今週の1枚(05.09.05)
ESSAY 223/原油価格はなぜ上がる? cw/日本のラブホテルとオーストラリアの投資家の話
写真は、Newtownの街角にて。この箱はおそらく電柱のトランスのような公共設備だと思うのだけど、こんなにペイントしてしまっていいのか?って気もしますが、いいんでしょうね。サメが妙にかわいいです。
石油が上がっています。もう、いい加減にしてくれ!と悲鳴をあげたくなるくらい上がってます。
特に日常に直結するものとしてはガソリン。今週、シドニーの給油所ではリッター1ドル29セントをつけました。先週かその前くらいには、1ドル19セントで「ぐわー、新記録」とか言ってたような気がしますから、こんな調子で上がられたらたまったもんではないです。
10年以上住んでいて、今まで一番安かったときの記憶はたしか70セントを切ってたように思います。80セント台で「高いな」とか言ってた記憶がありますから。それが湾岸戦争のあたりだったかで、リッター1ドルになるかどうかという高値時期がありました。このときも、オーストラリアの多くのガスステーションでは、ガソリン値段のセント表示が2桁までしかなかったからら、3桁にするのに苦労してましたね。紙で「1」と書いて横に貼ってたり、もう1ドルは分かったものとして、101.05セントだったら01.05しか書かなかったり、一ケタの場所に強引に二つ数字を入れたり。
それが今では1ドルを軽く突破して、来週には1ドル30を突破し、年内に1ドル60セントに行くかもしれないとかいう話すら出ています。今現在ですら、かつての2倍くらいです。リッター65セントって時がありましたからね。
昔の写真を漁ってたら証拠写真が出てきました。98年の8月の写真です。65.9セントという時代。→
一方、日本ではどうなってるかというと、9月1日付けの毎日新聞(これをUPした4日前)で「都内、130円超える 広がるガソリン値上げ」という記事が出ていました。
オーストラリアの感覚で言えば、日本の値上げなんか微々たるものです。うらやましい。だって、上の写真のようにオーストラリアでは1998年段階で60−70セント台ものが2倍レベルにまで上がってるわけです。日本の1988年(平成10年)段階のガソリン小売価格を調べてみると、大体90〜100円くらいです。仮に90円だったものが130円にあがっても、値上がり率でいえば50%くらいでしょう。2倍といえば、現在リッター180円とか200円になってることになります。そして、それが現実にいまシドニーで起きているわけであり、まだまだ青天井に上がるといわれているわけです。200円どころか、リッター250円とか300円になるかもよという。こう考えると冒頭の「いい加減にしてくれ」という悲鳴も多少実感がわかっていただけると思います。
しかしですね、なんでこんなに原油価格が上がるのよ?って思いますよね。
これが意外とよく分からないようです。あちこち調べまわったのですが、大体、@中国の経済成長など東アジアでの需要が大きくなってきた、A産油国であるイラクやサウジアラビアなど中東情勢、B単純に石油が枯渇してきた(生産能力の限界)、C投機筋の動きなど、複数の要因が絡み合っており、どの要素にアクセントを置くかは論者によって違うようです。
経済学の初歩である需要と供給でいえば、需要が高まれば値段は上がり、供給が下がっても値段は上がる。@のように今や「世界の工場」といわれる中国で経済発展が続けば、当然石油の消費量も増え、需要が増える、だから価格があがる。また、中東でドンパチが始まれば、石油の生産量も減るから供給減少になり、価格が上がる、これもわかります。
しかし、@もAも昨日今日はじまったことじゃないでしょう?中東のドンパチなんか年がら年中だし、ここ数ヶ月急激に起こったものではない。中国の経済成長だって、ここ数ヶ月になって急に爆発的に生じたものでもないでしょう。もちろん持続的な基盤要因ににはなるでしょうけど、これだけでは今回の原油価格の高騰の説明がつかないのではなかろうか。なんせ、原油価格はこの1年足らずで1.4倍にもハネ上がっているのですから。
となると、BとCですね。Cは、これはこれで分かります。市場の動き、特に先物取引は思惑で動くから、「これからもっと値上がりするぞ」と思えば、
それに見合った行動を取ります。原油を保有している連中は、今売るよりも将来売った方が高く売れるのだから当然売り渋りをするでしょう。一方、投機筋としては、今原油を買っておけば将来もっと値上りして儲かると思うでしょう。ということで、売り渋り市場に巨額なマネーが買いに殺到すれば、そりゃ価格も上がるでしょう。それはわかるのだけど、こうまでなってくると「ちょっと何とかならんのか」って気にもなってきます。
この金融経済、もっと言えば投機経済、もっと露骨にいえばバクチ経済が、実体経済の何倍何十倍もの規模で動いているという、国際金融システムについての問題は、これまで多くの人が多くのことを言ってますが、改めて考えさせられますね。今回の原油高騰で割を食ってるのはオーストラリアにいる僕や、日本にいるドライバーのあなただけではなく、世界中の人が貧乏くじを引かされています。世界人口の99%くらいは割を食ってるのではなかろうか。
今のところ、日本ではガソリンが13年ぶりに130円になるとかその程度の話題で済んでおり、比較的落ち着いてますが、世界的に見れば結構大変な話になってます。今日の朝日新聞の原油関係の記事の見出しを追ってみても、「香港のトラック、安い燃料求め中国・深センで長蛇の列(09/03) 」「ガソリン価格、米3州で初の3ドル台 ハリケーンの影響(09/03)」「仏首相、ガソリン高騰で、スピードダウン呼びかけ(09/02) 」「中国政府、企業にガソリン輸出の停止命令 国内需要優先(09/02)」などの記事が出ています。
しかし、原油が上がれば全てが上がるのは、これまでの石油ショックの例でもおなじみです。とりあえず直近のところでは、石油を原料とした加工品が原材料の値上げを理由を値上げを余儀なくされます。実際、「富士写真フイルム、マイクロフィルムを値上げへ(08/31) 」「三菱化学、プラ製品原料大幅値上げ 原油高転嫁 減産も(08/30)」という動きも出ています。また、運送コストに直結するだけに、航空会社の料金値上げはもとより、ありとあゆる流通コストが上がります。流通コストが上がれば、流通している商品(要するに殆どすべての商品)が上がるでしょう。
また、影響は何も値上げだけではないです。最終的に値上げという形に辿り着く手前で、コストが上がるから各企業の収支は悪化するでしょう。企業としてもコスト高を何とかしようとします。そのまま「石油があがったからしょうがないのよ」ってポンと最終価格に転嫁できる企業はいいです。でも、長い消費不況の日本で、そうやって値上げすることで客離れを起こしてしまったり、ライバル企業に客を持っていかれたら死活問題ですから、そうそう簡単には値上げできないでしょう。
バブルといっていいくらい好景気のオーストラリアでガソリン価格がボンボコ上がってるのと対照的に、日本ではそんなに上がってません。原油高コスト高という構造は日豪同じ筈なのに、なぜ日本の方が値上がり率が少ないのかといえば、やっぱり日本の方が値上げしにくいのでしょう。景気が良くて、皆の金回りが良かったら、多少値上げしても「しょうがないなあ」とブツクサ言ってても買ってくれるでしょうが、今のデフレ日本でヘタに値上げしようものなら売上それ自体が下がってしまう。それが怖いから、企業が自分のところで損を抱えて頑張っているのではないかって気もします。可哀想なのはガソリンスタンド経営者をはじめ経営者の皆さんでしょう。
でも、損を抱えてしまえば、帳尻をあわさねばならない。別のところでコストカットをしなければならなくなり、それはより一層下請け企業を叩いたり、従業員の給料を少なくしたり、さらなるリストラをやるって話になるでしょう。何がどういう経路をたどるかはマチマチだとは思いますが、最終的に何らかの形で皆の生活に降りかかってくることは間違いないでしょう。給油価格が上がるだけではなく、自分の給料が下がったり、冬のボーナスが減らされたり、内定を取り消されたり。社員旅行も取り消しになるから旅行業界が不況になったりとか、忘年会が下火になるから飲食業界が不況になったり、そのあおりを食ってバイト君がクビになったりって話もでてくるでしょう。
このあたりの事情を、朝日新聞のサイトでは、「産業界「価格維持も限界」 NY原油70ドル(2005年08月30日09時03分)」という記事で報じています。
「原材料価格の高騰に悩むメーカーの中には、製品を値上げする動きも出てきた。富士写真フイルムは9月から、印刷向け製版フィルムの卸価格を17%、画像を転写するアルミ製プレートを6〜17%値上げする。原料の石油と発電用燃料の値上がりが二重に響いたためで、販売先の印刷業界からは「印刷料金の値上げは難しく、値上げは痛い」との悲鳴が上がる。
ただ、デフレ傾向が続くなか、販売価格を上げられない企業は多い。
納豆製品製造の「だるま食品」(水戸市)の高野正巳社長は「原油高で利益の大半がなくなった」とこぼす。大豆を煮る燃料の重油や容器パックの価格は1年間で約5割上昇。パート従業員の勤務時間を1日あたり5時間短くするなど経費を減らしているが追いつかない。「競争が激しくて値上げできないが、限界は近い」と話す。
過当競争が続く運送業界も、運賃値上げは難しい。全日本トラック協会(東京)によると、業界全体では昨年4月からの軽油価格上昇によるコスト増は約3240億円にのぼり、中小業者の倒産が増えているという。同協会が6月〜7月に行ったアンケートでは、6割が「運賃値上げ交渉中」または「交渉する予定」と回答。今後は運賃値上げが続く可能性もある。
日本向け原油の指標となる中東産ドバイ原油の先物価格は1年半で2倍に上昇。コスト上昇分を経営努力で吸収していた業界でも、今後は値上げの動きが出てきそうだ。」
今はなんとかそれぞれの企業体力の中で持ちこたえていますけど、そんなことが未来永劫続くわけもないでしょう。どっかで原油価格が下がってくれないことには、いずれはボディブローのように利いてくるでしょう。
これは、まあ、「暮らしの経済」のおさらいみたいな話でしたが、こんな話が世界各国津々浦々でやられているわけですよね。原油価格が上がって笑ってる奴よりも、泣いてる奴の方がずっと多い。じゃあ、原油価格が上がって笑ってる奴、笑おうとしている奴って誰なのよって言えば、要するに投機マネーを動かしている人々でしょう。これだけ値動きの激しい銘柄が出てきたら、それに相場師としては乗らない手ははないでしょう。それはわかる。でもねー、こいつらの動きが実際の値上がり額を何倍何十倍にも増幅させているのだ、世界中の人に迷惑をかけているのだっていう釈然とせんものも感じるわけです。自分の金でどういうバクチを張ろうが、それはその人の勝手ですけど、他人の迷惑になるようなバクチはせんといて貰いたいよなー、なんとかならんのかなって思ってしまいます。戯画的に言えば、マトモに働いてる奴ばっかり割を食って、大金持ちのマネーゲームやってる奴ばっかり笑ってるってのは(まあ、損もするから泣くこともあろうけど)、「これでええんかい?」って気がしますね。
それが資本主義というものなのでしょうが、資本主義ってのは頑張っていい商品を開発した人が沢山売れて金が儲かるというシステム原理のことで、ごく一部の金持ち連中のバクチの帰趨で残り全員が右往左往させられ、とばっちりを受けるのが「資本主義」なんかね?って気もします。「投資」は資本主義の根幹だから当然認めるにしても、「投機」は資本主義の本来の枠からしてなにも絶対自由にしなくたっていいんじゃないかという。
数年前の「アジアショック」のときもそうでしたけど、世界中のヘッジファンド等が大挙してアジア市場で相場張りまくって、むちゃくちゃなバブルに盛り上げて、いっせいに手を引いて東南アジア経済を大打撃を与えたのを思い出します。胴上げして最後に地面に叩き落すようなものです。一生懸命これまで自国経済を育ててきたのに、よそからやってきたらいわゆるハゲタカファンドの連中に国を滅茶苦茶にされたマレーシアのマハテーィル首相が、「あいつら、海賊だ、強盗みたいなもんだ」と罵倒したりしたのもこのときで、僕も「その気持ちはわかるわ」と同情したもんです。その「あいつら」のせいで、インドネシアルピーはオーストラリアドルに対して5分の1、韓国は半減、そのためオーストラリアへの留学を泣く泣く諦めたアジア人は何千人といるでしょう。おかげでシドニーの語学学校の経営も直撃し、減少した生徒を回復するために値引き合戦とかやってたもんです。
今日も給油してきましたけどねー、こーゆーのって「アリ」なの?って疑問が湧いてきてしまいますね。
かといって、ヘタに価格統制をかけたらそれは共産主義的になっちゃうし、仮にそれを一時的に認めるにせよ、政府内部にまで情報ルートをもってる連中のことだから、それをネタにまた一儲けするんじゃないかって感じもします。資本主義にせよ何にせよ、常に行き過ぎという現象はあるわけで、それをどうクレバーに対処したらいいのか、悩むところです。
ところで、Bの可能性も語られています。つまり投機筋だけの問題ではなく、マジに石油資源が枯渇してきてるんじゃないかってことです。
これはこちらの新聞で読んだ記憶があります。石油資源が枯渇するかどうかはともかく、量産しようにも量産しにくいという現状がある、と。今回のアメリカの台風によってメキシコ湾の石油基地が破壊されたように、これまでも世界各地の石油関連設備が天災その他でダメージをこうむって、十分な生産能力を維持できなくなってるってことです。確かに、ここ数年、地震だらけの日本に限らず世界的に天災が多いですからね。インドネシアで津波があったと思ったら、今度はアメリカの台風です。今回のアメリカ台風の被害によって、国際エネルギー機関(IEA)は14年ぶりに備蓄石油緊急放出を決めましたが、逆に言えば台風一個、石油設備一つが壊れただけで、世界的にここまでの対応が求められるわけです。生産が逼迫してるというけど、結構シリアスにそうなのかもしれません。
また、これも読んだ話ですが、毎年毎年世界各地で発見されている筈の新しい油田が、ここのところあまり発見されていないとか。これが一番怖いですよね。中東情勢も、中国の経済拡大も、あるいは国際投機マネーも、しょせんは人為的な行為です。人間がやってるわけで、いよいよとなれば何とかならないわけでもない。しかし、石油そのものが枯渇してきたら、これは何をどう頑張ってもマズいです。政治や話合いで根本解決するものではないですから。
まあ、この手の話は、一回読んだきりであとそんなに目にしてませんから、本当かどうかは分かりません。あまり一般的に語られていないことから、それほど大きな要因ではないのかもしれません。もっとも、これも色々なレベルの問題が絡み合ってます。ざっと考えただけで3層構造くらいになっていて、まず(1)地球の石油の埋蔵量が枯渇しかけている、(2)埋蔵量そのものは当面問題ないけど技術的に採掘可能な石油の量が限定されている、(3)埋蔵量も採掘可能性も問題ないけど、石油関連設備の量や稼動状況が追いついていない、という各レベルの問題があるのでしょうね。
(1)の絶対的埋蔵量ですが、幾ら残ってるか正確に知ることは今の科学力でも不可能でしょう。だから「推定」埋蔵量という言い方になります。技術革新によってこれまで知られてなかった油田がどんどん発見され、推定埋蔵量は逆に昔よりも増えているという説もあります。ただ、いくら埋蔵量が増えたとしても、それが海底1万メートルのマリアナ海溝の下とかにあったら採掘できないです。埋蔵量があることよりも、「採掘可能量」がいくらあるかどうかが問題だという(2)はそれなりに正しい議論でしょう。また、石油というのは原油が見つかればすぐに使用できるわけではなく、大規模な掘削設備を設け、パイプラインを通し、さらに精製しなければならない。多段階の生産加工工程を経てようやく最終消費者の手に辿り着くわけで、そのどこかのリンクが切れたらやっぱり品薄になります。今回の原油高も、アメリカ国内の製油所不足という設備面の問題が指摘されています。このように色々なレベルの問題があるのですが、意識的に読まないと、「石油が足りない→資源枯渇」と短絡的に読んでしまいがちでしょう。
しかし、中国の経済成長とあわせて、世界の石油の生産と消費のバランスが結構タイトになってきているのは事実なのでしょうね。「石油なんて、その気になったらなんぼでも産出できるわ」ってもんでもなさそうです。バランスがタイトだからこそ、ちょっとしたことでバランスが崩れて高騰に向かうのかもしれません。
この話に結論は無いのですが、とりあえずイチ市民レベルで最も賢明な対策は、「知らんぷり」してることかもしれません。ここで危機感を募らせてパニックになれば、どっと土砂崩れのように趨勢が変化し、ただでさえ高騰している原油価格を、さらに超々高騰させてしまうかもしれません。それだけは避けねばならんでしょう。「なんとかならんもんかね」と腕を組んだり、考え込んだり、政府に対策を求めるくらいに留めておいて、それ以上に「えらいこっちゃ」と騒ぎ出すのは最悪の結果をもたらすでしょう。そんでもって「あいつら」を儲けさせるだけでしょう。それってケッタクソ悪いです(^^*)。
あ、そうか、だったらこんな話をそもそもエッセイでしなければよかったんだと思っても、もうここまで書いてしまいました。すいません。
お口直しに、地元の新聞に日本のラブホテルの記事が載ってましたので、簡単に紹介しましょう。
”Your time starts now/Sydney Mornig Herald,September 3, 2005)
話は世界に冠たる日本のユニークな風俗を紹介しているだけではありません。これも経済記事です。つまり、「日本の不動産を買いあさってる外人投資家」ってやつです。外人投資家が、日本のラブホテルに目をつけ、投資をしている、その中にオーストラリア人も混じっているという。もっとも、ラブホテル投資がメインの内容ではなく、メインはあくまで海外マネーの日本流入です。ラブホテルは、猫も杓子も日本投資をしているという、猫や杓子のひとつとして描かれているようです。
取りあげられているのは、Miro Mijatovicという人で、 ”a Sydney lawyer and Tokyo sports agent and events promoter”だそうです。オーストラリアの弁護士ってのは、日本の弁護士のように兼業禁止義務がないみたいですね。日本の弁護士法にはこれがあるから、僕も弁護士登録を一旦外したのに。それはさておき、このミヤトビッチ氏(ユーゴ系の名前かしら)ですが、ニュージーランド生まれの元ストックブローカーと、アメリカ人の銀行家と組んで、東京駅から1時間以内の立地に、4億円のラブホテル投資をしているそうです。彼は、 "It's more five-star,"のラブホテルにするという新しいコンセプトで挑んでいます。要するに、ケバさを抑えて、シックで格調高いラブホテルにすると。AUSTRADE(日本のJETROのようにオーストラリアの貿易振興機関)とコンタクトして、オーストラリア製のシャンプーや石鹸まで取り寄せているらしい(このあたりの愛国心というか、田舎者の単純な郷土愛がなんか微妙にかわいいです)。ミヤトビッチ氏は熱く語ります。"We're now out-Japanesing the Japanese. We've taken a unique hotel concept and turned it into something much more respectable and much better."
ミヤトビッチ氏の熱い語りは、外人投資家の動きという巨大なピクチャーのごくごく一端を占めるに過ぎません。
海外投資家の日本の投資額が、昨年、前年比で90%も増えています。ほとんど倍増。そして、去年は、日本の海外投資額よりも、日本への海外からの投資が初めて上回った年でもあります。「ほー、そうなんか」と思いましたね。ついにそこまで来たんか、と。
記事にも、90年代の日本の対外投資と鏡で写したようにまったく逆のことが現在進行していると書かれています。当時の日本企業はやたら海外物件を買いあさり、オーストラリアではゴールドコーストの物件を買いまくり、地元紙(ブリスベンのクーリエ紙)に「日本の侵略」とさかんに書き立てられました。NYの雑誌では、毎秒ごとにマンハッタンのビルに日の丸が掲げられているとセンセーショナルな見出しをつけていました。ああ、今は昔。
しかし、昔の日本と同じようなことを外人投資家がやってるんだったら、昔の日本と同じように大火傷を負うのではないの?という気もしてきます。記事では、早稲田大学国際ビジネスのChristopher Pokarier助教授が登場して、クールに分析してくれています。"There is a great danger of repeating the mistakes that the Japanese made."But Pokarier thinks that so much foreign money might be creating a mini real estate bubble. "The risk is that investors get taken to the cleaners by savvy locals, and the problem with listed property trusts in particular is that they raise the money up front and then they have to spend it. They buy at the wrong time or don't do deals the way that they should."
全体のピクチャーがどうなってるかというと、モルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスあたりを含む海外投資機関は、日本の不動産市場にガンガン投資してます。ゴールドマンサックスは、既に80にも上るゴルフコースを買い占め、昨年には温泉リゾート再開発に着手してます。モルガン・スタンレーは、98年以降、150億米ドルをも日本の不動産に投資しています。150億ドルっていくらだ?ドル110円だとして1兆6500億円?ハンパな額ではないですね。ここは、今年のはじめに三菱自動車本社ビルも購入してますもんね。
メインストリームがアメリカ勢だとしても、オーストラリアもそれなりに頑張っていて、2002年から去年までに累積800億円近く投資しているようです。冒頭のミヤトビッチ氏の4億もその一部でしょう。The Babcock & Brown Japan Property Trustという会社は、去年、47.3億円の日本の不動産投資から$4 million (豪ドル85円として3億4000万円)の収益を上げた(注:記事原文には”47.3 billion yen ($56.5 million)”となってるけど、4.73billionの桁間違いでしょう)。今年の2月にはこれまで250億円を投資家から集めたと発表し、3月にはオーストラリアの株式市場の上場している。
ここのマネージングディレクターのルーカス氏は、過去20年のうち15年を東京で過ごしているという日本通ですが、彼曰く、日本の瀕死の経済状態は終わりを迎えている(Japan's "dire" economic run appears to be ending)、東京の不動産市場の回復の多くは、外国人投資家の動きによるものだと。
日本でも話題になっていると思いますが、オーストラリア人の北海道リゾート投資、端的にはニセコのスキー場があります。オーストラリアの投資家に、"the Tasmania or New Zealand of Japan"として紹介されている北海道ですが、地元政府(北海道庁でしょうね)は、特別チームを編成して海外投資家を迎え入れているそうです(its Government has bigger ideas and investors get red carpet treatment, especially when they've got a vision to create an international destination.)。"red carpet treatment"ですもんね、赤絨毯を敷いてお迎えするという、最賓客待遇です。
ニセコに投資しているメルボルンのHarmony Resorts Nisekoという会社があり、去年に北海道のスキー場を買収するや、オーストラリアのスキーヤーの注目を浴びてます。60億円を投資し、7段階にわたる再開発を行う予定であり、着工は2007年とのこと。
不動産投資銀行の東京副支社長のRoger Griffin氏は、" it is part of a wider picture" "There is a dramatic transfer of investment from the corporate sector to the financial and savings sector"といいます。より大きなピクチャーがあって、北海道投資はその一つの局面に過ぎないと。なにがその大きなピクチャーかというと、日本企業はバブル時代に不動産狂いに走り、財テクや、見栄などで不必要な不動産を沢山抱えてきた。確かに、今から思えば不必要にゴージャスな社員用のレジャー施設がバブルの頃にはごろごろありましたよね。で、そういった不動産への執着心が薄れ、無駄な不動産をどんどん放出しようという動きがあり、それは現在も尚続いていると。過去7年で売りに出されているゴルフ場や温泉などの殆どは、これらの企業の保養所などである。原文では、゛Many of the golf courses, hotels and spa resorts sold in the past seven years have come from companies that, in the good old days, maintained them as decorative baubles or for company use. Such was the extent of this indulgence that much remains to be sold.゛ ”good old days”とか”decorative baubles(見栄をはるためのオモチャ)” という表現が痛いですな。
他にも外国人投資家を惹きつけている条件としては、95年以来東京の不動産価格が半値になっているという値ごろ感であるとか、日本の低金利です。特に低金利はたまらない好条件のようですね。投資というのは平均5−6%で廻ったらOKって感じなのでしょうが、借り入れ金利は1%台ですから、よほど間抜けな投資をしない限りまず儲かる、こんなに楽な話はないってことです。日本人にとっては、超長期にわたる超低金利で老後の預貯金が侵食されているわけですが、外国人投資家にとっては「甘いプディングをますます甘くする」こたえられない環境になるわけです。
さて、冒頭に出てきた愛すべきミヤトビッチ氏ですが、これら巨大なピクチャーからしたらミジンコのような微々たる投資家ではありますが、意気軒昂です。すごい面白いので、原文をそのまま書きます。
Mijatovic and Ross, with their love hotel, are small by comparison. And yet they can't stop talking about the potential. Ross describes a recent visit to the love hotel of his dreams. It was not the decor that got him excited but the amount of time he had to wait in a linen cupboard, discreetly out of sight, while dozens of paying guests queued through the lobby.
"And this was at 2.30 in the afternoon," he says, still amazed. "The hotel had 700 per cent occupancy."
Imagine it: every day, around the clock, couples paying 5000 yen ($60) to use a room for two or three hours. Cleaning staff, in teams of six, did their job with such speed and precision they had it down to five minutes. "It's just like the formula one pit-stop crews," he says, dreaming of the day when his company has a chain of 50 or more love hotels.
ミヤトビッチ氏と仲間のロス氏の投資規模は、確かに些細なものかもしれない。しかし、彼らは自分らの投資の将来像を熱く語りまくるのだ。何がそんなに彼らをエキサイトさせるのか。それはラブホテルのケバケバしい装飾ではない。ロビーに客が詰め掛けているときに、視界から注意深く隠されたリネン(シーツ、寝具)室での待機時間なのだ。
「まだ、午後の2時半なんだよ。それでこんなに客が入るんだよ、このホテルの回転率は700%さ。考えてみてくれよ、一人のカップルが2−3時間の部屋の利用のために5000円(60ドル)払うんだ。そして、6人一組の清掃班。彼らときたら、部屋のベッドメイキングをたった5分でやってのけるんだよ、それもあんなに正確に。あれはもう、F1グランプリのピットクルーだね」
彼の熱い語りは、やがて50軒以上のラブホテルチェーンを築き上げるのだと続くのだった。
うむ、オージーの彼にしてみたら、日本の現場の作業員が本気で仕事したときにプロフェッショナリズムに感動するのも分かります。日本人からしたら当たり前の動きなんだろうけど、これがF1のピットクルーに見えてしまうという。逆に言えば、オーストラリアのチンタラ度がしのばれようというものです。
ところで記事には、日本のラブホテル産業に詳しいMark West教授の所説が載ってて、これが眉唾で面白いです。
About "half of all the sex in Japan occurs in love hotels", calculates Professor Mark West, an American lawyer, in research that gave a rare and detailed account of the economics of the industry. Small homes, a lack of privacy, serial love affairs and prostitution have helped create the niche.
While they giggle and blush about them, Japanese also see love hotels as a necessity, West says.
「日本で行われているセックスの半分はラブホテルでなされている」とアメリカの弁護士でもあるマークウェスト教授は指摘する。彼はこの業界について非常に珍しい(そら、珍しいでしょう)、そして詳細な経済的研究を行っている。小さな住宅事情、プライバシーの少ない環境、連続的な恋愛事(=不倫の多さなどでしょうね)、そして売春が、このニッチ産業を盛り上げている。日本人はラブホテルと聞くと笑ったり、顔を赤らめたりするが、しかし、日本人とってラブホテルは必需品なのだ、とマーク教授は語る。
だそうですけど、どう思います?当ってるような、当ってないような。でも、「半分」ってのはどうかなー(^^*)。
文責:田村
★→APLaCのトップに戻る
バックナンバーはここ