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最近の日本の若者の身体の成長には驚くものがある。背が高くなり、足も長くなり、顔は小さくなり・・・と少しずつではあるが外国人の体形に似てきていて、うらやましい限りである。
1997年から2000年まで、母校の看護短大から看護学科2年生の学生がオーストラリアへ看護研修に来ていた。確か2000年のグループだと思ったが、下着を買いたいということになり、ブラジャーの話になった。研修参加者は6人で、全員がCカップ以上、その内の2人はFカップと聞いてびーっくり!!!
私が中学・高校の頃、いや働いてからも胸が小さいことを本気で悩んでいる友人が何人かいた。皆、私から言えばうらやましいくらいスマートな人たちだった。
私は太っていたためCカップだったが、やせると胸の肉からそぎとられるように、胸がひとまわり小さくなった。驚いたのは、この6人の研修参加者の誰もが特に太っているわけではなく、中にはとても細くて、昔ならAの半カップブラをするようなスマートな人まで、Cカップをしているという事実だった。
正直言って、太っていない日本人でFカップをするような人とは出会ったこともなかった。といっても会う人皆に「あなたは何カップのブラをしてますか?」と聞いているわけではないから、知らないだけかもしれないが、それだけ大きかったら口に出さなくても気がつくだろう。
時代が変わったというしかないようだ。肉食が増え家畜の鶏や牛には成長を促すホルモン剤が多量に使われているため、子供の成長が著しいと聞いたことがあるが、これと胸の大きさと相関関係があるのかどうか真相は定かではない。
オーストラリアの女性は、胸が大きい。体格がいいから当たり前だろうと思うかもしれないが、小柄で私と身長がそんなに代わらないような人でも、女の私が思わず目を見張ってしまうくらい大きな胸の人をたくさん見かける。
患者さんでも、食べられなくなって体がどんどんやせていっても胸は日本人のように、しぼんでしまわないようだ。根本的な組織のでき方が違うのだろうとしか考えられない。
そして、胸が大きすぎることを悩んでいる人にたくさん会った。一緒に働いていた30歳のナースのフリシィティは、2人目の子供が産まれたら自分は絶対に胸を小さくする手術を受けるんだと言っている。彼女は約160cmの身長のスマートな人で、看護のユニフォームを着ていると胸がそんなに大きいようには見えないが、ぴっちりしたTシャツを着るとその大きさが目立つ。フリシィティもFカップだという。
胸小術を受けた患者さんを何人も看護した。10代から60代の女性と年齢は様々だった。胸が大きすぎるため、肩こりや腰痛がひどいというのが手術に踏み切った大きな理由の1つであることが多いが、若い人の中には胸が大きすぎることを悩み、コンプレックスになって引込み思案になってしまっているため手術に踏み切ったという人もいた。
日本ではまだまだ胸小術よりは胸拡大術(医学用語では何というのか???)のほうが多いだろう。国が変わるとその悩みも変わってくるという一つの例だといえる。
準夜勤務で34歳のトリーザを受け持った。両乳房の形成術を受けたばかりで、点滴をしており、両乳房のガーゼの端から創傷ドレーンチューブが出ていた。
バイタルサインのチェック、鎮痛剤の麻薬の注射、そしてトイレへ行くために、創傷ドレーンチューブの介助をするのが主なケアだった。立ち上がると小さな人で私と身長はそんなに変わらなかった。ご主人らしき人が、ベッドサイドに座って手を握っていた。
しばらくして、状態も落ち着き、トリーザも麻酔の眠気からさめてきたようで、表情がはっきりしてきた。彼女は美容整形外科医の手で、両乳房形成術を受けていた。ということは両乳房を切断したということである。
簡単な申し送りでは彼女が乳癌だという話はなかった。忙しくて手術記録を読む暇もないまま、トリーザに聞いてみた。トリーザの話は正直言ってショックだった。
「どうしてこの手術を受けることになったんですか?」
「乳癌になるのが怖いから、両乳房を切断したのよ。クレイジーだと思うかもしれないけど、私の母は33歳で乳癌で死んだの。私は3歳と5歳の幼子を残して絶対に早く死ぬことはできないわ。今まで、何度か胸にしこりを見つけ、その度に癌の恐怖におびえていたのよ。もうこれで心配することはなくなったわ。」
全く健康な乳房であっても本人が希望すれば切断される。この選択は女性にとって決して簡単なことではない。しかし、トリーザには幼い子供のために生きて行きたいという強い希望があった。これでトリーザが癌の恐怖におびえることなく生きていけ、胸も美容整形術で美しい形を保つことができるのなら彼女にとっては大きな安心を得ることになるのだ。
これは7-8年前の話である。オーストラリアは乳癌患者が多く、その遺伝性も伝えられている。ここ数年、トリーザのように乳癌になることを恐れて、健康な乳房の切断術および形成術をする人の数が増えてきており、テレビでもその話題が取り上げられていた。
テレビに出てくるのは極端な例だろうが、祖母と母の両方が乳癌になったという20代初めの若い女性が乳房切断術を受けているのを見て驚いた。医療の進歩は様々な選択とそれを選ぶ権利を個人に与えるようになったといえるだろう。