語学学校研究
訪問日:99年08月04日
さて英語学校という本旨からはちょっとズレるのですが、TLCCの日本語部門(教師養成部門その他)について取材してきました。
TLCCは英語、ビジネス、日本語という3つのディヴィジョンに分かれており、日本語部門のチーフは岡本さんという方です。日本語教育法のチーフともなると、さぞや大学で言語学やらを修めて、、と思いきや、専攻は広告関連。本当だったら電通とか博報堂にいてもおかしくないバックグランドをお持ちであります。
それがどうして?というと、話は十年前に遡ります。90年にワーホリでやってきて、当時既にやっていたTLCCの日本語教師養成講座を受けてみて、その面白さにハマってしまいます。パート教師としてオーストラリアに留まり、さらにあちこちに教えにいったり教わったりで研鑚と実践を積んでいくうちに、気が付いたら自分がチーフになっていたという、「将来のあなた」のような経歴の持ち主でありました。
日本語教育法については素人である僕ですが、岡本さんの話や、彼が組んだカリキュラムは非常に現実的でバランスがいいように感じました。学究的に舞い上がって浮世離れしていくわけでもないし、かといって現場重視のあまりそれら理論を「学者センセのおっしゃること」と軽視してるわけでもなく、理論も大事、実践も大事、なぜなら現実には両方必要とされるからだ、というバランスの良さですね。
我田引水に僕の昔のテリトリーである法律に例えていいますと、法学というのはどこまでもアカデミックになれる分野で、それこそやれ「なぜ殺人は違法なのか」とか「国家形成の歴史的展開と債権法の樹立」だとか哲学的なこともやります。しかし他方では、大阪の裏通りで手形のパクリ屋だとかサルベージ屋(パクった手形を取り返すのを生業にする人々)がどうしたという、非常に現実的な世界にどっぷり漬るわけです。これ両方知っておかないとダメだと思います。理論だけだと現場で役にたたないし、現実ばかりだと悪慣れして妙な方向にいきがちなんですね。「現実的」というのは、理論と現場とを全体的にバランスよく捉えることだと思います。
岡本さんの場合も、広告という「どんなに出来が良くても肝心のモノが売れなきゃ契約を切られる」という自己満足に浸りようがない世界を知り、且つオーストラリア現地の教室で生徒達に接してきたということで、現実的なセンスは十分にあるのでしょう。それは「ウチの講義だけ受けておけばバッチリですよ」とは言わずに、「本当にプロを目指すならば大学でキチンと習っておいた方がいいですよ。そう勧めてます」とサラリと言うあたりにも現れています。
では、日本語教師をとりまく「現実」とは何なのか。一体どうやったらなれるのか?「資格」とは何なのか?そしてまた「それで飯を食う」というのはどういうことか?これがわかってないと大学の他にTLCCのような民間の教育機関の存在理由もわからないだろうし、TLCCのカリキュラムの意味もわからないだろう。そう思って、詳しく聞いてみました。
まずTLCCですが、ここを卒業しても、いわゆるオーストラリアの日本語教師資格は得られません。TLCCの卒業(修了証書)は貰えますが、これはいわゆる「資格」ではないということです。オーストラリアで有資格者として教えようとおもったら、別途大学にいって資格(単位取得)をしないと駄目ということです。
オーストラリアにおける就職ですが、公立、国立学校、機関の場合、資格は当然の前提となる場合が殆どなので、資格を持ってないと履歴書段階でハネられます(これは我々も聞いていたことですが)。しかし、私立学校やプライベートに教える場合は、特にそれがないと駄目というわけではないようです。
というのは、私立の場合は、やはりお客商売ですので、生徒がそれで満足するかどうかがポイントになり、生徒や保護者が喜ぶような先生ならば、資格の有無にそれほどこだわらない傾向があるが、公立はお役所仕事なのでまず資格という形式面で切っていく傾向があると。
でも、私立学校で教えるといっても、大体の場合は、アシスタントティーチャーなどでやってきて、先に現場で実績を積むなりコネクションがあるなりして、そこで教えているような場合が殆どで、いきなり雇ってくださいで雇われるというケースは少ないということです。
次に日本における日本語教師の資格についてですが、これはオーストラリアほど一筋縄ではいかず、岡本さんの話の他、インターネットで色々調べてみたのですが、一応こんな感じのようです。
下記のいずれかの条件に合致していること
- 大学で、主専攻(45単位)あるいは副専攻(26単位)の日本語教育科目を履修し、卒業していること(但し実習が含まれていない場合は別途実習経験)。
- 日本語教育能力検定試験に合格している。
- 一般の教師養成講座で420時間以上の教育を受けている(この420時間というのが@の副専攻の26単位の時間に相当するようですね)。
- 大卒者、高等学校経験者で日本語教育経験1年以上、または短大、高専卒で日本語教育経験2年以上。
- 専修学校専門課程修了者で、専門課程で学んだ経験と日本語教育の経験の合計が4年以上。
誰がこんなもん決めたのかというと、ようわからんのですが、1988年に文部省が公布した「日本語教育施設の運営に関する基準」の中に「教員の資格」が記載されているそうです。それが原型になって、日本語教師で必要な資格と考えられいるみたいで、日本語教育振興協会などではこの基準に準拠して決めてるような感じです。
「感じです」とか曖昧なのは、これは僕の職業病みたいなもので、ギリギリ法的に突き詰めていったらどうなるんじゃ?という部分がよう判らんからです。こちらでは資料がないのでここどまりですが、日本帰って裁判所の図書館いって完全理解をしたいくらいです。
どうも文部省が原型をつくったみたいだけど、省単位でいってるのだから、法律でも政令でもなく、いいとこ省令、訓示、告示、通達レベルでしょう。どれだけ「法」として強力なのか怪しいものはあります。実際、オフィシャルには「日本語教師としての公的な資格はない」と言われているようですし。そりゃそうでしょう。国会を通さず文部省ごときがそんなの作れるわけがない。弁護士とか医師とか薬剤師とか、資格なくして業務をやった場合、「犯罪」として罰せられるようなことも当然ないでしょう。
「じゃ何なの?」といえば、事実上の基準のようなものでしょう。「事実上の基準」とは、要するに教育機関(日本語学校)が採用するにあたって選考基準にしてるという「事実」があるということでしょうね。ところがこの教育機関ですが、予備校とか塾というのは、学校法人にするとか助成金を貰うとかいうのでなければ、誰でもいつでも勝手に作れるのですね。どっかのおばあちゃんが自宅の一室で洋裁教室を開くのにイチイチ届出も認可もいらないのと同じ。極端な話、僕が日本に帰って日本語塾を開いて、相棒福島を教師として採用したってだからどうということもないではないか?と。この場合福島は一応「日本語教師になれた」ことになる。
じゃ、420時間だとか、検定試験って何なのよ?というと、結局のところ日本語教室をやってる主立つ学校(雇用主)の「採用/就職の目安」という、非常に現実的な話とリンクしてはじめて成り立っているのだと思われます。だから資格=就職条件と考えたらいいのかなと思います。
さて上を踏まえてTLCCですが、TLCCを出ても当然検定試験合格資格は与えられませんが、40週やると上記の420週にあたるようです。ただし、TLCCでも別途検定試験を受けることを勧めているようです(就職の際にやはりハクがつくのでしょう)。TLCCの卒業生で、帰国した後検定試験に合格した人も実際にいるそうです。
で、日本の就職状況はどうかというと、これもオーストラリアと状況は似ていて、堅いところほど、それなりの資格というか検定合格という形式的キャリアを重視し、そうでないところは弾力的という感じだそうです。あなたが日本語学校の社長だとしてどういう人を採用するか?ですね。まあ資格もさることながら、生徒にウケが良く集客力があることが経営的には最優先にくるでしょうし、それなりのキャリアをみるでしょう。要するに実力があればいい。しかし実力はパッと見て判るものではないので、その証明として資格なりキャリアなりを見るということでしょう。
さて、日豪以外の第三国(韓国など)の場合はどうかというと、これはもう受け入れ学校次第という感じだそうです。オーストラリアや日本で「資格」といっても、第三国でそれが「資格」として受取って貰えるかどうかは、受け入れ国の判断でしょう。
以上、長々書いたのは、@「実力」の本質、A「資格」の本質、さらにB「営業(就職可能性)」、この三位一体の関連性で見るべきだと思うからです。学校・勉強→資格→プロ→生計という、そんな単純に一直線でいけるような世界はこの世にないと思います。ましてや日本語教師の場合、「外国人に教える」という事柄の性質上、職場は日本に限りません。ということは資格といっても、各国の規制や事情によっていっくらでも変わってしまうということですね。資格というのは、それを認めて有り難がってくれる人が存在しない限り、現実に何の意味を持たないわけですし。
「420時間」を標榜してる学校も沢山あると聞きますが、本当に先に知るべきは「それで就職できるの?」ということであり、業界の動向だったりするのでしょう。同時に知るべきは「それでホントに教えられるの?」という実質だと思います。時間そのものにそれほど大きな意味もないと思います。だって420時間の内容についての指定は何もないんだから。
以上を整理すると、まず第一の局面として@日本語を教える実力。これは大学でなど教える言語教授法に関する最高水準の理論と、現場におけるノウハウという二面に分かれるでしょう。次の局面はA資格ですが、これは現実的にはB就職ということと強くリンクしてます。さきほど三位一体と言いましたが、極論すれば「実力」と「就職可能性」の二極に集約され、「資格」それ自体は独自の項目として立てる必要もないのかもしれません。
さて上記のような前提にたって、TLCCはどのようなポジションにたっているかというと、大雑把にいって@実力のうち「現場のノウハウ」でしょう。大学の講義と相互補完するものとしての、実戦練習ですね。それともう一つはA「ドア」としての機能。例えば、日本に帰って検定試験に合格するとか、大学に進学するとか、そのまま学校に採用されるとか、全体の就職状況を知るとか、そういった未来へのドア、登竜門としての機能があろうかと思います。
さて大学の講義との相互補完という立場から、TLCCは非常に実戦的なカリキュラムを組んでいると標榜しています。これは例えば、教授法について「直接法」をとっていること。これは全部日本語一本だけで教える手法で(補助的に英語等をつかってはイケナイ)、世界どこにいっても教えられるような方法です。また模擬授業や実際にオージーに教える実習等がふんだんに組み込まれており、実際に教えてみて身体で覚えていくということですね。
相互補完の典型例としては、大学を卒業して資格は得たけど、それだけでは現場の技術は不安だというのでTLCCに来ている人もいるそうです。パンフにも書いてありますが、プロの教師になるには2〜3年のキャリアが必要で(まあ、考えてみれば仕事として当たり前でしょうが)、資格を持ってるから、ちょっと習ったからといってすぐに出来るようなものでもないのでしょう。実際の就職も、デモ授業などをやらせてみて、教え方が下手糞だったら、いくら資格があっても駄目ということになる。TLCCの場合は、その現場の実戦力を養うという面に主眼があるようです。また、逆に、TLCCを出たあと、理論と資格を得るために大学に進学する人もいます。
さて、具体的な学校の内容ですが、訪問時点で、日本語教師養成講座は3クラス。それぞれ8名、6名、5名だそうです。
この日本語教師コースは5週間から40週間まであるわけですが、本格的にやりたい人のための40週コースは毎年4(5)月と10月に開講されます。3クラスのうち2クラスは、この4月クラスと10月クラスです。あとの1クラスは5週間などの短期コースです。
どのようにカリキュラムが組まれているかというと、簡単にいえば初級から上級へ、さらに実践へということでしょう。最初の10週間で初級をやり、20週、30週で中級、上級。この中上級段階で模擬授業や、実際の現地の学生への実習が入ってきます。また日本語検定試験を睨んでの対策も入ります。最後の31週〜40週で、仕上げの卒業制作というか、実際にオーストラリアの学校で自分が一人で教える場合を想定して、カリキュラムの作成から、教材を作ったり、宿題を出したり、テストを作ったりという、実戦的なことをやるといいます。
なお、前回卒業した生徒さん達の進路ですが、二人は大学に進学(パートで教師をやる)、一人はこちらに永住権をもってる人でそのまま現地に残り(これもパートで教師をやる)、あと二人は日本に帰国し、うち一人は日本語学校に採用されたそうです。
さて、ここのコースは昼の3時から夕方5時までの毎日2時間です。ですので、フルタイムを条件とする学生ビザの対象にはなりませんので、入学しようと思っても、別の方法でビザを取得する必要があります。
これは、@ワーホリできて5〜10週間コースをとる(またその上で後に述べるアシスタントティーチャーに挑戦する)パターン、A現地の他の学校(ビジネス学校等)に通学し、夕方通うパターン、BTLCCの英語ないしビジネスコースを受講し夕方通うパターン、あるいはC観光できて10週間通う、D永住権ないし労働ビザその他を持っている、などの可能性があるでしょう。
上記のBのTLCC英語(ビジネス)とのダブルヘッダーですが、これはこれとしてパッケージが組まれています。
日本語教師アシスタント派遣プログラムも、別途あります。アシスタントティーチャーとは、その名のとおり、オーストラリアの実際の学校にいって、現地の日本語の先生の横でアシスタントを勤めることです。これは上手くいけば非常に貴重な経験になるようですが、ハズれると大変ですし、そもそもこれをアレンジするのが大変。
このあたりの事情は、昔むかし福島がいた会社でやってて、その種の苦労話はよく聞かされました。詳しくは本人に書いてもらいますが、周囲1000キロ日本人なんか一人もいないようなエリアで、ポツンと行くだけでも大変なのに、ワンパク連中相手にクラスをオーガナイズするというのは、想像するだに大変そうです。
日本でもこの種のアレンジをやっている会社は沢山あると思いますが、大変なのが受入れ校探し。「アシスタントいりませんか?」でオーストラリア中の学校に聴いていくのですが、この種の依頼をしてくる機関は山ほどあって、現地の学校では申込のDMが積みあげられてるとか。それだけに新規に受け入れ学校を開拓するのは大変でしょうし、トラブルが起きれば「もう結構」と言われてしまうでしょう。送り出す側、受け入れ側、双方の準備を整えなければなりません。これ専門でよほど慣れてないと、なかなかやっていけない仕事だと思います。
よくこんな大変なことやるもんだな、TLCCの場合どうしてるのかなと思ったら、提携先がありました。その昔ACTHという機関でアシスタントプログラムをやっておられたアマミヤさんという方が担当されてます。実は僕らはこの方にお会いしたことあります。以前メリディアンという語学学校に取材にいったとき、当時同校と提携してらして、そのときにお会いしました。メリディアン撤退の後、現在はTLCCと提携しているとのことです。
TLCCの場合、このプログラムは、年に4回、10週間づつ行なわれます(こちらの学校は4学期制だから)。申し込む場合は、アレンジ料(1500ドル)の他、TLCCで最低5週間の日本語教師養成講座(725ドル)を受けることが条件になっています。岡本さんの話では、本人のためには10週間くらい受けた方が本当はいいのだけど、あまり高額になっても大変だからということで5週間にしているそうです。ただオーストラリアの教育理念や教え方など何にも知らないでいくのも大変だろうなと思います。
今は日本に帰国してる僕らの仲間の柏木も日本語教師(UTS卒)で、時折スポット的に授業をやってましたが、前日はやはり準備に追われてました。こちらはいかに生徒達に飽きさせないようにするか、生徒達の興味の赴くままに臨機応変にテーマを替え、かつ全体として帳尻は取れているというカリキュラムや授業の流れを組み立てるのが難しいといいます。エンターテナーとして成立することが要求されるような感じで、そのために授業がどっちに向ってもなんとかなるように予め数種類のパターンを用意すると。さらに教材などは教師が自分で作るので、日本の写真や絵葉書を集めてましたし、僕もよく財布の片隅に入ってた日本のレンタルCD屋の会員証とかレシートとかを素材として提供しました。大きな画用紙に「うま」とか「ひつじ」とか書いたり、絵を書いたりしてましたね。
だからそのへんの基礎知識がないままポンといっても大変だと思います。ぼーっと突っ立って、オリガミの鶴折ってそんで終わりだったら間が持たないでしょうし。また「日本語は全て母音と子音がくっついていて」なんて日本語で喋っても誰も理解しないでしょうし。
さて、10週間どこにいくかですが、これは基本的には「NSW州のどっか」でしょう。そんなにシドニー周辺に都合よく受入れ学校が転がってるわけもないでしょう。そこに飛行機なりバスなりで赴任するわけですが、現地では基本的にホームステイで、よほど好意的に受け入れてくれるところでないと、やはりホームステイ料は必要となります。「ホームステイのアレンジはできないから自分で探せ」といってくる学校もあるそうです。
この10週間がどうなるかは、それはもう受入れ先学校との相性次第でしょう。10週間でクタクタになって帰ってくる人もいれば、楽しいからもう10週延長とかいってて1年やってしまった人もいるそうです。
この赴任期間中のビザは、特別にそのビザがあるそうです(サブクラス416)。学校から受け入れ証明を貰ってこのビザの申請もやらねばなりません。なおこの416ビザはワーホリや観光ビザからは取得できるのですが、なぜか学生ビザからは取得できないようです。このビザ取得の費用は、申請費が320ドル(健康診断費用含)と代行業者さんに申請代行を依頼した場合の手数料が400ドル(これは会社によって違うでしょうけど目安として)。
その他、翻訳家養成講座、英語教師養成講座など、いろんなコースがあります。岡本さん自身、翻訳家でもあり、仕事も増えて「1日の半分は翻訳やってますよ」と言ってはりました。また英語教師養成ですが、ここは児童英語教師養成という、2002年からはじまる小学校での英会話授業を念頭においたコースが珍しいです。
これらのコースは、英語コースやビジネスコースとのパッケージがそれぞれ出ており、ほとんど順列組み合わせのようにあります。パンフレットをもとに引き写すのが大変でした。結構なディスカウント率ですので、併せて考えてみられるといいでしょう。朝の9時から5時までですのでハードではありますが、ミッチリ勉強した〜という気分にはなるでしょう。
取材の最後は雑談になり、今度日本に一時帰国する岡本さんと「日本帰ったらデジカメ買おうかなって思ってるんですよ。やっぱり今は買いですかね」なんて話で脱線して盛り上がってしまいました(^^*)。
こういう話をしていると、ほんとに気さくにお兄ちゃんでありした。
99年08月06日記
文責:田村/福島
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