseなど-eseで終る国民名は単複同形：a [three] ～ 1人[3人]の日本人. (2) 国民全体をいう場合はthe Japanese(people),「日本人一般」はJapanese people. いずれも複数扱い：The ～ are a diligent people. =The ～ people are diligent. 日本人は勤勉だ/Many ～ like baseball. 日本人には野球の好きな人が多い. (3) 「国籍」を強調するときは一般的なHe is Japanese [American]. よりもHe is a Japanese [an American]. のように名詞とするのが普通. (4) ジャーナリズムではJapan's economy(=Japanese economy)のようにJapaneseの代りにJapan'sをしばしば用いる. また「日本史」はJapanese history,Japan's history,the history of Japanと表され,この順に,より客観的･堅い表現となる. 一般に「形容詞+名詞」を修飾する場合はJapan'sとすることが多い：Japan's international contacts 日本の対外接触/Japan's nearest neighbor 日本に最も近い国.

dub

nerd

　
In Akihabara's Electric Town, near the centre of Tokyo, otaku youths, widely disparaged as socially dysfunctional geeks, have started arming themselves to confront their tormentors.
　東京都心にほど近い秋葉原の電気街では、社会に適応できない変人として広く蔑視されている「おたく」の青年達が、彼らを悩ませている侵害者に対抗するために武装を始めている。

disparage

パ

れい

りっ

socially dysfunctional

have started arming

arm

The quiet, fashion-challenged loners, known around the world for fetishising anime cartoons and manga comics, are packing more than just colourful reading and handheld games into rucksacks. In many cases they are now carrying knives.
　物静かで、ファッション的にはイケてない孤独な若者達＝彼らはアニメや「マンガ」を偏執的に愛好することで世界的にも知られている＝は、背中のディパックの中にカラフルな書籍やポータブルのゲームを詰め込んでいるだけではない。多くの場合、彼らはナイフをも持ち歩いているのだ。

fashion-challenged

anime cartoons and manga comics

rucksack

　いかん、こんなチンタラやってたらとんでもない量になってしまう。なので、以下、精読はやめて走ります。

Police were initially baffled at the surge in arrests around Akihabara's "otaku heaven", an area crowded with manga and anime stores, costume shops and maid cafes. In 2005 they detained almost 90 otaku for carrying knives strapped to their belts or backpacks. Last year they confiscated as many again, a huge increase on 2002, when there were just three cases.
マンガやアニメストア、コスチュームショップ、メイドカフェが密集している「おたくの天国」である秋葉原で大量の検挙者が続出していることに、警察も当初は当惑していた。2005年には、ベルトやバックパックにナイフをぶらさげているおたく達が90名が検挙されている。去年も同レベルの数に達しているが、これは年間３件だけだった2002年に比べると激増と言って良い。

The word "otaku" derives from a formal greeting and is an ironic reference to the awkward way the loners acknowledge each other. The otaku explain that a number of vicious attacks and muggings by self-described otaku hunters, gangs of thuggish teens, have forced them to carry weapons in self-defence.
「おたく」という言葉は、本来はフォーマルな呼称なのであるが、孤独な若者達がお互いを呼び合うぎこちない呼称方法を皮肉っている部分に由来する。「おたくハンター」と自称している粗暴なティーンエイジャーによる暴行や強盗が頻発しているので、自衛用にナイフを持たざるを得ないのだと当のおたく達は言う。

derives from

gangs of thuggish teens

It seems they may get a chance to enact the violent deeds portrayed in their favourite manga and anime tales.
彼らは、お気に入りのマンガやアニメに登場する暴力シーンを再現するチャンスを得られるかもしれない。

Among the 101 Tokyo police patrol areas, Akihabara's otaku heaven now ranks second on a tally of weapons violations to Shinjuku, where yakuza crime syndicates prowl the Kabukicho red-light district.
東京に１０１ある警察パトロール地区において、銃刀法違反の検挙数でいえば、秋葉原は、ヤクザ暴力組織の連中がうろついている風俗地区歌舞伎町を有する新宿に次いで二番目に多いのである。

"Some people think we are easy targets because of the way we look. They think we won't resist and that because we dress up the police won't be interested to help us," said Yuri, 20, dressed in a black and white maid's outfit.
白と黒のメイドの衣装に身を包んだ20歳のユリさんは、「私達の外見から、格好の獲物のように思う人達がいるんです。彼らは、私達が抵抗しないだろうと思ってるし、こんな格好してるから警察も本気で助けようとはしないだろうと思ってるんです」と言う。

Although she did not admit to carrying a knife, she said she had started wearing an electronic alarm around her neck. "Some people I know were threatened, but they did not back down."
彼女はナイフを持ち歩きはしないと言っているが、電子警報機を首からさげるようになったと言う。「私の知ってる人で脅された人もいるけど、でも皆負けてませんよ」

The otaku movement began in the 1970s when disillusioned youth started to retreat from society into a saccharine fantasy world of sexually and violently explicit stories.
おたくのムーブメントは、1970年代に幻滅した若者が、セックスと暴力を強調した甘いファンタジーの世界に浸り、現実世界から逃避し始めた頃から発生している。

It has since splintered into several strains of obsessive behaviour, such as cosplay, where fans dress up in the costumes of their favourite characters - sometimes maids and butlers - and imouto role play, where waitresses play the role of the customer's fantasy younger sister.
以後、おたくの系譜は、強迫観念的な行動パターンによって細分化されていく。例えばコスプレ。ファンはお気に入りのキャラクターのコスチュームに身を包む＝それはしばしばメイドや執事であったりする。あるいはイモウト・ロールプレイ、そこではウェイトレスは客のファンタジーの世界の中の妹役をする。

Last November, on the day the PlayStation 3 was released in Akihabara, a gang of youths bashed a 20-year-old student and stole his money. The victim required three months of treatment for serious head injuries.
去年の11月、秋葉原におけるプレイステーション３の発売に、ある若者のグループが20歳の学生を暴行を振るい、所持金を巻き上げた。被害者は頭部に３ヶ月の重傷を負った。

Police say there were 30 attacks by otaku hunters last year. In September they arrested eight teenage boys who had been roaming the district.
警察によると、昨年30件のおたく狩りがあったという。9月には、そのエリアをうろついていた8人のティーンエイジャーの男性を逮捕した。

This year there have been 29 bag snatchings and assaults in otaku shops. Last week police met the owners of 40 maid cafes, where staff dress in frilly maid's uniforms, and asked them to install security cameras.
今年になると、29件のひったくりや暴行がおたく系の店で発生している。先週には、スタッフがフリルのついたメイド服を着用しているメイドカフェ40軒のオーナー達に会い、防犯カメラの設置を促した。

One alleged offender is said to have told police: "Otaku are weak and they've got money, so we went after them."
おたく狩りの容疑者の一人は警察でこう述べたという。「おたくは弱いし、金持ってるから、カモとして狙うんだ」。

A senior police officer from the Tokyo Metropolitan Police Department told The Asahi Shimbun: "In Shinjuku many of those caught carrying knives were gangsters or juvenile delinquents. But those caught in Akihabara are usually young people who look serious and gentle."
警視庁の上層部は朝日新聞に対して、「新宿においては、ナイフの携行で検挙される者は通例暴力団員や非行少年達です。しかし秋葉原では、真面目で大人しい人達が検挙されています」と語った。

　記事の紹介は以上ですが、このSMHの記事にせよ、冒頭掲記の朝日新聞の記事にせよ、よく考えるとなんかヘンじゃないですか？

　単純に犯罪報道として言うならば、おたくの人々はあくまで被害者であり、それが銃刀法にひっかかったとしても、メインの犯罪者はおたく狩りと称して強盗・恐喝を犯している連中である筈。しかし、おたく狩り側の検挙は30件、おたく側の銃刀法検挙は90件というのは、なんかヘンじゃないですか。このヘンさは何に由来するかというと、そもそも「往来を歩いていて銃刀法にひっかかる」という事態がヘンだからじゃないかな。

　銃刀法違反で警察が動くような事例というのは、通常は暴力団事務所の手入れで拳銃や日本刀を押収したようなケースでしょう。多くは持ってるだけで弁解の余地無く違法である銃砲類でしょう。刀剣類で問答無用に違法性を疑われるのは、日本刀とかドスとか純粋に攻撃的なものでしょう。おたくの人々が秋葉原を抜き身のダンビラ（日本刀）光らせて徘徊しているならともかく、バッグの中にナイフを忍ばせているだけでどうして検挙されるのだ？英文の記事では"strap"（革紐でぶら下げるという意味）という単語を使い、ナイフをベルトやバックパックにぶら下げている＝外部からナイフ携行を認知出来ることを匂わせていますが、日本語の記事にはそこらへんの解説はないです。僕は見てないからわからないけど、ベルトやバッグにナイフをぶら下げてたりするもんかね？

　だから、この種の検挙は、職務質問→所持品検査という警察活動があっての話だと考えた方がしっくりくるのですね。でも、秋葉原を徘徊しているおたくの人を職質かける必要なんかあるの？いみじくもTMPD（警視庁）が言うように「真面目で大人しく見えるタイプ」の人なんでしょ？真面目で大人しく見えている人をなんで職質かけるのだ？まあ、実際にナイフを所持しているわけだから「犯罪行為が現に行われているんじゃないか」とも言えるわけなのだけど、怯えたおたくの人が自衛用のナイフをバッグに忍ばせていることが、それほど社会公共の治安を乱す実害があるのか？って気もするのですよ。

　もっと考えると、自衛用にナイフというのも、なんか現実感覚が飛躍してるような気がするのですね。秋葉原に限らず痴漢が多い公園とか、強盗恐喝事犯の多発エリアというのはありますし、校内暴力その他で危険にさらされている場面もあるでしょう。でも、だからといってナイフで自衛はしないよね。上記のユリさんのように装備するとしたら電子アラームとか防犯グッズじゃないですか？「なぜ、ナイフ？」ってところが飛躍してるように思うのですよ。そのあたりの現実認識のズレがいかにもおたくらしいという見方も出来るでしょう。ナイフ一本忍ばせているだけで、ファンタジー的に強くなってる気がする心情というのは、これは僕もわかりますよ。現実にどれだけ役に立つのか分からないけど武器があると安心という。家に木刀を常備するような感覚ね。また、それで「なりきる」って心情もわかる。ただ、あくまでファンタジー的要素が強く、そうなると現実の刑法犯として検挙するようなことか？って疑いは残る。それに、「本当に自衛用なのか？」って疑いもあります。ナイフやモデルガンのマニアは昔から世界中にいますし、僕だって芸術品のようなスイスやドイツのナイフなんかには心奪われるものがあります。で、趣味で持ってるだけって人もいるんじゃなかろうか。

　このあたり気になったのでネットで調べてみたら、Wkipediaで週刊SPAの記事が引用されていました。長いけど、考えさせられるので一気に引用します。

「オタク狩り」という用語は、週刊SPA!2005年2月1号の記事においては、秋葉原などにおいて警官が検挙率を稼ぐ為に無抵抗なオタクに職務質問を行い、カッターナイフの所持などを理由に「任意出頭」(任意とはいうものの実質的な逮捕である。)させる事例を指している。(カッターナイフの所持については軽犯罪法1条2項に抵触する場合があるが、刑事訴訟法199条1項の規定により、原則として、その事を理由に逮捕する事はできない。)「逮捕」された経験を持つ者の証言によると、新人警官の研修の様な感覚で職務質問されて逮捕されてしまったとの事である。

秋葉原には露店や立ち売りで違法ソフトウェアを販売している外国人が散見されるが、警官が彼らに任意出頭を求めない理由は、単に「言葉が通じないので調書を取るのが面倒くさいから」との事である。不当逮捕問題に取り組んでいる渡辺幸之助の見解によると、こうした傾向は竹花豊が東京都副知事に就任した2003年ごろに、竹花の意向によって、職務質問による検挙のノルマが増えた事に関係しているとの事である。こうした事情が、前述した様な「間違った正義感」と結びついて、警官による「おたく狩り」が発生したのではないかと指摘されている。(典拠は同じく週刊SPA!2005年2月1号)

そのため、秋葉原において電子部品や工具を購入する場合は注意を要する。工具や電子部品を購入した後に不運にも警官から職務質問を受け、所持品検査でドライバー等の「特定侵入工具」「特殊開錠用具」、刃物、あるいは凶器に相当すると認識されるものが見つかった場合、諸法により逮捕される場合がある。加えて関連店舗がアニメ・ゲーム・同人誌関連店舗に押されて減少、品揃えの悪化などもあることから、トランジスタ技術など電子工学関連専門誌や電子工作関連Webサイトの記事などで部品購入先としてDigi-Keyなど通信販売専門店を紹介していたり、そのような手段でなければ少量入手の難しい部品を使用しているなど、これらの購入手段を通信販売へ移行する動きが見られる。

　ことの真偽はわかりませんが、「新人警官の研修の様な感覚で職務質問されて逮捕」というのは、なんとなくありがちな感じがします。
　もともと警察においても「ノルマ」というのはあり、暴力団事務所の手入れでも、現場の警察官と暴力団との馴れ合いでやってる（暴力団側が警察に点数を稼がせるために、手入れをさせて銃砲を発見させる）ケースがあるのは（全てがそうだとは勿論言わないけど）、数十年前から指摘されているところです。また、ノルマ達成感覚で頑張ってネズミ取りをやってるというのも、一般市民の感覚としては共有されてたりします。そうすると、ここでもおたくの人々は格好なカモなのですね。

　英文記事でユリさんが言ってたように、「こんな格好してるから警察も本気で助けようとしてくれない」という点。これは結構重要な視点で、ジャーナリストだったらなんでここをもっと突っ込まないのか？ってもどかしい気がしますが、外人記者にそれ以上望むのは無理かもしれない。しかし、日本の新聞だったら突っ込めるでしょう。でも、日本の新聞そのあたりの指摘は乏しい。

　関連して調べていたら、魁！清谷防衛経済研究所の「【警察の提灯記事】オタク狩りに対抗？「アキバ」で銃刀法違反の摘発急増」というアーティクルが、この種の問題意識を提起しています。

　　あと、13daysというブログの子供は大人を見て育つには、「ＴＶニュースは、オタク狩りなどと面白がって報道して気楽でいいが、こういう問題は根が深いことに留意すべきだろう。「相手が弱く、金を持っていそう」なので、「楽に金を取れると思った」というのは、政府のやっている福祉介護法の改正や、高齢者の医療負担増と相似である。」という指摘は、鋭いと思います。

　要するにおたく狩りをやってるアンちゃんも、おたくに職質をかけている警察も、「弱いところから取る」「取りやすいところから取る」という意味では似たもの同士と言えなくもない。そして、それは街のチンピラや警察だけではなく、年金、福祉、医療費、税金、労使関係あらゆるところで日本社会そのものが抱えている病根のようにも思えるのですね。オーストラリアだって、エラそうなことを言えるほど素晴らしい社会ではないけど、でもまあ、弱者を守らずして何のための社会か？って気はします。弱肉強食でいいなら、別に社会なんか作らなくていいんじゃないの。

　さらに、マスコミや世間の論調においても、被害者がおたくだからといってバイアスが掛かりすぎてるように思います。おたく狩りなんて名称は、しょせんは犯罪者が並べているゴタクに過ぎず、客観的には純然たる凶悪な強盗事犯、恐喝事犯に過ぎない。一人暮らしのお年寄りのところに強盗が入っているのと、違法性という意味では変わらない。おたくハンターを気取ってる人は、「害虫駆除をしてやってるんだ、何が悪い」という罪の意識もカケラもないようなことを言ってるけど（本当に罪の意識がなかったらこうは言わないだろうから所詮は強弁だろうけど）、これは馬鹿なんだからしょうがないです。ただその馬鹿のレトリックに一般世間が引きずられることはない。

　「おたくだから」→狩っている、職質かけているのと、おたくだから→マスコミで取り上げられ記事になっているのとは、問題の構造が同じなんじゃないの。そこには社会全体として持っている、おたくその他の弱者に対する軽侮、異形者に対するバッシング心理があるように思います。この英文記事は、その上にさらにツイストがかかって、「ほら、日本人ってこんなにヘンなんですよ」という好奇な視点が上塗りされているという。このように何重にも屈折してるから、記事を読んでも「何を伝えたいの？」という部分のフォーカスが合ってなく、とっちらかった記事になっているように思います。おたくに対するバッシングの流れは、Wikipediaの「おたくバッシング」の項を参照。

　しかし、さらに妄想を逞しくしていくと、もっと生々しいゼニカネの流れがあるのかもしれません。秋葉原再開発計画（秋葉原クロスフィールド）に関して、2005年11月17日の読売新聞では、「東京都を始め、事業関係者たちは、これまで電気街やオタクの街というマイナスイメージの強かった秋葉原を、六本木ヒルズのようにＩＴ企業の拠点という新たなイメージで塗り替え、経済成長著しい中国・上海などに負けない研究開発の牽引役にしようとシナリオを描く」と報じられています。この記事を紹介分析しているブログは、「フィギュア萌え族(仮)犯行説問題ブログ版・サブカル叩き報道を追う」にあります。

　同記事に書かれているように、「「つくばエクスプレス」は筑波研究学園都市と直結し、ハイテク関連の研究開発拠点を目指す秋葉原地区と筑波学園都市の交流がより活発になると期待されている」という経済界の思惑があるのもわかるし、別にそう期待することは悪いことではないと思います。ただ、この種の計画にありがちな、「絵に描いた餅」的な部分はありますな。立地がよければ直ちに経済的に繁栄するってモンでもないでしょう。実際、開発を当て込んで建てたマンションも全然売れない。同記事で不動産業者が「不動産として考えると、山手線沿線というメリットがあるのにもかかわらず、それを相殺してしまうほど土地のイメージが悪い。商業区だったので、今後の治安がどうなるのかも予測しづらい」と語っているように、財界があれこれ旗を振っても、「おたく天国」のイメージがあるから鳴かず飛ばずで終わりそうな勢いだということです。

　これって、開発に関わる人々、つまりは東京都とか、ゼネコンとか、デベロッパーとか、それらの利権にまつわる人々にとっては、街頭でヘンな格好して浮かれているおたくの連中は目の上のこぶみたいな存在なのかもしれません。「こいつらが元凶だ」「こいつらさえ居なければ」と歯がみするような思いでいたとしても、まあ、不思議ではないよね。でもって、これらのおエライさんが、裏から手を回して街のアンちゃんにおたく狩りをさせたり、警察に圧力かけて職質させたり、新聞にかかせたりしてたとしたら、これはもうファンタジーの世界です。現実はそこまで面白くないとは思いますが、なんとなく当局もおたくの人々に対して冷淡なような気もするのですよ。おたく狩りが横行してたら、普通やるのはパトロールの強化でしょう？自衛おたくの銃刀法検挙じゃないんじゃない？そのあたりに、なんか根本的にひっかかるものを感じるのは僕だけではないようです。

　しかし、まあ、おたく天国のアキバの現実を僕は知らないわけで、実際に見てみたら、「何とかなんないのか、これ？」って思うかもしれないです。メイド喫茶の数が40軒とか（他の記事では80軒とか）、凄いな。でもなあ、大して広くもない一角がそうなったからといって、別にいいんじゃないの？あれが目障りだというなら、シドニーのマディグラはどうなるんだ？って気もしますね。大体、都市というのは、ある種、治外法権的な「ヘンなエリア」があるからこそ都市なのであって、だからこそ面白いんだという度量はないのかね。今のアキバにしたって、20年前の原宿の竹の子族と大差ないでしょうしね。まあ、地元住民の苦情はあるとは思うけど。

　そういえば、シドニーにもマリックビルとかアッシュフィールドとかで、アジア系の看板が多いのが見苦しい、英語以外の言語で書かれた看板しか出していない店は取り締まれという意見が忘れた頃にポンと出たりしますが、別にその種の取り締まりの動きはないようです。「いいじゃん、別に」ってのが多くの人の感覚なんじゃないかな。まあ、かなり昔に、ゴールドコーストやケアンズの大橋巨泉のOKショップの看板などが「見苦しい」「醜い」と地方議会で問題になったのを覚えてますが（結構これには個人的に同意しますが）、だからといって閉鎖とか撤去とかされてないんじゃないかしら。

　ちょっと筆が伸びすぎました。かなり長くなっちゃったのでこのへんで。

文責：田村

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