今週の1枚(07.03.26)
ESSAY 303 : ブリッジ・ウォークとNSW州選挙
先々週のエッセイで紹介したように、さる3月18日(日)には、ハーバーブリッジ75周年を記念して、いろいろなイベントが開催されました。その中でも目玉は、ハーバーブリッジをほぼ一日全面通行止めにし、歩行者天国状態にして、皆で歩いてハーバーブリッジを渡ろうという”Bridge Walk”でありました。
上の大きな写真、下の4枚の写真はいずれもその様子を撮影したものです。
単に橋を歩いて渡るだけなんですけど、かなりエンジョイできました。
ものすごいアトラクションがあるわけではないのですが、ライトアップして、PAでBGMを鳴らして、所々でスモークを出しているという、まあ文化祭レベルっちゃ文化祭レベルなのかもしれないけど、もともとが巨大な構築物、もともとが海の上という開放感から、そぞろ歩いていても妙にワクワク楽しくさせてくれました。あんまりお金をかけず、ちょっとした工夫で楽しくしちゃうあたり、オーストラリア人は上手だと思います。会場のスタッフなんかもボランティアが多いし。常々、日本人が「働くために生まれてきた人達」だとしたらオーストラリア人は「遊ぶために生まれてきた人達」だと思ってますが、その感を深くしました。大体、いくら日曜日とはいえ、都心直結の大動脈を一日全面通行止めにするというのは、日本でいえば首都高速をまるっぽ一日全面通行止めにして、皆で歩こうというようなものです。日本でもやればいいのにって思いますけど、あんまりそういう発想が出てこないですよね。提案しても経済活動に支障を来すとかいって反対されそうだけど、だからちょっとくらい経済活動に支障を来しても良いじゃないかって思えるかどうかなんでしょうね。
一応取り決めがあって、ノースからの一方通行、事前にレジスター(登録)しなきゃダメってルールで、登録も30分刻みで歩く時間が決められています。
まあ、実際には、レジをしていなくても、大丈夫そうだったら(異様に混み合ってなかったら)、どんどん歩かせてくれたそうです。いい加減というよりも、もともとが混雑などの不測の事態を防止するための大雑把な交通整理のためのレジですから、その実害がなさそうであれば、現場の判断でどんどん通してしまうという。規則そのものに価値があるわけではなく、要は皆が安全にエンジョイできたらそれでいいってことでしょう。日本だったら、「それじゃ、真面目に登録した人間が馬鹿みたいだ」とか苦情を言う人が出てきそうだけど、そういうのって僕は「規則フェチ」「形式的平等フェチ」であり、マニアックな主張なのであって、言わせておけばいいって思います。
上の二枚の写真は、出発地点付近のミルソンズ・ポイントあたりの風景です。
昼間に歩くと緑色のキャップを無料を配られ、宵に歩くとオレンジ色のキャップをくれました。僕らは7時半〜8時の部だったので、オレンジ色のキャップを貰えましたが、これがエナジーオーストラリア(東京電力みたいなもの)のスポンサーのもので、縫製や刺繍もしっかりしていて、マトモに買ったら1500円くらいしそうなものでありました。スポンサーをつけて、気前よく配らせるわけですね。でもって、このキャップの前のところに電池式のライトが組み込まれてあり、トンネル作業員のヘルメット状態になるわけですが、これが結構明るい。そして、橋を渡り終わる頃、ふと振り向くと天の川のようにライトの川がドドドと流れていて、なかなか綺麗な眺めでありました。このライト、かなり長持ちして、二日くらいついてました。
一番上の大きな写真や、すぐ上の写真は、ライトアップしたブリッジの様子です。
途中で色が変わったり、飽きないで歩かせてもらいました。上の写真右は、ロックスから見たブリッジの遠景です。
さて、話はころっと変わります。先週の土曜日(2007年3月24日)に、NSW州の選挙がありました。右の写真は、マンリーの投票所の風景。
結果としては、下馬評どおり与党労働党(レイバー)が政権を維持しました。えーと、手元の新聞によりますと、レイバー53議席、リベラル19議席、ナショナル13議席、未決定3議席となってます。選挙前に比べ、与党レイバーは、若干議席は減らしたものの、相変わらず安定多数をキープしています。
しかし、今回の選挙は盛り上がらなかったみたいですねー。新聞その他の解説、投書、掲示板などを見ると、「現政権が全然良くないというのは明らかだけど、だからといって野党がいいかというと、そういうものでもない。むしろ、これだったらまだしも現政権の方がマシかと思える」という、非常に消極的な、「打つ手無し」的な、「より最悪ではない選択( the lesser of 2 evils)」という感じであります。
何をそんなに皆さんブーブー不満を募らせているかというと、一つはNSW州政府における与党レイバー政権の長期化です。既に12年も与党をやってます。日本の自民党政権とか、地方の保守王国といわれている県議会などの感覚でいえば、12年政権なんか別に長期でもなんでもないけど、二大政党制が当たり前であるこちらでは12年はいかにも長い。いい加減、バランスを取るためにも、またダレてきている与党を叱りつけるためにも、政権交代をさせるべきだというのは、多くの選挙民の認識であったようです。
実際、NSW州政府は、ボブ・カー(Bob Carr)という一種のカリスマ知事がおり、長期にわたり安定的に君臨していていました。日本のオヤジ系の政治家像とは異なった、いかにも学者肌の容貌と態度、それなりの辣腕ぶりもあり、一定の支持を集めていましたが、やっぱり限界はある。このボブ・カー知事の凄いところは、任期の途中であっさり辞めちゃったところです。結局、それが今回のレイバーの勝因になってるように思います。
NSW州政府の問題というのは、非常に身近なことばかりです。すなわち、「いい加減にしろ!」状態の電車、バスなどの公共交通機関網、交通渋滞、そして病院などの社会的インフラの未整備です。これらはいずれもお金がかかる。お金がかからないようにするために、半官半民方式でクロスシティトンネルを作ったりしたけど、これが大失敗と言われている。でも、僕が思うに、こういうのって誰がやったって限界はあると思うのですね。なんせ、シドニーの人口は急成長しています。以前にも特集しましけど、大雑把にいえば毎週1000人づつ人口が増えている。車の量は過去5年で2倍だったかな、猛烈な勢いで増えている。こんなに勢いで都市が膨張していったら、インフラ整備など、いくらお金があっても足りない。あちらを立てればこちらが立たず状態になりがちです。ましてや三年連続の干ばつ状態で、水資源は危機的状況にありなんらかの手を打たねばならないわ、こちらでも高齢化が進んで高齢医療費が嵩むわで、金のかかることばっかり山積みしています。
そして、クロスシティトンネルの開通で喝采を浴び、しばらくしてボロが出る前に、さっさとボブ・カー知事は辞めちゃって、後任に全く無名同然だったモーリス・イェンマ知事(Morris Iemma)を指名します。彼は風貌や物腰も全然カリスマっぽくなく、いかにも人の良さそうなお父さん然とした人物です。この人物が、可哀想に「立つ鳥跡を濁」しまくった前任者の後始末をやらされておりました。知事交代劇から現在の選挙にいたる18ヶ月、このイェンマ知事はあちこちで叩かれながらやってたわけです。しかし、18ヶ月程度ではまだまだ政治的力量は未知数でありますし、多くの批判は前任者時代に原因があったりします。だから皆さんブーブー言いながらも、イェンマ知事独自の責任ではないことはわかっている。同時に、18ヶ月という在任期間は、まったく政権経験のない野党に対して実績やら経験をアピールするにはそこそこの長さの期間でもあります。つまり、新鮮味はまだ失わないけど、そこそこ実務家として認知されるという絶妙な期間なんですね。
これが、ボブ・カー知事が辞めずに、そのまま選挙に出てたら、おそらくレイバーは負けていたんじゃないかと僕は思います。長期化した現政権にお灸を据えねばと多くの人が思ってるわけで、そこに相も変わらずお馴染みのボブ・カーが出て行ったら、全ての批判は彼に集中したでしょうし(自分の撒いた種だし)、それがゆえにレイバーも苦しい戦いを強いられたと思います。今回の勝利だって、多少ではあるけど議席数を減らしてますし、議席数という結果には至らなくても、選挙区各地でスィング(前回に比べて野党側の得票が伸びること)は見受けられます。批判は厳しい。でも、任期途中であっさり党の顔が変わってしまい、新型モデル、しかもあんまり憎めなさそうな、隣の家のお父さん的な知事が出てきてしまったから、皆戸惑ったってところでしょう。結局は、ボブ・カー前知事のファインプレイというか、抜群の政治センス、タイミング感覚の勝利だったのではないかと。
一方、連立野党リベラル&ナショナルもせっかくの好機を逃してしまっています。野党リベラル党首のピーター・デブナン(Peter Debnam)については、選挙活動について、プア・パフォーマンスだ、ディサポインティングだと酷評されてます。あんまり酷評されているので、見ているこっちが可哀想になるくらいです。もともとNSW 州の野党リベラルは、あんまり人材に恵まれてないのか、それとも内輪揉めが激しいのか、レイバーに長期政権を許すだけあって、どうもパッとしない。しかも、前任者のブログデン党首が、酒に寄ってセクハラをしたとか、失言をしたというメディアのすっぱ抜きがあって、本人が自殺未遂をはかるというメチャクチャな状況にありました。このブログデン氏ですが、地元での人気は非常に高く本来そんなことをする人ではないという話らしく、だからこそ自殺まで思い詰めたのだろうと言われてますが、このスキャンダルはどこから出てきたのか?といえば、同じリベラルの対立派閥からのリークであるという噂もあります。つまり内輪揉めの結果であると。ことの真偽は結局はわかりませんが、ブログデンの無二の親友であり、リベラル最高の党首候補だったら、オファレル氏は後任で党首になることを拒否し、現在のピーターデブナン氏が党首になったという、今ひとつスッキリしない経緯もあったりします。こっちの人は、投票率100%の義務投票ということもあり、こういう政局の動きや政策などについてはかなりよく知ってますから、そのあたりも評価の一因になったのでしょう。
さらに、18ヶ月ばかり党首として頑張ってきたデブナン党首ですが、何がそんなに酷評されなければならないほどダメだったのか、正直、僕にはよく分かりません。この種の政治ニュースに接し、打ち出す政策やコメントなどを日常的に考えてないと、なかなかそこらへんの善し悪しが分からんのですね。ただ、あれこれ政策や逆提案もしますし、今回の選挙でも当然マニフェストは出すわけですが、「一体そのお金はどこから出すの?」という部分の説明の歯切れが悪かったってのが大きいのではないかなって思います。言うだけだったら誰でも理想論は言えるわけで、皆が政権に求めているのは「乏しいお金をどう上手にやりくりするか?」という経綸の才やアイディアだったりするわけです。こっちの人は、子供の頃からディベートとか政治とかには慣れてるから、単に麗しい公約を掲げるだけでは全然納得しまいようです。その財源捻出方法について、「なるほど」という納得のいく説明がないと評価しないのでしょう。デブナン氏は、そのあたりがモゴモゴしていて、それが彼の政治家としての評価を下げたのかもしれません。
また、選挙戦における両党のキャンペーンでも、野党リベラルは、与党レイバーへの攻撃材料として、スキャンダルによって更迭された何人かの大臣を指摘していたのですが、肝心のイェンマ党首にはそういうスキャンダルはなかったわけで(そのあたりはさすがに党首になるだけのことはある)、結果的にイェンマ知事は攻撃対象外ってことになってしまった。だから、致命傷を与えるには至らなかったという観測もあるようです。
このあたりのことを端的に書いてくれている投稿があります。I hereby endorse...という新聞記事に、皆が意見が書きこむところがあり、そこには選挙民の悩みが面白おかしく、しかし悩ましく書かれています。
NSW has a party in govt for 12 years, things are generally considered to need improvement ( we can say that all the time ) but it definetly appears to be a valid criticism.
(NSW州ではもう12年も政権をとっている政党があり、一般的に言ってなんらかの状況の改善が望まれる(まあ、こんなことはどんな状況でも言えることなんだけどね)、しかし、現状においてこの批判は確かに意味を持っているように思える。)
We have an opposition with an unfunded list of close to $10B in promises, where they can't or won't tell us exectly how they'll deliver.
Now, the govt have traded in their old Carr & for a new model a Iemma. Well it's not new, it's been around a while but was relatively unknown. The opposition is asking us to trust yet another model which appears to be more expensive. Now before I lease a new carr, I ilke to know how much it will cost me to run & if it's what I really want but more expensive, I'll decide if I can really live with the lifestyle implications of reducing the budget in other areas!
(野党は100億ドルにも達する財政的裏付けのない公約を掲げているけど、どうやってこれを実現するのかについては彼らは語れないし、語ろうともしない。さて、現政権は、古くなったカー(※ボブ・カー知事と車のカーとの洒落か)を下取りに出して新しいイェンマ・モデルをゲットした。まあ、正確に言えばピカピカの新車ではなく、結構乗られていたりするのだろうけど、まあ比較的知られていないし新型モデルと言っていいだろう。片や、野党側はさらに高価そうな新型モデルを買えと言ってくる。でも、新しい車をゲットする前にどのくらいコストがかかるか知りたいものだし、またその車が僕の望んでるものだったとしても、それが高くつくのなら、他の分野の出費を削らなきゃいけないことになるが、そういうことが可能かどうか決断しなければならない。)
Now, without knowing, how can I decide. Do I keep the current model or trade in ? Oh, 1 final thing to consider, a new model usually has problems, do I take the leap of faith or wait for the 2nd release but it was the 2nd release for the problems to be fixed. Oh, it was the 2nd release, the fisrt model, a Brogden had too many problems, the Debnam is the 2nd release!
(しかし、そういった詳細を知らずに、どうやって決めたらいいというのか?今乗ってる車をキープするかそれとも下取りに出すか。そうそう、もう一つ考えておかなきゃならないことは、新型モデルってのは往々にしてよくトラブったりするんだよな。思い切って新型に飛びつくか、それともちょっと待ってセカンドモデルが出るまで待つか。セカンドモデルってのはファーストモデルの欠陥を改善してリリースされるからな、、、って、ああ、そうだ、これってセカンドモデルだったんだ!あまりにも問題が多かったブログデン(※自殺未遂を計ったリベラルの前党首)がファーストモデルで、今のデブナンがセカンドモデルだったんだ。)
I have just voted this morning. What a choice I had. Support a tired, dodgy govt? or a party who are completely clueless after so long in opposition? Sometimes I wonder whether Democracy actually exists.
(私は今朝投票してきたばかりだ。しかし、私にどんな選択があったのだろう。疲弊して逃げを打ってばかりの現政権か、それともあまりにも政権不在期間が長く全く予想できない野党か。ときどき、民主主義って本当に存在するのかなって疑わしくなるよ)。
Well, the people have voted and they'll continue to complain for the the next four years about just how bad the Labor government is.
Morons!! They deserve what they get.
As for me... anyone know of a nice cheap island for sale where I can be king?
(おお、そうか、結局そうやって皆してレイバーに投票して、次の4年間、現在のレイバーに対して言っているような不満をまたブチブチと言い続けるのか?
愚か者めらが!この程度の民衆にこの程度の政府ってことじゃないか。
ところで私はどうかというと、どこか私が王様になれるような、安くて素敵な島なんぞが売りに出されてないかな、誰か知らないか?)
別の投書のページにも面白いのがありました。
If we ignore all the usual pre-election promises, which the politicians will do post-election, we are left with the choice between Morris, "Vote for me because I am not Bob Carr" and Peter, "Vote for me because I am not Bob Carr or Morris Iemma".
(もし我々が、通例の選挙前の公約を一切無視するとして=これはまさに選挙後に政治家がやることだが=、結局のところ我々の前に示されている選択肢というのは、モーリス・イェンマの「私に投票してください。なぜなら私はボブ・カーではないのです」か、あるいはピーター・デブナンの「私に投票してください。なぜなら私はボブカーでもないし、モーリス・イェンマでもないのです」かの選択ということになる。)
Oh happy day. We can all vote Liberal knowing they can't win, and we are not supporting this dreadful Labor Government. Err, wait a minute …
(おお、なんていい日なんだ。我々は皆、勝てっこないリベラルに投票するんだ。そしてひどいレイバー政府は支持しないことにするんだ、、、あれ?ちょっと待ってくれよ、、、)
こういった一般オージーの投書を読んでると、まあ、どこも事情は一緒なのねってのが良く分かります。投票に値する政党がないとか、現職はダメだが、新顔も未知数すぎて信用しきれないという。
しかし、なんだかんだブーブー言いながらも、皆さん投票には行くのですね。投票率が限りなく100%という義務投票制度であるから当然とは言いながらも、義務投票制度を止めようという声はあまり聞かれない。「良心的棄権」「批判的棄権」という声もないわけでもないけど、非常に少数です。棄権しても組織票を有する既成勢力を有利にするだけで、実際には逆効果であり、ひとりよがりの愚策に過ぎないという認識は広まっているのでしょう。
一方、こういう投書欄に投稿してくる声が、オーストラリア人の平均的な声かというと、必ずしもそうでもないんじゃないかな。それは日本の新聞の投書欄の声が、日本人の平均的な声かというと微妙に違ってたりするのと事情は同じでしょう。なんだかんだ批判もするし、不満の声も大きいのだけど、それでも大多数の人がレイバーに投票しているという事実は厳然としてあるわけです。そして、なぜそういう現象が起きるのかといえば、日本で自民党の長期政権が揺らがない理由、つまり日本人の潜在的な保守傾向や現状維持指向とは又違ったものがあるように思います。たしかに、現政権には不満は多いが、未知数よりはマシというメンタリティも無くはないでしょう。でも、今年の後半に予定されている連邦選挙では、野党のレイバーの方が圧倒的に支持が高いという事前調査結果が出ていますから、単なる変化を恐れる保守指向だけってことでもない。また、前例のないことをやるのが好きという国民性からいっても、盲目的な保守指向というのはそれほど強くはないでしょう。
では、なぜ人々は今回もレイバーを選んだのか?ここはもう推測の域を出ません。また、投書や掲示板などで意識的に語られる部分よりは、もっと無意識的な、暗黙の声なき前提部分に依拠しているように思います。僕が推測するには、現在の州レベルで問題になってる領域は、病院、学校、公共交通機関や道路などの社会的なインフラ整備です。こういった社会的インフラや福祉の部分、右か左かというとどちらかというと左翼的な領域は、伝統的に労働者階級、庶民階級の政党、レイバーの方が強いです。経済界や富裕層を基盤にするリベラルは、経済政策や右翼的な国防などに強く、農村票を集めるナショナルの農業政策レベルで強い。つまり、日本における自民党の支持基盤と、こちらのコーリション(連立政党)であるリベラルとナショナルは似ている。そして、レイバーは民社党とか社民党に近い。
右の図は、新聞に掲載されていた選挙区と当選政党の図ですが、これを見ても一目瞭然のように、シドニーでは富裕層の多いノースショアでは圧倒的に青色のリベラルが強く、西部エリアは赤色のレイバーが勝利を収めています。また、NSW州全体では、農村地帯では青色(これはリベラルのパートナーであるナショナル)が強く、地方都市部では赤色のレイバーが勝っています。つまりは、都市型中流層に強いレイバー、富裕層&農村票に強いリベラル&ナショナル連立という構図になっていて、このことが選挙結果をみてもかなり明確に出ていると思います。
さて、前述のように労働者の権利、生活権の保護、福祉領域は、民社党や社民党の得意領域であり、オーストラリアではレイバーの領域です。ここ20年ほどの世界の潮流では、こういった右と左、昔のイギリスでいえばホィッグ党とトゥーリー党的な色分け、思想的な色彩は薄らいできています。どちらの政党も言うことは似てきたりするし、庶民側の政党でも優秀な経済政策を持たないと支持されないし、財界側の政党もすぐれた福祉政策をアピールしないとならない。あんまり差がなくなってきている、というのは言えると思います。が、それでもやっぱり基盤やカラーというものはあります。アメリカでも、ブッシュ政権の基盤となるリパブリカン(共和党)と、ヒラリー・クリントンを擁するデモクラッツ(民主党)は、やっぱり基盤や価値観に差はあるでしょう。
オーストラリアの場合、目下のところ、連邦はリベラルが仕切り、各州政府は全部レイバー政権になっているという、連邦レベルと州レベルで全く逆転しています。これは何故かというと、経済政策や国防などの連邦レベルでは経済に明るく、比較的右寄りのリベラルが勝り、その代わり日々の生活に直結する州政府レベルでは福祉や社会面に強いレイバーが強いという、住み分けみたいな感じで推移してるんじゃないかと思われるわけです。
現在、NSW州のレイバー政権の運営は、たしかに皆に喜ばれているとは到底言い難い。公共交通機関のボロボロ度は一向に改善されているような気がしないし、しょーもないスキャンダルで閣僚級が辞任を余儀なくされるなど、かなりぶったるんで来てるなって気はします。しかし、そうかといって、リベラルがそれ以上に上手に切り回すか?というと、本来は金持ち優先政党なだけに今ひとつ信じかねるって部分があるんだろうなって気がします。そもそも富裕層は、公共交通機関を使わないし(マイカーで移動するし)、子供の学校も私立だし、病院や保険もプライベート保険でやっちゃうから、この種の問題について最も実害を被っておらず、利害関係に乏しかったりします。そういったものの見方を打ち破るだけの斬新でカリスマ性のある野党リーダーが出てきたら話もまた違うのでしょうが、歴代のNSW州リベラル党首って僕も忘れてしまうくらい、インパクトがないです。「えっと、今、誰だっけ?」ってな感じですもんね。
今回の選挙の結果も、そういったベーシックな構造があってのことだと思います。現政権の長期化を憂慮し、ちょっと喝を入れなきゃねって意識は広く一般にあるようです。でも、だからといって、福祉政策はもう適当に切り上げて、その代わりガンガン経済政策をやってくれって意向ではない。むしろその逆で、学校や病院の拡充などを、もっと力を入れてやれということでしょう。つまりは、よりレイバー的であれ、と。ダラけてないで、もっと真面目に本業に励めってことであり、レイバー的な政策指向そのものが否定されたわけではない。だから、ブーブー言いながらも、結局はレイバーが勝ったってことでしょう。しかし、勝たせてしまったら、ダラけた部分が直らないかもしれず、そこらへんにジレンマがあるのだと思います。
文責:田村
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