今週の1枚(01.07.23)
雑文/City
上の写真は、BalmainからCityを望んだ一枚。この写真も好きなので、今までに2〜3度登場してると思いますが、覚えてる人、居ますか?
シドニーの都心部のことを、現地では単に”City/シティ”と呼んでいます。これは別にシドニーに限ったことではないようですが。
日本語で「ちょっとシティに行ってくる」とか言うと、ちょっと面映ゆいというか、「なにカッコつけてんだよ」という響きがありますよね。しかも、同じカッコつけるにしても、20年前のセンスでのカッコのつけかたで、それが又恥かしいというか、ダサいというか。
でも、こちらでは普通に「シティ」と言ってます。「カッコつけてる」というニュアンスは皆無。
そりゃそうだよね。「都心」といえばいいものを、わざわざ英語で「シティ」なんて言うあたりが「カッコつけてる」ユエンなんだけど、こっちでは英語ネィティブ環境ですもんね。英語を使ってるからといって、誰もカッコつけてるとは思わないよね。文字どおり、単に「都心に行ってくる」という意味しかない。
ところで、「英語を使うとちょっとカッコいい」という日本的な雰囲気に引っ張られて、英単語本来の意味が微妙に着色されてしまっているケースが結構あるように思います。
例えば、、、、、、
え〜、こういうのって、日頃はいつも目につく癖にいざとなると全然出てこないんですよね、、、
え〜、そうだな、例えば、「駅」を意味する英語でステーション/station という言葉があります。これもステーションというと(正確にはステイションと「テー」と伸ばさず、「テイ」の二重母音)、「新宿ステーションビル」みたいに、何やら現代的で大きな駅を連想しますけど、英語本来の意味はただの「駅」ですから、どんなド田舎の無人駅でもステーションはステーション。
ステーションビルで思い出したけど、「ビルディング」なんてのも、単なる「建造物」という意味でしかないので、別に鉄骨作りで立派な建物である必要はないです。だから、藁葺屋根の家も、法隆寺もビルディングといえばビルディング。おばあちゃんが自分の家の軒先でタバコ屋さんをやってれば、それはすなわち「自社ビル」。
「リッチ」も「金持ち」も同じ意味なんだけど、「リッチ」に比べて「金持ち」は、何やら成り金的な生々しいニュアンスがあったりもしますよね。
このように英語でいうと、同じ言葉でもカッコよく、立派そうに見える妙なバイアスがあります。どうも日本語の方がだいたいにおいて旗色が悪いわけで、これも明治の昔から連綿と続く、「西高東低」の伝統の一つなのかもしれません。
余談ですが、英語の"rich"という単語ですが、これも"wealthy"に比べれば、やや俗っぽい成り金的なニュアンスが含まれる場合もあるように思います。つまり、「単に金を沢山もっているだけ」で、それ以外(才能とか愛情とか幸福とか)では貧しいという反語的な意味が言外に匂ってくるような感じ。これは日本語の「金持ち」とニュアンスが似ている。
だから"You are rich" とか言うのも、カジュアルで揶揄した雰囲気があるから、キチンとした場でお世辞や社交辞令でいうつもりだったら逆効果かも。お金を沢山持っている→生活全般が豊か→だから優れた教育を受け、教養や芸術的造詣が深く、精神にゆとりがあり、社会の名士でもあり、尊敬されるべき技術と仕事をしている、、、というポジティブな意味を積極的に言おうとするなら、「金持ち」という単語をストレートに使うのではなく、もっと違う言い回しの方がいいでしょうね。例えば「資産家」とか、「経済的制約に乏しい」とか、「豊か」とか、古い言葉でいえば「素封家」とか。英語でいえば、wealthyとか、affluentとか。
もっとも、面と向かって「アナタは金持ち」なんて言うのは、日本であれ何処であれストレート過ぎちゃって洗練された社交辞令にはなりえないような気がします。
なお、richも、お金や贅沢さではなくて、自然、文化、才能の豊かさを言う場合、つまり「豊かな黒髪」とか、「深みのある色合い」とか、「奥行のある文化」とか、「豊かな天分」なんて場合に使うんだったら適切でしょうけど。ワインの味を表現するときにもよく使われますよね。
閑話休題。
シティですが、これも使われる文脈によって、「都会」「都市」「都心」「市」などなど色々な意味があります。ちょっと電車に乗って出掛けてくるくらいの場合だったら、「都心」という意味が最も近いでしょう。
ただし、本当の意味で、このシティを日本語に訳するのは難しい。
こちらでシティというと、周囲に緑豊かな住宅街が広がっているなかで、突如として摩天楼がボコボコ建っていて、政治経済の中心であり、且つ非常に限られたエリア、という感じです。シドニーもまさにそうで、遠くからみると、2階建を中心にした低層住宅と緑の海がずっーと広がるなか、蜃気楼のように高層ビルが林立してる異常な一角があって、そこがすなわちシティだという。
こういう風景を日常的に目の当たりにしつつ、「あそこがシティ」と言われると非常によくわかるわけですね。でも、日本では、こういう具合にシティと呼ばれる状況自体がマレだったりします。東京や大阪は、シティ的な状況がとんでもなく広くて、「一角だけに密集している」という感じではない。小振りの地方都市の場合でも、ココまでが郊外でココからいきなりシティになるという、「いきなり」感というか、載然とした区別に乏しいです。この緑とコンクリートの鮮烈な対比という意味でいえば、筑波研究都市とか学園都市とか呼ばれているエリアの方が近いかも。でも、自然発生的な商業中心地という感じではなく、英語でいえばビジネスパークと言った方が近い。
このように日本語で「シティ」と言ったところで、現物が無い以上名前もないし、無理にいったところでイメージがズレてしまう。「都心」というのも便宜的に言ってるだけで、日本語で「都心」というと、大きなシティの中のさらに深い中心地というニュアンスがありますよね。東京でいえば、市ヶ谷あたりに比べて丸の内あたりを指すような感じ。だから、正確にいえば意味が違うんだけど。でも、まあ、しゃーないよねという。
ところで、シドニーでも、ここのところの好景気を受けて、シティ以外でもボコボコとビルが建っています。この調子でボコボコ建ち続けていったら、日本の都会のようになってしまうかもしれません。つまり商業地域が全面に広がり、ところどころに衛星的中心地が結節している−−東京でいえば、丸の内、渋谷、新宿、池袋に巨大なジャンクションが形成され、その街と街の間にもビルは連綿と続くという状況。シドニーでも、ノースシドニー、ボンダイ、チャッツウッド、ストラスフィールド、パラマッタ、ハーストビルなどが巨大化するだけではなく、その間の住宅街も徐々に商業地に変貌していって、全体として大きなシティになってしまうかもしれません。
そうなったら、「シティ」の意味もそんなにビジュアルに理解しやすいものでも無いだろうし、意味自体も変わってくるかもしれません。しかし、そうなったらもうシドニーは住みたくないですよね。これはシドニー在住の誰もがそう思ってるとは思うけど。
でも、シドニーの人口急造と都市スプロール現象は今に始まったことではなく、ここ何十年の課題です。未来だけの話でもないし、昨日今日始まった話でもない。昔っからこのことは議論されていたようです。"We've had enough!"という悲鳴のような声は、昔の方がむしろキツかったかもしれず、今はもう段々好景気もあいまって諦めムードすら漂っているような気もする。
実際に住んでる身としては、これはもう「発展している」という感じではなく、単に「混んできている」という感じです。車を運転してると痛切に感じますが、ここ半年くらいで、ひときわ混んできたような気がします。土曜日なんか運転してたら、「何が起こったんだ?」というくらい混んでたりしますもんね。
建築基準の関係でしょうか、高層マンションが建てやすいシティでは、もう雨後のタケノコといっていいほど高層マンションが林立してきて、シティの(夜間)人口も増えて、オーストラリアでは珍しいコンビニも珍しい存在では無くなってきてます。これだけ住民が増えると、それだけ常駐している車両も増えるということで、もうシティでストリートパーキングをするなんてのも絶望的な状況になってます。
シティだけではなく、チャッツウッドやボンダイなどの周辺市街地も、またその間のセント・レオナルドのようなエリアにもマンションはバカバカ建ってきてます。むしろ昔さびれていたくらいの方が、マンションを建てる立地があるから、逆に増えているという感じですよね。高層ビルというのは少ない敷地で多くの人間を住まわせることが出来るから効率的ではあるのですが、道路まで高層にはできないから、同じ道路で通行する車両数はうなぎ上りになります。その昔は、「ここは穴場」という、いついっても楽勝でパーキングできたところが色々あったのですが、それも急速に失われつつあります。
車の話で脱線しますけど、他にもどんどん運転しにくい状況になってます。例えば、スピード違反の監視カメラですが、これも恐ろしい勢いで増えてます。新聞なんかでよく載ってますが、監視カメラをつけて罰金をバシバシ取ると(このカメラは飾りではなく本気で常時作動してます)、翌年くらいから違反率が激減しているそうで。もう減少率も前年度比90%減少というくらい劇的で、当局は「カメラ設置の効果があった」と胸を張ってるのですが、それだけ設置一年目はもう地引き網的に皆ひっかかってるってことでもあるのでしょう。
自慢じゃないけど、ハーバートンネルなんかもう3回もひっかかってますもんね。いくらなんでも3回ひっかかったら誰だって自重しますわ。しかも、15キロオーバー以上だけではなく、10キロ前後のオーバーでもビシビシ罰金とられたら、80キロ制限のところで85キロ出ただけでブレーキ踏むようになります。
駐車でも、駐車違反の罰金収入が、各自治体(カウンシル)の収入になるらしいから、それまで無料で停められたエリアに続々と料金メーターが設置されているようになってます。グリーブなんか、これまでメーターなんか皆無だったのに、最近はその辺の裏通りまでメーターがあったりします。そして、また、この7月くらいから取締員(これは警察がやるのではない)の数も倍増というくらい増やして、ビシバシ取り締まるとのことで、要するに市財政を補填したいがためという。
その昔、知り合いのオージーが交通違反で罰金とられて「所詮彼ら(政府)はレヴァニュー(歳入)が欲しいからやってるだけなんだ」とブツブツ文句言ってまして、やたらレヴァニューを連発してましたが、今となったら僕もその気持判るわ。
というわけで、日増しに車に乗るのがストレスフルになっているのでした。唯一の朗報は、いっときリッター1ドルまで高騰したガソリン価格が、ここのところ80セント代まで落ちてきていることですね。先々週だったかな、リッター79セントとい70セント代の看板を発見し、「おおおお」と感動しました。
写真・文/田村
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