ESSAY 178/イージーマネーとアマチュア詐欺
主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中90日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実) 被告人は,金員を詐取しようと企て, 第1 平成15年2月3日午前9時57分ころ,川崎市内から東京都港区ab丁目c番d号A方に電話をかけ,同人の妻B(当時76歳)に対し,同女の子供を装って,「俺,俺。今,川崎にいるんだ。ヤクザに麻薬のことで捕まってしまった。大変なことになった。800万円持ってすぐに川崎に来てくれ。500万円でもいいからすぐにf駅に持って来てくれ。親父や警察には言わないでくれ。f駅に着いたら000−0000−0000に電話してくれ。」などと虚言を申し向け,更に同日,川崎市内において,上記電話番号に電話をかけてきた同女に対し,「南武線のe駅に行ってくれ。」「俺は行けない。山田さんという人が金を受け取りに行くから。」などと虚言を申し向け,同女をしてその旨誤信させて金員の交付を受けようとしたが,警察官に逮捕されたためその目的を遂げず(※以下、起訴事実第五まであるけど省略します) (量刑の理由) 本件は,被告人が5回にわたり,高齢者の自宅にその子供等を装って電話をかけ,「俺,俺。今ヤクザに捕まっていて殺されそうなので,800万円(又は500万円)を用意して早く持って来てくれ。」等と嘘を言って高齢者をその旨誤信させ,うち3回は800万円又は500万円の現金を実際に騙し取り,うち2回は警察に届けられたため未遂に終わったという事案である。被告人の犯行は,判断能力の乏しい高齢の女性を狙い,その子供や親族を思う心情につけ込んで老後の貴重な蓄えとなる財産を騙し取り,又は騙し取ろうとしたものであり,その態様は,まことに卑劣であって悪質である。被害額の合計は1800万円に上っていて財産的損害が大きいことはもちろんであるが,未遂に終わった者も含めて,各被害者はいずれも自己の子供等がヤクザがらみのトラブルに巻き込まれたと聞いて,大きな精神的苦痛を受けたものであり,その処罰感情は現在でも揺らいでおらず,本件の結果は重いというべきである。また,被告人は,自己が経営する会社の資金繰りに窮していたところ,テレビ番組にヒントを得て本件犯行を思いつき,電話ボックスから盗んだ電話帳を使って高齢者らしき名前の女性の自宅に次々と電話をかけ,「俺,俺」などと前記の言葉を言って,脈があった女性に現金を準備させて自己の携帯電話に通話させ,待ち合わせ場所まで変装して行って現金を受け取るという手口で次々と犯行を重ねたものであり,起訴されていない同種余罪の存在を多数自供していることをも併せ考えると,その計画性や常習性は顕著というべきである。以上によれば,被告人の刑事責任は重い。 そうすると,既遂になった3名の被害者に対しては,被告人が弁償したり騙取した現金を提出したりしたことにより被害回復が図られ,余罪の被害者1名に対しても被害の一部を弁償していること,被告人が事実を素直に認めて反省の態度を示し,余罪の他の被害者に対しても出来る限りの被害弁償を行うと述べていること,被告人の婚約者と将来の雇い主が被告人のために真摯な証言をしたこと,被告人にこれまで前科・前歴が全くないこと等被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,前記の本件事案の悪質性からすれば,被告人を主文の実刑に処するのが相当と判断した。 |