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生きてる日のすべて





何の意味なく俺は行くぜ。
荒野をわたる風は、埃だらけ。
口の中も土埃でジャリジャリ。

何の意味なく、俺は生きてるぜ。
すこぶる快調。
煙草もうめえし。

あの丘を越えたあたりに、よくは知らないが「悪い奴ら」がいるらしい。
で、俺は、そいつらのどてっ腹に鉛弾をブチこむことになっているんだ。
いつまにかそういうことになっちまったんだよ。
でも、そいつらがワンサと居やがったり、すげえ強かったりした場合はだな、
どてっ腹ブチ抜かれるのは俺の方だろうな。
そうなると、痛いんだろうなあ。
ま、いいか。


しかし、くだらねえな。
なんで、俺はこんなことやってんだよ。
なりゆきとはいえ。


年令不肖、氏名不詳。俺のことだ。
だって仕方ねえじゃねえか。
気が付いたら捨てられていたのよ。
まあ、捨てられたのか、オフクロがくたばっちまったのか分からないけどさ。
とにかく、そこらへんの道端でピーピー泣いてた赤ん坊が俺だったってわけさ。


そこを通りがかった貧しいが善良な村人、、、
にでも拾われりゃよかったんだろうけどさ、
あいにく、俺を育てた連中はロクでもねえ奴ばかりだ。
コキつかってやろうとか、あとで売っぱらおうとか、そんなのばかりだ。

ま、そんなこたあ、どうでもいい。
とりあえず、俺は育ったわけだ。
で、名前も生まれた年も知らない。
名前なんか好きなように呼ばれたし、俺も適当に名乗ってる。
年も知らねえし、誕生日も知らねえ。
なんで世間のやつらは誕生日とか大騒ぎするのかね。
ほんとにその日に生まれたかどうかなんて、覚えてるわけねえじゃねえか。


あっち行っちゃ牧場で働いたり、
こっち行っちゃ飲み屋の女の情夫になったり、
砂金掘ったり、井戸掘ったり、
ま、いろいろだわな。

何の意味なく俺は生きてきたけど、
それなりに面白かったぜ。





「ねえ、あたしと一緒にこの町をでようよ」
「やぶから棒に何言ってんだ」
「あたし、もう飽き飽きよ。こんな狭苦しい町なんか。東部に行って、もっと新しい町に行くのよ」
「ふーん」
「なによ、あたし何か変なこと言った?」
「いやあ、別に。行きたきゃ、行けよ。俺なんか相手にゴタク並べてる暇があったら、とっとと荷造りの一つでもすればいいじゃねえか」
「そう言うと思ったわ」
「ふーん」
「ねえ、一緒に行かない?」
「いいぜ」
「え?」
「いいっつったんだよ。どうせ、何処いっても俺にとっては同じだよ。オマエさんが行って欲しいというなら、付き合ってやるぜ。」
「本当かい?一緒に行ってくれるんだね」
「ああ、しかし、あんたも変な奴だな。俺なんかと行って面白いかね?」


とかなんとか旅立ってみたら、女はガラガラ蛇に噛まれてお陀仏ときた。
なんだよ、畜生。東部まで行くんじゃなかったのかよ。
こんなところで死んでんじゃねえよ。

ブツブツ独りごと言いながら、三日月の下、俺は墓を掘ってやった。
少しの間だったけど、まがりなりにも相棒だったわけで、
ほったらかして狼にでも食われたらなんか寝覚めが悪いってもんだ。
涙もちょっとは流した。





丘の向こうに小屋が見えてきた。
俺はホルスターからコルトを取り出し、弾がおさまっていることを確認した。
馬鹿な奴等だ。あんな小娘誘拐してどうしようってんだ。
間抜けな連中の考えることなんか、大抵相場が決まってるもんで、
いつか、どっかで野垂れ死ぬことになってるんだわ。


しかし、俺もヒマだよな。
なんでこんなことやってんだろうな。
酒場で血相変えた小娘のオフクロさんに、泣いて頼まれたとはいえ。
でも、ま、断るのもなんだし。
断る理由を探すのも面倒臭えし。
酒場の他の連中ときたら目を逸らして知らんふりしてやがる。
ああいうのを「かしこい生き方」っつーのかな。
俺だけボケっと見てたらオフクロさんと目が合っちまった。


撃ち合いなんてのはさ、あんなもんは運よ、運。ただの偶然。
そんな腕とか、あんまり関係ないと思うぜ、俺は。
狙うと本当に当たらねえもんだし、適当に盲撃ちしてたら、いつのまにか相手がくたばってたというパターンばっかりだったぜ、俺の場合。
よっぽど悪運に恵まれているんだろうけど、今後も恵まれてる保証なんかない。
どこで死んでも文句は言えねえ。
That's the date.
その日が俺の死ぬ日だったんだろ。
世の中、そういうルールになってんだと思うけど、違うのかな?


おいおい、なんだよ。話が違うじゃねえかよ。
何が二人組だよ。10人くらいいるんじゃねえのか。
しょうがねえな、まったく。
いくら悪運が強くても、これじゃどっかで俺も撃たれるだろうな。

でも、今から何もしないで帰るのも面倒臭えし、
オフクロさんに事情を説明するのももっと面倒臭えし、
いけるとこまでいってみるとすっか。

ほんじゃ、ま、最初に遠くからライフルででも撃つとするか。
一人でも片づけておくと楽だからな。

けっ、案の定、ひとつも当たらねえときやがった。
狙って当たるもんじゃねえんだけど、一発くらい当たってくれてもいいじゃねえか。
相手は全然無傷だぜ。
おー、おー、全員お出ましで、血相変えて撃ってきやがるぜ。


え、なに?なんだって?
何か言ってやがるぜ。
銃を捨てて出てこないと娘の命はないだと?
何言ってやがる、知らねえよ、そんなこたあ。
そこでくだばっちまうなら、それがその娘のDateなんだろ。
文句があんなら神様にでも言いな。

どれ、返事がわりに一発撃ってやるか。
あれ?当たっちまったのかよ?
ははー、娘のこめかみに銃をつきつけてた奴がぶっ倒れてやがる。
あれ、俺が撃ったやつかな。


おー、おー、やつら焦ってる焦ってる。
なんか俺の銃の腕を誤解してねえか、あいつら。

あれ、ひとしきり撃ちまくったら、あいつら逃げ出すみたいだぜ。
情けねえ連中だぜ。
やっぱりあいつら、すごいカン違いしてるみたいだな。
物凄い人数で取り囲まれてるとでも思ってるのかもな。
それに、俺あんまり喋るの好きじゃねえから、何も言い返してねえけど
あいつらにしてみれば、無言で淡々と撃ち込まれるのっては、イヤなもんかもしれねえな。

おお〜一団となって馬に乗って走っていくわ。
馬鹿な奴らだぜ
あれだけ固まってたら、こっちも撃ちやすいってもんだ。
誰にかは当たるだろ。
ほうらね、当たったみたいだ。

あ、違うか。馬に当たっただけか。
でも、娘を連れてる奴の馬に当たったみたいだから、娘も地面に投げ出されちまった。
痛かったろうなあ。悪く思うなよ。
なんだよ、娘連れていかねえのかよ、あいつら。
折角かっさらってきたっていうのによ。
とことん間抜けな連中だぜ。

なんだか知らねえけど、娘は助かったみたいだな。
救出作戦大成功ってわけだ。
なんか全然、俺がやったって気がしねえな。


どれ、一応助けにいってやるか。
あれ?あの野郎、誰だよ?
林の切れ目から、妙な野郎が出てきて娘のところに行くぜ。
あ〜、娘ときたら、その野郎の首ったまにかじりつきやがった。
恋人かなんかか?
あいつ手柄を一人占めしようってんじゃねえだろうな?
こんなところで出てくるくらいなら、さっきの撃ち合いのとき加勢しろっつーのによ。

あ〜、なんか、あいつヒーローになっちゃったみたいだな。
けっ、調子のいい野郎だ。

おいおい、何俺に銃を向けてるんだよ?
悪党の一味?馬鹿も休み休み言えってんだ。
その悪党を追い払ったのは、この俺、、、
え?おまえ?おまえがやったことになってんの?
ふーん。
ふはははは、ははは、こりゃいいや。
なに、青筋たててひきつってんだよ。
今更ヒーローの座からは下りられねえっての?

ふーん。
ま、いいか。
そういうことにしたいのなら、勝手にしな。
また、町に戻ってあのオフクロさん相手に説明すんのも面倒臭えや。
苦手なんだよ、あのおばはん。
会ったらまた妙なこと頼まれそうだし。

というわけで、俺はここまま行くぜ。
あとはオマエらが好きにしな。
じゃあな。





何の意味なく俺は行くぜ。
明日は俺の命日かもしらねえけど、そんなこと知るか。
Who cares?
明日何が起こるかとかさ、
何のために行くのかとかさ、
世の中には、俺以上にヒマな野郎がいて、
くだらねえこと心配したりしてるようだけど
俺あしねえぜ。
腹が減るだけだ。


何の意味もなく俺はいくぜ。

そういえば、あの調子のいい野郎。
あの後、娘さらった連中が舞い戻ってきて、
寝込み襲われて蜂の巣にされちまったって聞いたぜ。
ご苦労なこった。


どうやら、前方に雨雲が近づいてきているようだぜ。
どれ、ここらで飲み水を補給しておくとするか。

ひゃっほ〜〜!こりゃ、いいや!
地平線までつづく荒野を
すっぽりと覆い尽くす豪雨のカーテンのなかで
俺は踊り狂った。


俺の日は、生きてる日のすべて−−−−−。


(1997年5月8日:田村)
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