オーストラリアの病院はオープンシステムといって、普通医師は病院に常勤しない。もちろん州立や大学病院などベッド数が多く、急患がたくさん来る病院では、医師が常勤しているが、小さな公立病院や私立病院には一般に医師は常勤しない。
医師の外来オフィスは4畳半から8畳くらいの部屋で、医師がここで行うことは簡単な聴診や触診、レントゲンを見たり、予防注射をするくらいだ。白衣も着ていないし、介助にあたる看護婦もいない。
これらの医師は何カ所かの病院と契約を結び、患者に特別な検査や手術・治療が必要だと判断したとき、最も都合のよい病院に患者を入院させる。日本と違って医師が病院の経営者であることはない。
このように一つの病院に多数の一般医や専門医が出入りしてその施設を利用するシステムをオープンシステムという。(日本のような形態はクローズドシステムという)
風邪をひいたり、捻挫をした時、日本では自分で選んで内科とか整形外科の病院に行くが、オーストラリアではよほどの救急でない限り、最初に行くのがGP (ジーピー)、一般医、または家庭医と呼ばれる医師の外来オフィスだ。
GPは、赤ちゃんから老人、内科、耳鼻科、外科、婦人科など浅く広く全てを診察し、自分の手に負えないと判断したとき、患者を専門医におくる。一般にこのGPからの紹介状がなければ専門医の診察は受けられない。
薬が必要なときは、処方箋を患者に渡し、患者は薬局で買い求める。レントゲンが必要なときは指示用紙を患者に渡し、レントゲン設備のある施設へ患者を送る。
マティが風邪でGPの所へいったとき、血液検査を頼んだ。(オーストラリアでは職員の健康診断というものがないので、しばらく血液検査をしていなかった。)そうしたら、検査内容を書いた指示用紙をくれ、臨床検査の会社まで行って採血を受けてくるよう言われ驚いた。たまたまマティは病院に勤めているので、職場で採血を受けることができたが、もし体調が悪いときにわざわざ車で30分もかけて採血をしに行くなんてやってられないと思った。
レントゲンにしてもいちいち別の施設へ行き、再度GPにその結果を聞くため会う約束を取り(その都度料金を払わなくてはならない)、何事も1度で終わらない。
この点では日本の方がずっといい。だいたい体の調子によってどの科にいったらいいのかは、見当がつくものだ。しかしこの面倒くさいシステムのおかげで(?)日本のような過剰医療(過剰な検査や投薬)は少ない。
レントゲンはきちんとタイプした結果報告書とともに患者に渡されるし、医師や病院が変わると検査結果が送られるので、同じ検査が繰り返されることはない。これは患者の身体的負担を軽くし、また医療費節約にもつながるシステムだと思う。
専門医は日本と同じように内科、外科、小児科、整形外科、婦人科、耳鼻科、眼科、等々あらゆる科にいる。違いは非常に細分化されているところだ。例えば日本の私立病院では、胸部外科と一般外科の看板を立て、肺葉切除術から虫垂炎、胆石症の手術もし、更に乳ガン末期や肺ガンで放射線療法を受けている患者まで幅広く見ているところがある。
オーストラリアでは胸部外科医は胸部の手術しかしない。胆石症は腹部外科医、ガン患者は腫瘍学の医師が担当する。また多くの患者がよく糖尿病や高血圧などの疾患ももっているが、その時は内科医の中でも特にこれらの疾患を専門とする医師が呼ばれる。時には1人の患者に3ー4人の専門医がかかわることがある。
自分の専門分野ではすばらしい知識と技術を持ち、自分の範疇でないことはその専門家に任せる。そのチームプレイもよく、患者はそれぞれの専門家が最良をつくすので、当然回復も早い。
日本の医師も腕にいい人はたくさんいるし、非常によく勉強し、幅広く患者を治療している立派な医師がたくさんいることは認めるが、オーストラリアの専門医を見ていると、専門の中でも更に本当の専門分野しか手をつけないためますますその技術と知識が磨かれといるように感じる。
実際に働いていて尊敬できる医師がたくさんいるし、マティは自分が病気になったら整形外科医ならピーター、脳外科医ならナイジェル、内科医はデニスなどと決めている。あなたは一緒に働いている医師に自分の体を任せますか?
公立病院は、国と州から予算を与えられた大学病院や州立病院がある。患者は救急でない限り直接病院へ行くことはできない。いや救急外来にはいくことができるが、そこはいつも超満員で、頭痛や風邪などの命に別状のない状態で行った場合6ー8時間以上も待たされることになる。
優先されるのは交通事故や心筋梗塞など命にかかわる救急患者である。公立病院の救急外来は無料であるため多くの患者が行くが、時には看護婦にGP(一般医)の所へ行くことを薦められる患者もいる。
政府が毎年予算不足で、医療費を削減しており、多くの公立病院が予算がないため病棟を閉鎖したり、緊急以外の手術を半年から1年以上も待っている患者がいて社会問題となっている。
心臓バイパス手術を受ける予定の患者が、手術当日の朝、病院からキャンセルの電話が来たという話が新聞に載っていた。オーストラリアではこのような大手術でも入院は前日か当日である。日本では少なくても1週間前に入院して色々な検査をする。
公立病院での治療は一切無料で行われるが、私立病院は非常に高い。手術を受けたら手術室使用量に$300〜$800(1A$=100円で換算して、3万円〜8万円)、1泊すると集中治療室で$700(7万円)、病棟で$350〜$450(3万5千円〜4万5千円)はする。
プラス外科医と麻酔科医から料金を請求される。更に医師は私立病院で治療を受けている患者には、医師会で決められた定額料金以上の治療費を請求することができるため、患者の出費はかなり高額になる。
しかし、私立病院のサービスはホテル並だ。シーツは毎日交換され、食事は全てメニューから選び、昼食と夕食にはワインかビール、そしてデザートが付く。もちろんキッチンにいるのはシェフだ。料理は下手なレストランに行くよりずっとおいしい。
私立病院といっても日本のように医師が経営者となって利潤を目的とする病院と、コミュニティーや協会団体が基盤となって利潤を上げることを目的としない病院がある。基本の資金が政府から出ていない時、Private Hospital、つまり私立病院と呼ばれる。(日本でもようやくこの形式の組織が見られるようになりました。日本ではNPOと呼ばれています。2004・Jul、Mattie)
ちなみにMattieが働く病院は英国教会が地域への福祉サービスとして始めた利潤を追求しないプライベート・ホスピタル。(Mattieは9年働いたこの病院を2002年に退職し、今はカソリックのNPOのプライベート病院で働いています。2004・Jul、Mattie)
オーストラリアは1984年にメディケアと呼ばれる国民皆保険制度を導入した。オーストラリアの永住権を持つ者、および外交官とその家族はメディケアによって医療費の補助を受けることができる。
一般医と専門医が外来および病院で行う診察、治療行為に定額料金が決められておりその75%ー85%はメディケアによってカバーされる。
個人開業医の外来や私立病院で検査や治療を受けた場合、医師は定額料金以上の金額を請求でき、多くの医師は追加料金を請求している。
例えばマティが風邪で近くの一般医(GP)の外来に行くと、30ドル80セントを請求される。一般医の外来診療の定額料金は24ドル50セントでメディケアが85%の20ドル85セントをカバーするので、マティは残り15%と追加料金の6ドル30セントを支払うことになる。
この追加料金はそれぞれの医師によって請求額が異なる。専門医は5ー10分の外来診療でも10ー35ドルくらい追加請求している。マティの働く病院の脳外科医の一人は、開頭術に$800(8万円)の追加料金を請求しているという。
正看護婦のことをレジスタード・ナース、略してRN(アールエヌ)と呼ぶ。RNの養成は以前は主に、州立病院で3年間働きながらか、一部の大学で勉強しながら病院実習をし、Diploma(デイプローマ)、日本で言う短大卒業の資格を取るというかたちで行われていた。
1980年代後半より各州で看護教育制度改革が始まり、マティの住むサウス・オーストラリア州では1993年より、看護婦養成は全て大学で行われるようになった。オーストラリアの大学では、特別な資格を除く全ての学科は3年間で学位が取れ、看護学部も3年間で終了する。
では日本の4年制看護学部とどう違うのか? これはマティの個人的意見であるが、大きな違いはない。日本の大学では4年間で保健婦資格、大学によっては助産婦の資格も取れる所がある。オーストラリアで保健婦や助産婦の資格を取るためには、もう1年勉強しなくてはならないから、初めの3年間の教育は類似していると言える。
きちんと比べてみたわけではないが、オーストラリアの大学の病院実習は短いようだ。1年目は病院実習が全くないという。また職場における健康管理を学ぶため企業実習に行ったりする事で時間がとられることも一因している。
またオーストラリアの多くの授業はレポート提出でパスか落第が決まる。もちろん1年生で学ぶ生物や化学、解剖学はテストがあるがその他の教科はほとんどが自分で文献探索をして論文をかくことで成績が決まる。自主的に考える力を試されると言えるだろう。
オーストラリアには看護婦の国家試験をいうものはない。大学の授業と病院実習にパスして、その州の看護省に登録すれば資格がもらえる。しかし、各州で少しずつ違いがあり、例えばMattieが他の州に言った場合、その州の看護省に登録しなおさないと働くことはできない。
オーストラリアの看護婦はナースキャップはかぶらない。1985年頃よりナースキャップの廃止が始まり、続いて白衣からブラウスとキュロットスカートにかわってきた。
公立病院のいくつかでは、まだ日本のようなワンピースの白またはピンクの白衣を着ているところもあるが、私立病院はほぼ全てが、病院独自の柄入りブラウスとキュロットスカートかパンツで働く。(今はもうワンピースのユニフォームを見ることはない。また日本にように上下に分かれていても白でいかにも看護師さん!というようなユニフォームも見ない。2004・Jul、Mattie)
看護婦はユニフォームを着たまま出勤し、そのまま帰宅する。(手術室・回復室勤務の者は病院で着替える)街に買い物にでると一目で看護婦とわかる人達がたくさん歩いている。どこの病院かまではわからないが、特有のキュロットスカートをはいているので、すぐ気がつく。
日本で働いていたとき、白衣を着て外にでると菌を持ち込む、または菌を持ち出すからだめだといわれ、たった30分しか取れないお昼休みに、着替えて銀行へ行ったものだが、この考えは特別な場所での勤務を除き(手術室、隔離室etc)矛盾している。
外にでると菌を持ち込むというなら、家族や訪問者は着替えをしない限り患者にあってはいけないことになるし、菌を持ち出すというなら同じ白衣を着て1日に何十人という患者に接することは許されない。
オーストラリアでは勤務中に長袖を着ることは禁止されている。斡旋会社から派遣されて初めて行った病院で、注意を受けどうしてなのか全くわからなかったが、1年後に正職員として病院で働き始め、ようやく理由がわかって「へー、なるほど」と思ったものだ。
それは長袖を着て処置をしている時、袖が汚染されたらその汚れを次の患者に持っていく可能性があるからだ。汚れとははっきり目に見えるとは限らないから、知らないまま感染源を次から次へと患者さんに運んでいく可能性がある。素手であれば汚れは洗い流せる。
補足:この記事は1997年にかいたもので、99年現在、少なくともサウス・オーストラリア州の病院は公立・私立を含めすべてブラウスとキュロットスカート、スカート、またはパンツに変わっている。面白いのはMattiesが働き始めた頃は色物(ピンク、水色、グリーン)や柄物のブラウスが流行っていて、どこの病院もけっこう派手なユニフォームを選んでいたが、去年(1998年)くらいから、ブラウスが白に変わりつつある。Mattieは柄物のブラウスがとても気に入っているのだが、今年始めから袖と襟に色物のテープをつけた白のブラウス変わってしまい、とても残念に思っている。PCA(ピーシーエー)は Patient(患者) Control(コントロール) Analgesia(鎮痛剤)の略。言葉のとおり、患者が必要な時に自分でコントロールして痛み止めを注射できるようになっている。
一般に手術後の痛みコントロールに使われ、コンピューターが内蔵されたシリンジポンプをセットすることによって、患者は痛みを感じると自分でボタンを押し、自動的に麻薬が一定量づつ静脈内に注射される仕組みになっている。稀に皮下注射や硬膜外注射を使うこともあるが、一般病棟ではほとんど静脈注射が使われる。
PCAは1990年代始めに導入された。看護婦対象のPCAの勉強会に参加したことを覚えている。始めは誰もが患者が麻薬を自分で投与するなんて危険ではないのか?投与し過ぎで何か事故が起きないのか?と不安になったのだ。いまでは外科病棟ではどこでも使われていて、特別な勉強会というのは聞いたことがない。
さて、一般に大きな手術後の患者さんは点滴を受けているが、PCAはその点滴の側菅からラインがつながれる。
よく使われるのはモルヒネとオピスタンで、普通生理食塩水と混ぜてトータルが30ccになるようにシリンジを作り、モルヒネなら1cc=1mg、オピスタンンなら1cc=10mgになるようセットする。だから患者がボタンを押すと1mgのモルヒネ、または10mgのオピすタンが静注される。
あまり押しすぎて、麻薬が短時間に多量に静注されるのを防ぐため、一度ボタンを押してから5分間は何度押しても投薬されない仕組みになっている。これはせっかちな人がドアをノックして相手が出てくるのを待てず、何度もドアをノックしつづけるように、一度ボタンを押して麻薬が注入されるのを待てず、何度も押す人がいることを考え、安全を守るため設定されている。
麻薬系鎮痛剤の副作用の一つに呼吸抑制がある。だから患者は普通酸素2Lをカヌラで受け、看護婦は1時間毎の麻薬使用料と呼吸数をチェックすることが義務付けられている。
PCA の良い所は、なんといっても患者の痛みのコントロールが簡単に適切にできることだ。筋肉注射による痛み止めは、頻回の投与で筋肉に損傷を与えること、痛みがピークになって注射をし、少しずつ効き目が出てきて今度は効果がピークとなり、だんだんまた痛みが出てくる…というように痛みの曲線が波上になるが、PCAは患者が自分で痛みを感じ始めたらすぐ静脈から投与されるので、痛み曲線がなだらかで、トータルで使う麻薬量が筋肉注射より少なくて済み、また痛みを我慢することによる精神的ストレスが少ないため、麻薬からの離脱も早くできるといわれている。
看護婦にとっても、患者が自分で投与してくれるので、いちいちロックされた戸棚から麻薬を出して2人の看護婦で麻薬数を数えてサインし、その二人が患者の元へ行って、患者名をチェックして注射するという手間が省ける。もちろんPCAのシリンジ交換は2人の看護婦で行われなければならないが、一度交換するとかなりの時間持つので、何度も麻薬をチェックする必要がなくなる。
稀にPCを使って呼吸数が落ちて、麻薬拮抗剤の注射が必要な人があるが、これはPCAのためというより、麻薬そのものによる作用で、他のルートで投与されても多かれ少なかれ同じような問題が起こると考えられる。だからPCAそのものによる問題というのは聞いたことがない。
麻薬の副作用に吐き気や嘔吐があるが、制吐剤を使ってもうまくコントロールできず、麻薬をモルヒネからオピスタンに換えたりその逆をして、それでもだめで使うのを中止するという例は時々見かける。
他にはやはり副作用の頭痛を訴える人もよくいて、その場合は軽い痛み止めを経口で投与することによって緩和されることがある。しかし、よく一般の人が心配する麻薬の使いすぎで中毒になるという例は聞いたことがない。
では、これが日本でどんどん普及するか?というと疑問である。日本は痛みコントロールが非常に遅れている。特に麻薬の使用を倦厭する医師が多く、ガンの末期の患者さんで、麻薬以外には緩和できないようなひどい痛みにも必要量の麻薬が使われなかったり、ひどい時には麻薬が全く使われなかったり…というのが現状だときく。(最近、出会う看護師さんは、日本でもPCAは使われてきており、働いている病院で使ったことがあるとおっしゃる方が増えてきています。2004・JUl、Mattie)
また医師が麻薬の使用に消極的で、「麻薬は中毒になる」とか「頭がおかしくなる」とかいう、誤った知識を患者や家族に話すため、知識のないこれらの人達はそれを鵜呑みにして、麻薬使用を必要以上に警戒する傾向があると思う。
実際、モルヒネ投与後に、幻覚がでたり混迷状態になる患者さんがいる。しかしこれは、その患者さんの体がモルヒネに合わないのであって、即刻投与を中止し、別の麻薬に切り替え、二度とモルヒネは使わないようにする必要がある。
オーストラリアでは慢性腰痛などにも経口モルヒネが使われるし、稀に虫垂炎の手術後の患者さんにPCAで麻薬を投与する医師もいる。痛みの緩和は医療・看護の重点目標の一つとして対処されているといえるだろう。
主治医が常勤しないオーストラリアでは、多くの指示が電話で出される。働き始めた頃、電話対応が一番の苦痛だった。面と向かっても英語がわからないときがあるのだから、電話で声がくもって聞こえにくいとますますわからなかった。それだけでなく、こちらの言うことも通じなかった。
ある時、術後の患者さんに「ボルタレン」という日本でもよく使われる抗炎症剤投与の指示を得るため、電話を入れた。知っている薬だから大丈夫だろうと軽い気持ちで電話した。が、「ボルタレン」は英語のアクセントと発音では「ヴォルタレン」になることなど全く知らなかった。
医師に「あんたの言ってることはわからない」と怒鳴られても仕方がない。ここまではっきりいわれると開き直ってあまり落ち込むこともなく、すぐとなりのナースに受話器を渡したが、忘れられない思い出だ。
この医師は普段はとても感じがいい人なのだが、私のオドオドした対応と何度も繰り返した「ボルタレン」がよほど気に障ったのだろう。とにかく、最初の一年は電話に出ることが苦痛で苦痛で仕方なかった。
そして、働き始めて一年がすぎる頃、まったく気にしないで電話に出ている自分を発見して、その変化に驚くとともに、「よくやった。」と自分で自分の頭をなでてあげたいと思ったものだ。
今働いていて気づくことだが、斡旋会社からきた派遣ナースの中には電話を避けて出ない人がよくいるし、常勤の看護婦でも電話に出たがらない人を稀に見かける。それも完全に英語圏で生まれ育った人達だ。それを思うと自分はよくやったものだと自己満足している。
さて、電話で薬の指示を受ける時は、最初に医師と対応したナースが薬名、投与量、投与方法、投与回数を聞いてメモを取り、二人目のナースに医師から同じ指示を繰り返し言ってもらうことによって、間違いを避けるよう義務付けられている。
まだ、電話対応になれてなかった頃、非常勤ナースのリサが受け持ち患者のことで医師に電話連絡し、薬の指示が出された。確認して、と呼ばれて電話に出たが、リサは一切メモをせず、口頭だけで指示を受けていた。
その薬は全く聞いたことがない物で、私は医師に聞き返さなくてはならなかった。すると、指示確認に出た二人目の私が聞き返したことを医師が不信に思い「その場で薬について調べなさい。」と怒られた。私はきちんとメモしてくれなかったリサに腹を立てた。たとえ聞きなれた薬でも必ず、メモをとってそれを二人目のナースが確認することによって間違いを避けるのだ。
電話を切ってから二人が違う指示を受けていたら、再度その医師に電話をし直して確認しなければならない。ただでさえ、家まで電話を掛けられて団欒を壊されたことに腹を立てる医師は多いから、指示を出したばかりの薬で再度電話を受けたら怒り出す人もいるだろう。でも中には、きちんと確認してもらって良かったといってくれる医師もいる。間違いが起きた方が大変なのだ。
今でも電話による指示は多少緊張する。特に土・日、祝日の夜、患者の変調で電話をしなくてはならない時はちょっと憂鬱だ。いつ電話をしても迷惑そうにいやいや対応する医師と、「連絡してくれてありがとう。」といってくれる医師がいるが、これは万国共通、各医師のパーソナリティによるというしかないようだ。
マティは外国で働いたことがあるという看護婦がいるとすぐその様子を聞いてみる。特にオーストラリアと比べてどんな違いがあるか聞いてみる。
まずアメリカ・カナダは、看護婦の労働条件が悪い。年休は2週間とのこと(オーストラリアは4ー6週間)また非常に忙しくオーストラリアほど基本看護に手が回らないと言う。基本看護というのはベッド臥床の患者さんの背部マッサージをしてあげたりするようなことを言う。
イギリスは賃金がオーストラリアより低いとのことで、イギリスからオーストラリアに働きに来ている看護婦がたくさんいる。またイギリスは看護婦不足でオーストラリアに看護婦募集の公告がよくでている。
オーストラリアの看護婦は、質がいいと人気があるそうだ。イギリスの看護は古いという。給料は良くないが、ヨーロッパへ旅行に行きやすいということから、沢山のオーストラリア人看護婦が1年から2年くらいイギリスへ行き、仕事をしながらホリデーを楽しんできている。