今週の1枚(03.05.12)
ESSAY104/オーストラリアの近況/SARS、薬の大リコール、G-G騒動
写真は、夕暮れのBondi Junction
パース旅行編もやっと終わり、”平常業務再開”のように再び普通のエッセイです。
旅行記は写真などをレタッチしたり編集するのが面倒臭いですが、書くネタは確実にありますからある意味では簡単です。普通のエッセイは、面倒な編集作業からは解放される反面、ネタ探しに苦吟するという作業が待ち受けています。「ああ、またか、、」という感じでシメ切りの日曜日を迎えて憂鬱だったりするわけですね。
こういうときは、話題がカブる恐れの少ない「オーストラリアの近況」なんかが無難だと思いますので、いくつか。
日本でも大騒ぎになってるSARS(Severe Acute Respiratory Syndrome、通称サース or サーズ=最後が「ず」と濁るかどうかは人によるみたい) ですが、こちらでも話題になっています。が、僕の見る限り、日常生活の風景は全くいつもと変わりません。たとえば、繁華街の人出は全然落ちてませんし、チャイナタウンもそれは変わりません。マスクをして歩いている人なんか、僕の記憶ではまだ一人も見かけてません。話題としてはよく出てきますが、だからといって日常生活にそう影響を及ぼしてもいないし、また誰もそんなにビビってないというところだと思います。
ただ、国際的な人の出入りには影響を及ぼしているようです。世界的に皆さん飛行機に乗らない。だからあんまりオーストラリアにも来ない。外から人が来てくれてなんぼの商売、つまり航空業界、旅行業界はダメージを被ってますし、そこから派生して語学学校等も人が減ってきてますし、加えて言えば僕の仕事もわりとヒマです。特に、イラク戦争→SARSの連続的なマイナス要素は厳しいようで、学校のスタッフの人と「人が減りましたねー、えらいこっちゃねー」とよく世間話するようになってます。おかげでホームステイなんかも結構空いてるみたいですね。逆にホームステイしたい人は今がチャンスかもしれません。
SARSそれ自体について、僕個人としてはそーんなに心配してません。報道から受ける印象は、「かかったら最後」みたいなすごく怖い殺人ウィルスのような感じがしますが、実際の致死率は4%くらいでしょう?もちろん笑ってられる数字ではないにせよ、この数字は免疫力の弱い幼児やお年よりも含めての数字であり、且つ罹患者の絶対数が少ないのでなんとも言いがたい部分はあります。最近いきなりWHOが14%に上方修正したという話もありますが、最終的な死亡率は終わってみないとわからないし、中国などの猛威を振ってるエリアの今後の予測も織り込んでの推測などという注釈つきの数字で、これも確定的なものではないようです。年齢や状態によって「0から50%」という大雑把な、しかし実際そうとしか言えないんだろうな、という数字もあがってます(24歳以下なら1%未満だともいうし)。
僕としては、どっちかといえば普通のインフルエンザの方がヤだなと思ってます。インフルエンザって結構キツいですし、正確にインフルエンザで毎年何人死んでるかはわからないにせよ、推定では日本では毎年1万2000人くらい死亡者がいるという説もあるようです。「正確にわからない」というのは、インフルエンザが原因で死亡したとしても、死亡するまでに肺炎に移行・併発したりしますし、最終的な死亡診断書には「呼吸不全」とかそういった書き方になってしまうからですね。死亡者統計はこの死亡診断書を集計するから、インフルエンザが元凶になってたとしてもそこに正確に記載されるとは限らないーというか普通されないーから分からないらしいです。ではどうやって推計するかというと、「毎年○月にはこのくらい死んでる」という統計平均から、死亡者がグンと増えている「超過死亡数」を認め、かつそれがインフルエンザ流行期と時期的に一致した場合、「多分インフルエンザじゃなかろうか」という推定が働く、ということらしいです。この知識は、http://www.geocities.co.jp/Beautycare/4626/t2403.htmに書いてありました。
1万2000人の死亡者数というのは穏やかならぬ数字ですが、1918-9年のスペインかぜのときは日本の死亡者数だけで38万人から40万人、世界的には罹患者6億、死亡者2-40000万人とも言われてます。しかし推定死亡者の誤差だけで二千万人というのはスゴイ話ですが(オーストラリアの総人口よりも多い)。
こんな超大流行は別にしても、コンスタントに死亡者1万人を出しているインフルエンザの方が、「より現在的で差し迫った危険」としてはSARSよりも高いんじゃないかと思ったりもします。SARSやインフルエンザの情報は、国立感染研究所感染情報センターが詳しいですが、この機関の調査によりますと、SARSの発生者数は、03年5月9日現在でオーストラリアで、累積4名で回復4名ですから現在認知されてる患者はゼロです。SARSの可能性ありの最終発見報告が4月23日ですから、2週間以上発見されてません。潜伏期間は10日と言われているからなんとなく大丈夫っぽいです。日本の場合は、5月8日現在で、SARSの「疑い」症例は46件、うち43件は否定、3件は症状軽快中で経過観察、「可能性」は16件で全部否定されてます。
そういう意味では今から中国に行こうというならともかく、日本=オーストラリアだったら別にそう問題があるようにも思いません。しかし、まあ、こういうのって「イメージ」であり、ブームですからね。いっとき、日本で皆が貝われ大根食べなかったり、牛肉食べなくなったりしたのと同じですよね。今となってはそういうニュースがあったことすら忘れがちですが。まあ、わからないでもないです。保菌者と同じ飛行機に乗ったらとか、空港で一緒になったらヤダなとか、そういうことだと思います。何時行ってもいいのなら、なにもわざわざこの時期に、ということでしょう。
ただ、そんなイマジナティブな世界に遊んでるのではなしに、もう少し意味のあるリスク管理をしたかったら、うがいとか手洗いをもう少し頻繁にやるとか、体力充実に努めるべきなのでしょう。SARSもインフルエンザも、読んでると機序や対策は殆ど同じで、ウィルス自体はそれほど強大ではなかったりするのだけど、体力が低下してへロヘロになってると重篤化するということであり、そのためには何よりも「早寝早起き、腹八分目」ってことだと思います。ワーホリや留学、観光で飛行機乗るのに不安を覚える方のための具体的な対策としては、壮行会のドンチャン騒ぎはほどほどにして睡眠不足に陥らないようにしておけということであり、欲張って無理な日程を立てるなということでしょう。パースで強行軍日程で爆走してきた僕に言われたくないでしょうけど。
ちなみに、「人の集まるところを避けましょう」という予防項目がありますが、人口密度100分の1のオーストラリアからすれば、日本自体がどうしようもなく「人の集まるところ」と違うんか?と思ったりもします。これはまあ半分冗談ですが、半分冗談でないのは、SARSウィルスだって、実はそこら中にいるのかもしれないからです。素人考えですが、ウィルスとか菌とかいうのは、完全無菌室でも作って厳重管理しない限りどうしたって移動してくると思うのですね。おどかすわけではないですが、普通に考えたら人の移動とともに移動してくると考えた方がいいでしょう。今この瞬間に日本やオーストラリアに存在していてもなんら不思議はないと思います。
しかし、それだけでは感染発病するものではないです。空気中に一匹浮遊しているだけだったら、仮に感染したってあっという間に人間の迎撃システム(免疫機構など)がやっつけてしまうでしょう。昔に戦争の城攻めのように、一騎だけ城にドンキホーテのように突入してもやられてしまう。だから、沢山集団になって波状攻撃をしかけることできて、しかも城(人間)の迎撃システムがヘタってたときに、ウィルスの増殖スピードが勝って、めでたく人体を乗っ取って感染という事態になるのでしょう。でもそんなこと非常にマレだし、仮に乗っ取ったとしても圧倒的に多くの場合はやがて体内の免疫機構の反撃を受けて死滅する(人間からしたら快復する)。実際、SARSの感染力は普通の風邪やインフルエンザに比べてかなり落ちるようで、もし普通の風邪並に感染力があったら、今ごろは世界で数百万人くらい罹患してないと嘘だという話もあるそうです(でも、まだ世界で累計七千人くらい)。
それに感染していないフリーなウィルス、つまり仕官の道を探して諸国を放浪している浪人みたいなものですが、これは無限に生き延びることは出来ないです。というよりも環境にもよりますが、すぐ死んじゃうと考えていいと思います。乾燥したプラスチックの上で48時間、便や尿に混在していても2日から4日と言われているそうです。
ウィルスというのは非常に「かよわい」生き物で自分だけでは生きられない。○○時間以内にどこか宿主に見つけて住み着かない限り死んでしまう。しかも宿主には通常強力な撃退システムがあり、集団でドワーッと攻めていかない限りまず間違いなく殺されてしまう。仮に攻撃が効を奏して乗っ取るところが出来ても、多くの場合は一週間ほどで反撃されてやられてしまう、万が一反撃を抑え切って増殖しまくって人体を完全制覇したときは、そのときは宿主が死ぬときですから、結局もとの木阿弥でまた別の宿主を探して旅立たねばならない。なんかこう考えると可哀想な生き物ではあります。
つらつら見ていくに、飛行機に乗らないとかいう感染機会を減らす対策も勿論意味があるのですが、それと同時、それ以上に大事なのは人体の迎撃システムの充実とメンテであり、要するに「健康的な生活をして体力をつけよう」ということになるのではないかと思います。あるいは、うがいと手洗いの励行というのも感染を水際で防止するには非常に意味があるのでしょう。そして、それらは、SARS対策であるのみならず、インフルエンザ対策にもなるという意味でも重要でしょう。なんせこっちは死亡者1万人ですからね、しかも毎年、平均で。多いときは40万人死んでるんですから。そしてインフルエンザは飛行機に乗らなくても、外国にいかなくてもかかりますから。
ともあれ、オーストラリアにお越しになる前の晩は、ゆっくり、ぐっすりお寝みになってくださいませ。
先々週あたりからSARSなんかメじゃないくらいにオーストラリアの健康関係で話題になってるのは、大規模な薬のリコール騒ぎです。なんせリコールされる薬の品目数がハンパではないです。一段落した時点で1300種類以上、そのあとまた追加で数百、まだ調査中という。
火種は一社です。Pan Phamaceutical社という薬剤メーカーです。この会社が作ってる具体的にどの薬剤のどの部分が不適当という話ではなく、全体として製造工程に疑問がある、と。早い話が「マジメに薬作ってないんじゃないか?」という疑いが濃いので、この会社が関与したすべての薬剤についてリコールになったということです。このパン社、自社製品だけではなく、他の製薬会社から非常に多くのOEMを受注を受けていたらしいので、薬の製造段階に少しでもこのパン社がかかわった薬は「疑惑あり」ということになるので、地引網的に千品目を越える巨大リコールになったわけであり、また「関わってる疑い」という網が広すぎるので短期間で全ての薬剤を網羅することが出来ず、「なおも調査中」ということになるのだと思います。
この疑惑、本当は今年の1月とか2月とかいう段階で明らかになってたようです。最初は乗り物酔いの薬がおかしく、錠剤によっては薬効成分がまるで入ってないなかったり、ある錠剤は基準の7倍も入っていたりというデタラメぶりだったそうで、その薬剤についてリコールをし、さらに重大な問題だから鋭意調査するということだったらしいです。当局(TGA)も、ちゃんとその旨メディア向けにアナウンスもしていたのですが、折しもその頃はキャンベラで大きな山火事がおきて、皆の耳目はそっちに向けられ、地味な薬のリコール話は誰の記憶にも残らなかったそうです。
その後当局がかなり本腰を入れて調査して、時には裁判所から捜索令状まで取って立ち入り調査をした結果、操業状態にかなり問題があったことが発覚し、同社を半年間の営業停止処分にしたとのこと。「かなり問題」というは具体的にはどういうことかというと、製造した品質管理の一環として当然やるべき検査についても検査記録を偽造して、やってなかったり等です。どうも何か一つ悪いことをして、それを隠滅するために色々工作したとかいう話ではなく、そもそも操業姿勢そのものが杜撰でレイジーだったというトホホ系の状態だったそうです。こういう問題というのは、欠点が具体的で、計画的で緻密であってくれた方が、結果も絞りやすく対処もしやすいのですが、「いい加減」というのが一番困りますよね。
このリコールで最も影響を受けた薬剤の分野は、ビタミン剤などのサプルメントです。スーパーや薬屋の棚からもごっそり無くなってたりします。しかし、薬屋さんとかスーパーこそいい面の皮であり、あんな千件以上ある品目リストを見せられたって、どれがどれだか分からんでしょう。仕分けしてこれがOKでこれが返品で、、とやるだけでもえらい作業だと思います。
この事件についての個人的な感想は、「すごいことするのね」ということです。いや、取り締まる方が、です。こんな千とか二千品目というとんでもない数のリコールを、よくも思い切ってやったな、ということです。振り返って、日本だったら出来るかな?という気もするのですね。きっと「社会に与える影響があまりにも甚大だから」とかなんとかいって、ソフトランディングさせるんじゃないかという気もするのです。とにかく日本では「世間を騒がす」こと自体が(その理由の正当性を問わず)まず問題視されるキライがありますから。
何度も同じ話をしますが、その昔日本がバブルだったとき、オーストラリアもアメリカも世界中バブルでした。破裂したのも同時。しかし、それから十数年未だにその後遺症から抜け出せない日本と、ちゃっちゃと1年くらいで整理をすませて、それから十数年好景気が続きまくっているオーストラリア、どこが違うのか?というと、「どんなに社会的影響が巨大だろうが潰すものは潰す」ということが出来たかどうかだと思います。ねえ、日興證券や拓銀ひとつ潰すだけでも大騒ぎだったし、長銀なんか結局潰せてないわけだし。今、この日本で2000品目にも及ぶ薬剤のリコールを、監督官庁の一局長くらいが決定できるのだろうか?と。まずは内閣や与党のお偉いさんにお伺いを立てて、業界にも打診して、国民には「や、これは大したことはないんですよ」という姿勢で臨むんじゃないかなという気がします。
まあ、これは針小棒大に大騒ぎする国民性もあるのかもしれません。貝われ大根騒動のときも、当局はそんなにおおっぴらに言ってなかったですよね。「じゃないかな?と思われるフシもある」程度の控えめな表現だったのに、「犯人確定!」みたいにあれだけ大騒ぎになるという。日本人って、あんまり日本語読解力無いんじゃないかしら。
それを思うと、僕もですね、自分が当局の責任者だったらビビりますよ。とりあえず超大騒ぎにはなるでしょうし、「なにやってたんだ?監督責任!」と、ここぞとばかりに誰にでも言える結果論的批判を偉そうに言う馬鹿が出てくるわ、ヒステリックに喚くいわゆる大衆消費者とかいう連中が出てくるわで、もみくちゃにされるだろうなあ、ヤダなあって思いますよ。上司やさらに上の方にお伺いを立てても、いざとなったら「君の責任で処理したまえ」なんて逃げを打たれるんだろうなって気もしますよね。つまりは貧乏籤。「無かったことにできたらなあ」って思うと思いますよ。あなただって責任者だったらそう思うんじゃないですか?「えーい、聞かなかったことにしちゃえ」って。
これも何度もいいますが、僕は一人一人の日本人はそんなに馬鹿じゃないと思います。現にこちらにいる日本人は、同じ事態に遭遇してるわけですけど、別に大騒ぎもせず、クールですもんね。まあ、英語がわからんから何が進行してるかわからんという層も沢山いるのではありましょうが(^_^)、それでも冷静に事態を見てると思います。だから日本で同じことが起きても、大多数の日本人は冷静なんだと思います。それがなんで「世間をお騒がせ」みたいに、大騒ぎになってしまうのかというと、仮説@皆が騒ぐから「そうか大騒ぎなんだ、騒がねば」と盲目的に追従するから、仮説Aそもそも大騒ぎなんかしていない、ということが考えられますが、@もたぶんにありつつも、実はAなんじゃないかと思います。
くだらない事件をいかにも大事件のように見せないと売れないというマスコミ的経営戦略もあるのでしょうが、40年以上日本で生きてて、本当に心底から「エライこっちゃ、これは騒がないと!」と思ったことは、そうそう何度もないですよ。神戸の地震も起きたときは自分も大阪で体感したこともあってビックリしたけど、冷静に考えれば「あの程度で済んでよかった」と思うし、オウムのサリン事件も、どんな凶悪犯罪も有名犯罪も、「まあ、そういうことするヤツもいるやろね」くらいでした。それで世界観や社会観が変わったなんてこともないです。プロにまかせて粛々と処理すればいいことだと思ってましたし、今でもそう思ってます。原発だって、人間のやることだから、そりゃーミスはあって当然だと思うし、問題はそのミスの質だと思うし。そして、本音のところでは、僕と同じように思ってる人って多いのではないかと思ったりもします。
ましてや三浦事件とか、どーでもいいです。なんで騒ぐんだ?ってな感じです。芸能記事なんか、あんな非公共的なことに公共の電波を使っていいのか?と公憤にかられるくらいです。有名人の子供が素行不良でどうしたこうしたなんて、別にその人々を具体的に知ってる近所の人が井戸端会議してりゃいいことで、そんなことを誰も「騒いで」なんかいないし、よほど自分の人生がしっくり来てない人じゃない限り(そういう人が多いのだろうけど)、そんな他人のことで普通騒ぎませんよ。あんなことを非公共的なことを公共の電波使ってやるくらいなら、僕の誕生日もTVで祝って欲しいもんです。それか、「○○さんが、本日午後の便で、オーストラリア留学のために成田空港を旅立ちました」とかやってください。そういった情報の方がむしろ僕は知りたいです。僕は、日本の普通にありふれている日常の様子、つまりは日本の”本当のこと”が知りたいのです。だってその方が確率的に何万倍も自分が遭遇し、関わってくる可能性が高いのですから。
ところで、そのどーでもいいようなゴシップ記事で、最近のオーストラリアの新聞一面は賑わってます。もうSARSも薬剤リコールもぶっちぎられています。なにかというと、オーストラリアのガバーナー・ジェネラルという地位にあるエライ人=ピーター・ホリングワースという人=のスキャンダルです。昔々、当時彼が仕切ってた教会内部で、ペドフェリア(小児性愛=要するにロリコン)を行った聖職者の処分をもみ消したとかいうスキャンダル、あるいは彼自身が女性をレイプしたとかして裁判が係争中であることからして、現在の地位を辞職すべきだという騒ぎになってることです。
これはいかにもオーストラリア的な事件で、こちらで英語の勉強のために新聞記事を頑張って読んでる日本人の学生さんなどには、ピンとこないと思います。第一このガバーナージェネラル(Governor General)って、ナニモノなにかが分かりにくいでしょう。これを理解するためには、オーストラリアはまだ共和制に移行してなくて、法律上はまだ半分植民地みたいになってるということから始めないとなりませぬ。オーストラリアの国家元首はハワード首相ではありません。イギリス女王です。オーストラリアの全ての土地は法形式上はイギリス女王のもので、オージーが不動産買っても、その土地の永代借地権みたいなものを買ってるだけです。
このようにオーストラリアにはまだイギリス植民地時代の尻尾が残ってます。その証拠に国旗にまだユニオンジャックが残ってます。どこの国に、自分の国旗によその国の国旗が入ってるっちゅーの?と日本人的には思うのですが、そうなってます。で、このガバーナージェネラル(総督とか日本語訳されてますが)は、イギリス女王の代理人としてオーストラリアを統治するわけですね。もちろん独立以降、これらのものは形式的、名誉的な存在になります。オーストラリアの法律は、いまだにガバーナージェネラルが署名しないと発効しませんし、首相の任命式もガバーナージェネラルがやりますけど、あくまで形式的。これは、日本の天皇が国会を召集したり、内閣総理大臣を任命したりするのと同じく、別に自分の意志と権力で決めるわけではなく、すでに決まったものをデコレートする儀式的な存在に過ぎません。だから、ガバーナージェネラルという存在それ自体が、もう盲腸みたいなものなのですね。ただし、非常に非常に名誉職ではある。
その名誉のカタマリみたいなガバーナージェネラルが(最近新聞では”G−G”と省略されてたりしますが)、あろうことか不名誉の極致のようなペドフェリアやレイプの件でスキャンダルの対象にされており、また実際に裁判にもなっているということで、大騒ぎになってるわけですね。
ここで、オーストラリアのスキャンダルで必ず登場する英単語、pedophile,pedophilia というのがあります。年端もいかない少年少女に性的なイタズラをすることであり、要するにロリコンであり、チャイルドポルノであったりします。西欧社会におけるこの種の行為に対するタブー感覚というのは、昔からお稚児さん文化があり、全体にロリコン傾向のある日本人の感覚を超えてる部分があり、僕なんかからするとヒステリック過ぎるように思える部分もあります。この疑いをかけられるだけで、社会的生命が終わってしまうくらいの大罪悪のような雰囲気があり、実際にも数年前にシドニーの最高裁判事がこのスキャンダルで自殺したような記憶もありますし、最近ではロックバンド The Whoのピートタウンゼントがチャイルドポルノの有料サイトにアクセスしたとかで大騒ぎになったりしてます。これが押さえておくべき背景その2でしょう。
背景その3は、どうもこの種の話は、その昔の教会では頻繁にあった話らしく、それが何十年も経ったあとに、いきなりドーンとあちこちで爆発してるという。ドーンといくたびに、社会的にハイステイタスな人がドーンと抹殺されるという。しかしね、日本の昔のお寺では女人禁制ということもあり、一休さんのような稚児さんがホモセクシャルな対象になるというのはありふれた話、というかむしろ当然のこととされていた部分もあります。戦国武将が戦場に女を連れて行けないから小姓を連れて行くのと同じですね。織田信長と森蘭丸みたいに。これらは衆道といって、はっきり肯定されていて、むしろ男のタシナミとすらされていた部分もあるそうな。最もホモ確率が高いのは、軍隊と刑務所といわれますが、男ばっかり置いておいたらそうなるのは、ある意味生物の必然なのかもしれません。どこかで聞いたことありますが、雄性ばかり隔離しておくと半数が雌性に性転換するという生き物もいるらしいですから。だから、その昔の教会でその種のコトが起きてたとしても、珍しい話ではないようにも思います。
どうも西欧の価値観というのは、ルネサンス以降、個人の尊厳を重視するのはいいのですが、どこかしら人間の標準モデルを立派に描きすぎてるきらいがあって、時として人間の真実から遊離して、無駄に偽善的過ぎる部分もあるように思います。人間が本来もってるトホホな部分、情けない部分、ダメダメな部分をあんまり許さないですよね。キリスト教が教条的過ぎる方向に持っていかれたのだと思うのですが、宗派にもよるけど「離婚は絶対ダメ」とかさ、無理があるんだわ、そんなの。だから反動でドカーンとなってしまうんじゃないかと思ったりします。かといって、日本人は日本人で、また別に、恥の文化でとかく取り繕う部分があって、表向きは完璧でないとダメってやってるから、異様に世間体を気にして、瑕は徹底的に隠そうとするから、これはこれで無理が出てきて、反動でドカーンという。
ただ、日本の方がダメ人間に優しい眼差しをもってるようにも思います。太宰治なんか、「ダメ人間万歳(とはいってないけど)」みたいな世界ですもんね。寅さんシリーズも、皆して温かく寅さんの愛すべきダメ人間ぶりを見守ってるって感じだし。「人間、そんなに大したもんじゃないよ」ってペーソスが根底に流れているように思います。ただ、西欧のキミタチにはわかんねえだろうなあ。多分、「これがゼンの心ですね」とか勘違いするんだろうな。人間って本来ダメなんじゃない?って原則をもってくると、世界観が瓦解しちゃうところがあるんでしょうね。アメリカという国も瓦解しちゃいそうだなあ。「立派でないとダメ」という強迫観念が強いから、だからギャップも出てくるし、それはシンドイでしょう。それはカウンセリングも必要でしょう。
さて、このG-G騒動ですが、とにかくここまでエラい人にこういうスキャンダルが持ち上がったのは前代未聞らしく、またこれが理由で辞職するというのも前代未聞だそうです(本人は辞職しないって頑張ってるけど)。しかし、このスキャンダルも、そもそものレイプ訴訟それ自体がヤラセくさいという話もありますし、反対派の陰険な罠という説もあります。本人はTVの前で、断じてやっとらん!と言い切ってますし、まだまだ騒動は続きそうです。
しかし、やったにせよやってないにせよ、そんなオヤジの過去なんかどーでもいいんじゃないの?という気もしますし、その程度のことで、SARS報道もいきなり後方に引っ込んで、ましてやイラク戦争の後処理なんかもっと後方に引っ込んでしまってるわけで、「あ、所詮、そのくらいのことだったの?」という気もしますね。
(文責・田村)
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