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男達への挽歌



 それは悲しい夢だった。

 君は−−
 君は興奮に顔を赤くして、あちこち飛び回って何かの準備をしていた。
 昔ながらの友がやってくると、

 「なにがええやろ?あいつ、あんなん喜ぶんちゃうかな?」

 と心を砕いて、
 本当に心を砕いて、
 そのやってくる友をもてなすために、
 太りぎみの体躯で汗ばみながら、
 一生懸命に飛び回っていた。

 君は本当に嬉しそうだった。
 君は本当に楽しそうだった。


 だからこそ、夢の途中で醒めたあとも、俺の身体は深い海に沈んだ。
 悲しみの海水が、肺いっぱいにひたひたと広がるようだった。
 涙が出た。


 君は最近ぐっすり寝たことがあるのか?
 冗談めかして、「いや〜、えらいこっちゃで」と言いながら、
 弱音ひとつ吐いたことがない君は、
 おそらく子供の頃からそういう人だったのだろう。


 日本は、どうも大変そうだな。
 その大変さのしわ寄せが君にゆく。
 奥さんと子供さんを養うために、一生懸命働いてきたのに。


 君の仕事がうまくいこうが失敗しようが、本当はどうでもいい。
 君の誠実、君の愛情、君の強さと君の勇気が、
 誰かにきちんと理解されていればそれでいい。
 君のその聡明さと洞察力は、表面的には鈍い光をはなち、
 見る人が見なければわからない。
 やろうと思えばいくらでも巧妙に立ち回れるのに、
 もって生まれた優しさがいつも君に貧乏籤をひかせる。


 今年もまた多くの男達が自ら命を絶っていく。

 ああ、死ぬなら
   「あいつら」から先に死ねばいいのに。
 ああ、死ぬなら
    大して人様の役にもたってない俺から先に死ねばいいのに。


 デブだの、ハゲだの、オヤジだの、スケベだの、好き放題言われながらも、
 君らの目の奥には優しい小さな光がともる。

 それも見えないような、アホンダラこそ先に死ねばいいのに。


 なぜに君らが逝くのだ。


 夢の中の君は、本当に嬉しそうだったよ。
 日頃は表現できない、
 表現しようにもその場すら与えられない
 君の愛らしさが溢れてた。


 俺は知っている。

 君のその不器用で、
 時として露悪的で、
 シャイな優しさを俺は知っている。




1999年08月03日:田村
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