高齢者ケア特集(14)

自立心

2001年7月

91才のダイが脳卒中のリハビリのため入院してきた。年齢を聞いて一体どんなリハビリができるのだ?と思ったが、かなり軽症の脳卒中で、歩行時にふらつきがあり一人で歩けなくなったのが問題だった。

ダイは病弱な夫の面倒を見ながら2人で家で暮らしていた。この度のダイの入院で夫は一時的にナーシングホームに入所となった。


ダイは慎重150cm、体重は40kgもないような小さな女性で、ほんの些細なかかわりにも心から感謝してくれた。さすがに90年以上も働いていたダイの心臓は様々な問題を持ち、薬を増やすとその副作用で低血圧となりコントロールがなかなか難しかった。

また吐き気があってあまり食べることができなかった。吐き気止めの薬を投与し、30分後に状態を調べにいくと、「わざわざ気を使って(状態を)聞きに来てくれて本当にありがとう。」感謝の気持ちを表してくれた。

同室に新しい入院患者が来て、午前中に手術を受け午後には退院していった。ダイはこの若い同室者に、「もっと話し相手になってあげたかったけれど、何もできずにごめんなさいね。」と帰りぎわ声をかけているのを見て、自分が調子が悪いのにもかかわらず他の人のことを思いやれるなんて何と優しい人だろうと思わず微笑んでしまった。


ベテランの準看護婦のクリスがダイのことを、「思わず手を差し伸べたくなる、気にかけずにはいられなくなる人だわ。」と言ったが、全くその通りだと思った。

ダイはかなり目も悪く、目の前のコップを取るのもやっとで、薬をテーブルの上においてもよく見えないので、食後、一つずつ口に入れてあげなければならなかった。


同室に、88才のベティが肺炎で入院してきた。体がだるくて、何もしたくないのはわかったが少しずつ状態が良くなってきても、ベッドから起きるのをいやがった。

ある日の準夜勤務で、ベティに夕食後の薬を渡してから、ダイのところへ行き、薬を口に入れてあげていた。するとベティが「私には口に入れてくれなかったのにダイにはしてあげるのね。」と言う。「ダイは目が悪くて薬が見えないから手伝ってあげてるの。」と言ってから、ふと思った。


いくつになってもその自立心を保ち、色々なことに感謝しながら生きていく人とそうでない人では、必然的に病後の回復の仕方、そして退院後の行き先に差が出てくるだろう。

依存して自分でしようとしなければ、できる力があっても発揮されず、結局、できる力を失ってしまう。ほんの小さな「やる気」で、その人が再度、家に帰れるかまたはナーシング・ホームに行くことになるのかが決まってしまう時もある。

看護婦として患者さんの自立心を保つことは大切なことだが、一体どうすることができるにだろう? 年を重ね、よく言えば自分の考えをしっかり持った、悪く言えば頑固なお年寄りの考えを変えることなど至難の業だ。これは万国どこに行ってもぶち当たる壁ではないだろうか?



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