今週の1枚(07.01.22)
ESSAY 294 : 不二家騒動と消費期限/賞味期限
写真は、真夏の強烈な日射しと、City/QVBのYork St側のバス停の向かいにあるAbbey's書店。ここは言語学習用の書籍が充実しているので有名です。
最近、日本で洋菓子の不二家が叩かれているようですね。この一週間くらい連日の大報道だし、当局の立ち入り調査が入ったりして、まるで凶悪な犯罪事件であるかように騒がれています。が、ことの発端は、シュークリームを作るときに消費期限が一日過ぎた牛乳を使ったというだけのことみたいです。冷静に考えてみると、何をそんなに大騒ぎしているか、僕にはよく分からんのですが。
報道によると、『消費期限切れの牛乳の使用は埼玉工場の製造担当者が決めた。「捨てるのはもったいない。においをかいで問題ないと思った」と言い、「2年前にもやったかもしれない」と話しているという』となってますが(朝日新聞2007年1月11日)、素朴な感覚でいって、この担当者さんの気持ち、僕には分かりますよ。だいたい消費期限が一日やそこら過ぎたくらいで別にどってことないですよ。特に日本は冬場でしょう?「犯行」は去年の12月、あるいはその前年の10−11月だから、年がら年中やってたわけでもないんでしょ。日本の厳しい消費期限と、気候からいって、それほど大事件だとは思えないんですけど。
もちろん、全然お咎めナシでいいとは思わないし、しかるべく処分はあってもいいでしょう。また、他の食品業界に対して「他山の石」というか、ありていにいえば「見せしめ」としてちょっと叩いておいてもいいかもしれません。さらに、同社の隠蔽体質についても、「見せしめ」的に批判しておいてもいいかもしれません。なんで「見せしめ」かといえば、食品製造管理におけるこの程度の杜撰さは、どこの業者だってやっているだろうし、個人だったらもっとやってるでしょう。僕だって、期限が切れたモノでも異常がなかったら平気で使いますよ。一般の食品加工業やレストランの衛生感覚というのはこんなもんじゃないだろうし、もし本気でそれが恐かったら外食なんかしちゃダメ、屋台なんかもってのほか、東南アジアに旅行してメシ食うのもダメでしょう。皆が皆そうだというわけではないけど、国内外を問わず、ヒドイところはヒドイですよね。また隠蔽体質については、日本の大多数の企業や個人がこのような隠蔽体質を持っているでしょう。いわばデファクトスタンダードというか、工場出荷設定というか、表面的には「イイコ」になるというのは日本社会での基本でしょ。子供の頃からオヤツをつまみ食いしても知らんぷりして、宿題忘れたら他人のを写させてもらって、就職したら出張旅費をチョロまかして、エラくなったら脱税して、もっとエラくなったら秘書がやったことにして知らんぷりするのが日本でしょ。賞味期限の1日やそこら、可愛いものじゃないですか。
皆誰でも知っている、誰でもやっていることであるのに、いざそれがバレた運の悪い奴がいたら、「とんでもないことをする奴だ!」と皆して声高に批判をする、、、という、超偽善的な風景は、何も今に始まったことではありません。それが、まあ、日本という社会のゲームのルールみたいなものなのでしょう。それを今直ちに変えろと言っても変わるものでもないでしょう。ただ、僕が思うのはですね、あんまり無邪気にこのゲームに打ち興じていると、まだ日本というものに慣れていない年若い世代や外国の人々から、我々の知性と倫理を疑われてしまう危険があるってことです。あなただって子供の頃、「大人って嘘ばっかりじゃないか」って思ったことの一度や二度はあるでしょう。だからもうちょっと、「いや、分かってやってるんだけどね」「まあ、儀式みたいなもんなんだけどね」って所を見せて、批判するにももう少し後ろめたそうにやったらどうかな?ってことです。
ところで、賞味期限というのはオーストラリアにもあります。「BEST BEFORE 22/01/07」などと書かれています(2007年1月22日までという意味)。賞味期限に関する正式な規制というものはあるのか?と、ふと疑問になり、ネットでちょろっと調べてみたところ、ビクトリア州政府による Better Health Chanell という機関のホームページに解説がありました。 Food - 'use-by' and 'best before' dates というページに書かれています。間違いのないようにその部分を複写しておくと、、、
From December 2002, all packaged foods with a shelf life of less than two years must have a use-by or 'best before' date stamped on the box, wrapper or bottle. This date gives you an idea of how long the food will last before it loses quality. A product will remain fresh and of good quality right up to the 'best before' date (and sometimes beyond) if it is properly stored, both at home and at the supermarket.
Foods with a shelf life of less than two years must have a 'best before' date. It may still be safe to eat those foods after the 'best before' date, but they may have lost quality and some nutritional value. Foods that should not be consumed after a certain date for health and safety reasons, such as a ready-to-eat chilled lasagne, must have a 'use-by' date. An exception is bread, which can be labelled with a 'baked on' or 'baked for' date if its shelf life is less than seven days.
2002年10月から、シェルフライフ(商品陳列期間)が2年以下の食品はすべて use-by あるいは best beforeの日付を記載しなければならないことになっているようですね。ここで興味深いのは、この二つの、use-byとbest beforeの違いです。表示されている期間を過ぎても、多少風味や味は落ちるかもしれないけど、直ちに危険になるものではないものは best beforeであり、危ないから食べてはいけないものは use-byとなるようです。言い換えれば、安全性よりも味的な見地で表示されるのが best before、安全性の見地から定められるのが use-byということですね。なお、パンの場合はこれらの例外になるそうで、シェルフライフが7日以内のパンについては、"baked on (for)"という、「いつ焼いたか」という表示をするように義務づけられているようです。
ほー知らなかった、勉強になるな、このエッセイは、、と、誰よりも書いてる本人が思いますね。こんなの自分で書かなかったら調べようとは思わないもんね。これはビクトリア州政府機関の説明ですので、正確にはNSW州など他州では違うかもしれません。でも、大体似通ったものだと思われます。
この広報文の次のパラグラフがおもしろいのですが、「Manufacturers usually choose a 'best before' date well before the time when the food would be expected to deteriorate and spoil. A conservative 'best before' date is designed to encourage you to eat the product while it is fresh and at its best, so you should consider 'best before' dates as a guide only. Frozen and canned products, in particular, tend to keep their quality for some time after the 'best before' date has expired. Within reason, provided the food looks and smells as you would expect, it should be safe to eat, even if the 'best before' date has passed.」 と書かれています。食品業者としては、できるだけいい時期に食べてもらいたいだろうから、best beforeの日付を、実際に品質が落ちたり、危なくなったりする時期よりもかなり手前に設定する場合が多い。ゆえに、これらの賞味期限は単なる目安程度に考えておけばいいだろうと。ここまでは分かるのですが、その次に、「このような理由から、あなた自身が見たり臭いをかいでみて、別に不審なところがなかったら、たとえば賞味期限を過ぎていたとしてもそれは安全だと思われる」と書いてます。
このパラグラフ以降も広報文は続くのですが、「ふむ」と思ったのは、「best beforeとuse-byの違いをちゃんと知っておけ」「前者はナーバスになることはないけど、後者は危ないからやめとけ」という区切りの意味を確認させていく点が一つ。もう一つは、「保存の仕方」をくどいほど書いてます。賞味期限というのは、「適正に保存されたら」の話であるから、適正に保存されなかったら、その期間は意味を持たないこと。たとえば、牛乳だったらずっと冷蔵庫に保存してあっての話であり、料理に使うために冷蔵庫から出してキッチンに置いてる時間が長くなったら、もうそれだけでかなり寿命は変わってくる。さらに、買い物の時のコツとしては、冷凍冷蔵を要する食品は、買い物をするときの最後に買うこと、また買ってから家の冷蔵庫に入れるまでの時間をできるだけ短くすることであると。これは「ううむ」と思いましたね。そうなんですよねー。賞味期限が実際のところどうなるかは、製造業者、販売業者の段階よりも、消費者が買って食べるまでの状態に大きく左右されると思うのですよ。牛乳買った買い物袋を下げて、そこら辺で井戸端会議やってたらアウト。車に積んで渋滞に巻き込まれたりして何時間もかかったら、それでアウト。買ってから冷蔵庫に入れるまでほったらかしにしてたらアウト。冷蔵庫から出して、しまい忘れたらアウト。業者というプロの段階であれこれミスが混入する確率よりも、素人である我々の段階で品質を劣化させる確率の方が高いってことは、これは言われたら「そりゃそうだよな」と思いますが、意外と気づきにくいです。
総じて言えば、消費期限&賞味期限だけを金科玉条のように唯一の基準としてあがめている奴は馬鹿だということですねー。まあ、この広報サイトは馬鹿とかそんなことは書いてないけど、賢い消費者は、賢くすべての構造をちゃんと知っておけってことなのでしょう。
じゃあ、こういった賞味期限に関する規制は、日本ではどうなってるのかな?ということが、返す刀で気になってきます。
これもまた、ネットでぱらぱらとWikipediaなどで調べてみますと、結構意外な事実や経過がわかりました。
まず根拠法令ですが、一つは食品衛生法、もう一つはJAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)です。厚生労働省VS農林水産省ですね。省庁が二つ以上登場した場合、まず縦割り行政的に、別個バラバラな規制をしてるんじゃないかと疑ったらいいですが、実際過去においてはそうでした。厚生労働省の食品衛生法上の規制では「品質保持期限」という名称で記載を要求し、JAS法上は「賞味期限」となっていました。これに加えて、あと「消費期限」という概念もあり、「期限」だけでも三つが並立しておりました。ただ、日本のお役所も進歩したのか、2003年に両省合同会議で規格を統一し、「賞味期限」に一本化しました。ただし、「消費期限」という概念は残ります。
賞味期限と消費期限の違いは、これは現在にも適用されますので日本で消費者やってる人は知っておかれると良いと思われますが、消費期限というのは「製造日を含めて概ね5日以内に急速な品質の低下が認められる食料品」に課せられます。要するに「足の早い」食べ物は消費期限。賞味期限は、「その食品を開封せず正しく保存した場合に味と品質が充分に保てると製造業者が認める期間(期限)」だとされます。似たような感じですが、消費期限はもっぱら食品の安全性がポイントであるのに対し、賞味期限は「味」も要素になっているという点が違います。この意味で、use-byとbest beforeの概念とかなりパラレルだと思われます。
日本での規制については、もう一つ、大きな問題が過去にありました。それは「製造年月日表示の廃止」に伴う問題です。結構議論になりましたから、覚えている方もいらっしゃるのではないかと思うのですが。その昔の日本では、「製造年月日」の記載は義務づけられていたけど、賞味期限は一部を除いて義務ではなかったです。ところが、1995年に従来の製造年月日方式から、賞味期限方式に大転換が行われました。すでに10年以上経過し、僕らの意識では賞味期限が当たり前になりましたけど、昔は確かに「製造年月日」でやってましたよね。僕も覚えてます。
なんでそうなったのか?ですが、いろんな理由があったのでしょうが、一つは、製造年月日がよく分からない食品があるってことですね。たとえば、納豆とか、漬け物とか、ヨーグルトなどの発酵・熟成による食品。確かにこの種の食品は、製造が「いつ」って言われても困りますよね。出荷時とか、包装時って基準もあろうけど、出荷や包装するまでモタモタしてたらどうするんだ?って問題もあろうし、食品によって基準時は様々だろうし、無理矢理基準を設ければ良いって問題なのか?って問題はあります。あとの理由は外圧。外国産の食品の場合、国際的には賞味期限という形でやっているのが一般的なので、日本国内で製造値月日なんか求められても困るという、外からの要請ですね。
で、結局、問題は何時作ったかではなく、いつまで美味しく安全に食べられるかではないのか?ということで、製造年月日から賞味期限方式に切り替えられたのでしょう。尤も、これに対しても批判は多く、製造時期が分からず賞味期限の表示だけだと、保存剤や添加物を山盛りいれている食品の賞味期限が長くなり、できるだけナチュラルに作ってる食品の賞味期限が短くなり、前者の方が有利になる。しかも、そういう理由で賞味期限の差がついているということが、消費者の立場からはわかりにくいことです。また、牛乳などの場合、日付が変わった午前0時から操業を開始、出荷し、店には「同日製造」のものとして並べたい、あるいは同日製造のものを買いたいという消費者の欲求があります。ただし、関係労働者の負担は大きいです。
製造年月日方式が良いのか、賞味期限方式が良いのか、それをここでは論じませんし、僕もにわかにはわかりません。ただ、賞味期限といえば、そういう問題があったよね、ということを確認しておくだけのことです。
さて、賞味期限といいbest beforeといい、これらの表示は、当局が言うように、あくまで目安に過ぎないのでしょう。絶対的なものではない。なぜなら、前述のように消費者レベルでの保存状態の良否よって劇的に変わってくるとい理由が一つ。もう一つは、食べ物というものは、工業製品のように一つの基準で計るべきではないという根本的な理由があると思います。食べ物というのは有機物であり、本質的には「生き物」ですから、それぞれの個体の成り立ちが違い、外部環境の影響をビビッドに受けます。同じ畑でとれた同じ野菜であったとしても、厳密な意味で全く同じ味ってことはないでしょう。それは、僕ら人間が一人ひとり顔かたちが違うのと同じことです。背が高かったり、太っていたりという個体差があります。病弱な人もいれば、頑健な人もいるでしょう。ということは、同じ食品でも早く腐敗するものもあれば、遅いものもあるということです。
結局、なにであれ最終的には、「今、コレを食べても大丈夫か?」という判断に帰着すると思うのですね。製造年月日や賞味期限の表示も、最終判断のための一つの「参考資料」に過ぎず、別にこれらに拘束されることもないし、逆にこれに従っていれば絶対安全というものでもないです。賞味期限前であってもキッチリ品質が落ちてるものもあるだろうし、賞味期限を過ぎていてもほとんど変化がないものもあるでしょう。
何を言ってるかというと、自分の食べ物の最終的な判断者&責任者は他ならぬ自分であるということです。賞味期限などの情報は、あくまで「参考」であって、「命令」でも「指示」でもない。安全なモノ、美味しいモノを食べようとするならば、最終判断者としてのジャッジメントのスキルを磨くしかないのでしょう。
そのスキルは、例えば上述の消費期限と賞味期限、あるいはuse-byとbest beforeの違いを知るという、社会的な規制その他の情報の収集&理解であったりするでしょう。「和牛」と「国産牛」の違いとかね。和牛は、牛の種類。国産は、その牛が育った場所の問題です。だから、オーストラリアで日本の和牛を育てれば、「和牛だけど国産牛ではない」ことになります。その種の表示上の意味とか、知ってるようで案外知らんです。
しかし、よりトラディショナルで、より根本的なことは、食べ物のことと自分の身体をよく知ることだと思います。それは例えば、生鮮食料品の鮮度をキチンと見極める「目利き」です。魚が古くなると目が白濁していくとか、野菜が古くなるとしなびてくるとか、そういうことです。これは、「こういう状態が最も美味しい」という味覚的な判断と、「こうなったらもう食べてはいけない」という安全判断の二つがあります。前者の味覚判断は、例えば、旬の時期を知っているとか、新鮮であることが必ずしも最上ではないことを知っているとか(野菜の完熟度の判断とか、肉や魚は落としてから時間が経った方が美味しくなるモノもある)、そういうことです。後者の安全判断は、食品がダメになった状態を知っておくことですよね。
気になるのは、世の中清潔に安全になるのはいいのですが、逆にこういった個々人の基本的なスキルが落ちてるように思われることです。最近の子供さんとか、腐った牛乳や卵って見たことあるのかしら?魚だって切り身にしてパックで売られてるから、鮮度もよく分からんでしょう。こういうのって、ある程度悲惨な生活をすると身につくのですね(^^*)。男の子などの場合、大学に入って貧乏下宿暮らしをするようになると覚えますよね。金がないから自炊をするのだけど、せっかく買った食料がヤバイ状態になっている、うう、勿体ない、大丈夫かなあ?ええい、大丈夫だろ、食べちゃえ、、、って経験をして、「うわ、やっぱりダメだった」とか「結構このくらいだったらイケるもんだな」ということを身体で覚えていきます。僕もそうでした(^^*)。そのあたりの見極めは結構シビアですよ。
大体、ちょっとやそっと腐りかけてたからといって、ただちにどうかなってしまうくらい人間の身体はヤワではない筈です。そんなにめったやたらと食中毒なんか起こさないです。せいぜい下痢するくらいでしょう。食中毒になったとしても下痢程度で済むでしょう。生命に重大な危機を及ぼすとか、回復不能の後遺症をもたらすというのは、一般の腐敗菌レベルではなく、コレラ、サルモネラとか赤痢菌とかそのくらいの大物を持ってくる必要があるでしょう。もっとも、日本人の胃腸は世界最弱と言われているらしく、ずっと昔バリ島でコレラ感染により日本人旅行者が激減したらしいけど、罹患したのはモノの見事に日本人だけ、行かなくなったのも日本人だけというのは有名な話です。胃腸弱すぎ。雑菌に対する抵抗力無さ過ぎ。まあ、ストレスで胃腸が弱ってるんでしょうねえ。だったら、多少のモノを食っても大丈夫なくらい頑健な身体を作るというのも、大事なことだと思いますよ。消費期限1日過ぎたくらいの牛乳を使ったシュークリームを食って、それで腹でも下したとしたら、ある意味、それは下す方が悪いというか、もうちょっと強くなれよって気もしますね。いや、生来的にそういう過敏体質の方はお気の毒ですが、そうでない普通人の場合、マジにライフスタイル点検した方がいいですよ。身体の抵抗力や免疫力が極端に落ちてる可能性があるんだから、下痢程度の可愛いレベルではなく、いつかもっとシリアスなことになるかもしれないもん。
ところで、日本のマスコミは、今僕が書いたようなことを言ってたりするのでしょうか。言ってる人を紹介したりしているのでしょうか?多分してないような気がしますね。もう、戦前の大政翼賛会が「神州不滅」で盛り上がってたように、不二家極悪!で一色に染まっているのではなかろうか?なーんか、ヤですね、そーゆーの。
でも、マスコミやネットなどの媒体を通さず、直接日本に住んでるふつうの日本人に聞いたら多分違った反応が返ってくると思います。以前のO-157の時だって、牛肉問題やらで焼肉屋さんが大打撃を受けたときだって、「今がチャンス!安全には絶対に注意してるだろうし、客が少ないから値段も安くなってるし、今食わんでいつ食うんですか?」ってバリバリ食べまくっていた知人が何人かいました。そうだよねー、不二家も自粛してないで、がんがんシュークリーム売ってほしいですね。今なら絶対安全でしょう。他のメーカーよりも安全でしょう。そういえば、僕が赤ん坊の頃、森永ミルク事件がありましたが、「だから尚更安全なのだ」という親父の方針でその森永ミルクを飲んで育ったのがワタシです。そうそう、もう一つそういえば、お金を貸すんだったら破産した直後の人に貸すといいって言いますよね。だって、破産宣告時(もっと正確にいえばその後の免責決定時)において、その人のそれまでの全借金がチャラになってるわけですよ。完全リセット状態。それに破産したらしばらくクレジットもローンも組めないから借金したくてもできない。それに比べれば、破産してない普通の人の方が、住宅ローンやクレジットなどでよっぽど借金まみれになってるわけで、破産(免責)直後の人の方が遙かにクリーンなんですよ。破産に至る経緯も問題なんですけど、もしその人に責任がないような経過の場合(連帯保証人になっていたとか、連鎖倒産を食らったとか)という場合、お金を貸すならその人ですね。一見羽振りの良さそうな人って、実は借金漬けになってたりするおそれがありますから。
このようにリスクと安全は、しっかり考えてないとドツボにはまります。皆がやってるようにやると、失敗する場合も多々あります。その昔NTTの株を300万円プラスアルファで買って破産した人、今、ライブドアの株を買いまくって自殺してる人もいるらしいけど、最終判断者&最終責任者は自分ですので、そのあたりのリスクの算定にはご注意を。
ところで、オーストラリアの賞味期限、BEST BEFOREですけど、アテにしちゃダメですよ。この基準は日本よりも遙かにゆるいですから(皆胃腸が強いんだろうな=胃腸薬なんか全然売ってないもん)、とんでもないくらい先の日付になってたりします。特に豆腐なんか2ケ月くらい先だったりして、「げ、本当かよ?」って気持ち悪くなります。メチャクチャ変な保存剤を死ぬほど入れてるんじゃないかって思いますよね。でも、ご安心を。ちゃんと賞味期限前に腐ります。なんかうれしいですよね、腐ってると。「あ、ちゃんと腐るんだ、良かった」って。賞味期限まで1ヶ月以上あったら大体腐ってますね。1ヶ月半から2ヶ月くらいが堅いところです。ちなみに、すごく美味しい、韓国人の人が作ってると言われる汲み出し豆腐のようなものが売られてますが(行くところに行かないと買えない)、この賞味期限はおっそろしく短いです。1日もないでしょう。まだ温かい状態で買って、温かいうちに食べるくらいがいいです。賞味期限数時間から十数時間ですね。
卵でも、賞味期限なんか参考にもならないので、自分の目で調べるべし。こちらの卵は、パックの蓋が開くようにできているので、割れてる卵はないかどうかを点検するとともに、卵の見た目や肌触りを確かめてから購入すべし、です。また種類も異様に豊富にあって、サイズだけではなく、鶏舎に入れられているか地鶏であるか、餌に何を使ってるか、オーガニックかどうか書いてあります。一番安いのと高いのとでは3倍近く値段の差があります。牛乳でも、買ってから家の冷蔵庫に入れるまでの時間、状態、さらに使ってる状態、その期間の気温などによって、賞味期限前でもキッチリ悪くなるモノもあれば、賞味期限までイケるものもあります。ただ、こちらは乳製品が非常に美味しいので、腐るとかそんな以前に、数日以内に確実に美味しくなくなります。悪くなったというよりも、美味しくなくなる。「風味が落ちる」ってこういうことを言うんだってのがよく分かりますよ。
野菜も一個づつバラで買えますし、魚もフィッシュマーケットなどでは「これ!」といって指定して買うので、しっかり目利きをしてください。目利きは、通常一般のものであれば、たくさん見ていくにしたがって状態に差があるのことが分かるし、だんだん慣れてきます。
だから、まあ、鍛えられるわけです(^^*)。鍛えられてきた感覚でいえば、間違ってもそんな消費&賞味期限だけを金科玉条のように判断の基準に据えたりはしないし、そればっかり言ってる不二家の報道に違和感を覚えるわけです。「違和感」とかいうよりも、端的に腹立たしさすら感じます。
で、話を不二家に話を戻しますが、そりゃあ不二家は悪いですよ。勿体ないって気持ちは分かるし、事実上実害がないこと、賞味期限それ自体にそれほど大きな意味を持たせるべきではないことを加味しても、それでもやっぱり悪いことは悪い。
そもそも不二家の場合、賞味期限ではなく、消費期限の過ぎた牛乳を使っていたらしいから、賞味期限切れとは違って、罪は重いでしょう。しかし、普通牛乳って賞味期限でしょ。スーパーなんかではそうですよね?製造後5日で腐ったりはしないでしょう。だから、不二家のシュークリームはすぐに腐る牛乳、逆に言えば低温殺菌などの品質の良い牛乳を使っていたのですかね?そのあたりの情報はあんまり書かれていないのですが。だとしたら、多分美味しい牛乳であり、シュークリームも美味しかったんだろうなーって思います。オーストラリアにいる身には食べる機会もないですが。今度帰国して不二家が潰れてなかったら食べてみよう。
しかし、悪いのは悪いけど、それほど極悪か?って言われると、「ズルい」くらいの感じです。一番文句言いたいのは、消費者ではなく、真面目に作っている他の食品業者さんだと思います。消費/賞味期限の過ぎた牛乳何十キロも捨てたら、それは勿体ないですよ。コスト的にもあわないですよ。それでも真面目に捨ててる人だっているわけで、そこでズルをして許されたら、真面目にやってる人が浮かばれないです。このように、「公平」の観点からは、不二家は断罪されてしかるべきです。まあ、カンニングをしたくらいの感じね。
それと、単に「期限を守っている」とかいう消極的な意味にとどまらず、「良い牛乳」を「最高の状態」で使ってる業者さんだっているでしょう。これはもっともっとコストは嵩みます。例えば抗生物質を食べさせていない牛から取れた牛乳で、時間のかかる低温殺菌を地道にやり、しかも出来たての牛乳だけを使うとしたら、乳製品の味は飛躍的に良くなるでしょうが、でもコストも飛躍的にかかります。それを、巧みなマーケティングで「超最高級品質」として派手に訴求できたらいいけど、そんな宣伝費もないって所も多いでしょう。でも、地道にイイモノを作り続けている業者さんだっていると思います。もう、「知る人ぞ知る」という感じで、マスコミなんかでは絶対わからないでしょうけどね。
期限の過ぎた牛乳、あるいは期限内だけど風味は落ちた牛乳を使ったシュークリームを食べようが、真性の最上級シュークリームを食べようが、消費者に味の違いが分からなかったら意味無いです。期限を含めダメ商品を作った人にはそれなりの評価(美味しくないから買わない)、いい商品を作っている人にはそれなりの評価(高額だけど美味しいから買う)という具合に、消費者が賢く、シビアに判断することが一番大事なことだと思います。報われる/報われない、ズルをした人のやったもん勝ちにする/しないにするかどうかは、すぐれて消費者の責任だと思います。
その意味では皆さん鋭敏な舌を鍛えてください。皆が鋭敏な舌を持ってたら、風味の落ちた牛乳を使ってたら売り上げが落ちるから、自然と良い商品、安全な商品になると思います。それに、期限だけを論じていてもしょうがない側面もあります。なぜなら製造工程においてはキチンと期限を守っていたとしても、スーパーなどの商品陳列レベルで保存が十分でなく品質が劣化する場合(冷蔵コーナーの機器の故障とか)、買ってきた後自宅の中での保存状態が良くなかった場合もあるわけです。だから、口にした瞬間、あるいは匂いを嗅いだ瞬間に、「む!これは!」と思うべきでしょう。
筆を滑らせて、これは極論なのを承知で言ってみます。賞味期限とか消費期限などの規制がありますが、一回、これらの規制を全廃してみたらどうでしょうかね?「100%自己責任で買え」という原点に戻すわけです。皆さん必死に目を鍛え、鼻を鍛え、舌を鍛えるんじゃないでしょうか。それに、自信のないものは買わなくなるだろうから、メーカーや販売店の方から、規制が無くても、「これは大丈夫だ」ということを、あの手この手で立証しようとするでしょう。生産者や工場から出荷、運搬、搬入、陳列のすべての工程において、責任者の署名と時刻が書かれているレポート用紙を売り場に貼っておくとかさ。売るためにはがんばって努力すると思います。そういう世の中になったら、皆の食品に対する理解や態度も深まると思うぞ。
しかし、ぼそっと思うのだけど、マジに牛乳が腐ったり、悪くなってたら、とてもじゃないけど飲めたもんじゃないですよ。もう知識とか目利きとかいう以前に、本能的に飲めないです。いくらクリームにして砂糖ブチこんでもあの異様な味は隠せないと思います。
最後に、厚生労働省は賞味期限についてどう説明しているか、です。
加工食品に関する共通Q&A(第2集:期限表示について)/厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課・農林水産省消費・安全局表示・規格課
という、いかにもお役所的な長ったらしいタイトルの資料があります。用語の統一に伴い「賞味期限」の新しい定義が説明されています。賞味期限の新定義とは、「定められた方法により保存した場合において、期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日をいう。ただし、当該期限を超えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがあるものとする。」となっています。
そして、注目すべきは、
Q6 今回の改正で、賞味期限の定義に「ただし、当該期限を超えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがあるものとする。」との文言が追加されましたが、これはどのような意味ですか。
賞味期限を過ぎた食品等であっても、必ずしもすぐに食べられなくなるわけではありません。しかし、賞味期限が過ぎた食品等は、期限表示された期日以降は食べられないものと考えてすぐに捨ててしまう消費者が多く、食品資源の有効な活用などの観点から、消費者に対する食品等の表示制度についての十分な情報提供・普及啓発の一層の充実の必要性が指摘されています。
今回の改正では、賞味期限の定義に「ただし、当該期限を超えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがあるものとする。」との文言が追加されましたが、これは、上記指摘の趣旨を十分に踏まえ、「包装食品の表示に関する国際食品規格」(Codex規格)の定義の中にある表現を法令の文言上に反映させたものであり、これまでと用語の意味が変わったわけではありません。
という解説がなされています。これは注目すべきポイントだと思います。
だって、賞味期限の定義を長ったらしくしてまで、わざわざ「期限を越えても尚品質が保持されていることがある」という一文を追加しているわけでしょ。「賞味期限を過ぎた」→「だからといって、即、食べられなくなるものではない」ということでしょ?だから、賞味期限が1日過ぎた食材を使ったところで、それが即「悪いこと」とは言えないってことです。そして、なぜこのような一文を追加したかというと、賞味期限を越えたらすぐに捨ててしまう消費者が多いのは困ったものだ、勿体ないじゃないか、「別にすぐに捨てることはないんだよ」とよく言って聞かせなければならないからだってことでしょ。
今回の不二家の事例は、味にこだわったのか、5日以内の「消費期限」牛乳を使ったからアウトなのでしょうが、もし、不二家が普通の保存期間が長い賞味期限牛乳を使っていて期限切れになっていた場合、話は全然違ってくることになります。なぜなら、本家本元の賞味期限を定めた法律、その法律を立案した厚生労働省の解説という、これ以上正統的なものはない資料からすれば、「賞味期限を1日過ぎた牛乳を、見たところ品質も異常がなさそうだから使った」行為は、直ちにイケナイことと即断できないし、「食糧資源の有効活用」という見地からしたら、ある意味むしろ賞賛されるべき行為である可能性もあるわけです。
これまでの不二家の報道は、期限を過ぎたものを使ったことイコール悪いこと、それどころか論調的には”超極悪なこと”くらいのニュアンスで攻撃しているわけですけど、使ってる牛乳が消費期限か賞味期限かで結論が正反対になりかねないって部分を十分に踏まえてやっているのかなあ?って気もしますね。少なくとも、「もし、賞味期限牛乳を使っていたならば直ちに悪いことと決めつけるわけにはいかないが--」くらいの知的抑制があってもいいんじゃないかと。だから、消費も賞味もミソもクソも一緒にするかのごとく「期限切れ牛乳=即悪いこと」というニュアンスで報道されたり、あるいはその報道を理解したりするのは、問題があるでしょう。本家の法律が、消費者の誤解を正すために「別に捨てなくてもいいんだよ」とわざわざ付記している趣旨からしたら、この機会に、消費と賞味の違いを正しく理解しようという流れになってもいいとは思います。
しかし、別な面から見たら、風味が良く、そのため足の早い良質な牛乳は5日以内の消費期限だから、6日目にはもうダメで、賞味期限10日の牛乳だったら11日目に使用しても直ちに問題はない、、、というのも、なんか妙な感じがしますね。理屈からいけばそうなるんだけど、そもそもそんなに日持ちのする牛乳って不気味な気もしますし、また「5日」という確定的な基準で消費 or 賞味と二分しちゃっていいのか?って気もします。オーストラリアのように、5日以内であるかどうかは問わず、期限を越えたら危ないもの/すぐに危なくなるものではないもの、という分類の方が実態に即しているのではなかろうか?
ところで、国民の間にこのような賞味期限に関する誤解が蔓延しかねないこのときにこそ、厚生労働省は「いや、ちょっと待って、消費と賞味は違うんだからね、そこは慎重に考えてね」と発言してもらいたいものですが、厚生労働省のサイトの報道発表資料にも、大臣等記者会見にも、その種の指摘は見あたりませんです。そのあたりについて、今回阿部内閣で厚生労働大臣になった柳澤伯夫君の答弁をお聞きしたいものです。同氏は、ホワイトカラーエグゼンプション法案を強力に推進されておられます。この法案は、「残業代ゼロ法案」と呼ばれ、ホワイトカラーのサラリーマンの残業代をケチりたい経団連の強い意向によって進められているものであり、労組を始め多くの猛反発を招いています。さすがに選挙のある今年に成立させるのはモンダイだとして見送られ、2008年以降の成立予定になってます。柳澤大臣はこれを推進する立役者として活躍しているわけですが、1月16日の記者会見の席上でも、つまり不二家問題が過熱しつつあるまさにその時期の会見でも、記者側の質問も大臣の回答もホワイトカラーエグゼンプションに終始していたりします(厚生労働省サイトにおける「閣議後記者会見概要(H19.01.16(火)10:43〜11:01 省内会見場)。
ということで、僕が思うに、不二家事件が盛り上がっているこの時期に、厚生労働省としては自分の立案した法律に則して消費&賞味期限の本当の定義と意味について発言していただきたいです。消費者の皆さんにおかれては、賞味期限が過ぎたら即捨てたりするともったいないオバケが出てくると思ってください(^^*)。そして、あなたが日本のホワイトカラーの給与所得者だった場合、不二家事件なんか語ってる場合じゃないんじゃないですか?もともとサービス残業やら何やらでろくすっぽ給与を支払ってこなかった日本企業ですが、来年以降一層払わなくなるおそれがあります。払わなくても良いためのお墨付きになる法案が提出されようということですね。この法案が、今年の行われる予定の参議院選挙の一つの論争の目玉になる、、、わけもないだろうけど、心しておかれるといいと思います。シュークリーム食って腹下すかどうかよりも、あなたの給料が減る方が問題だとは思いませんか?
文責:田村
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