ホスピス・緩和ケア特集(3)

夫婦でガンと闘う時代No2

2004年8月

62歳のエマが、他の病院から転院してきた。乳癌の脳転移で、状態はかなり悪く昏睡状態だった。ナースステーションから一番遠い部屋だったことと受け持つ機会がなかったことから、エマの状態は簡単な申し送りの内容でしか知らなかった。

数日後、準夜勤務に出ると、申し送りでご主人がベッドのまま2階の重症病棟からエマのところへ来て数時間を過ごしたということだった。何とご主人もすい臓がんの手術を数日前に受けたばかりだった。このご主人の手術が決まったため、エマはご主人の希望で、ホスピスのあるT病院へ転院してきたのだった。


その日、準夜で体位交換を手伝うため、初めてエマの病室を訪れた。金髪のショートヘア、長く形の整った爪に塗られたピンクのマニキュアと細い指、そしてふっくらしたエマの姿はこんな病状の時でも40代にしか見えなかった。しかし、意識は全くなく脳転移特有の重苦しい息をしていた。

ご主人の名前は知らないが、その後も毎日、エマの病室を訪れているということだった。エマは転院して1週間で亡くなった。ご主人はどんな気持ちでエマを見送ったのだろう。そして、悲しんでいる間もなく、これからは自分がガンという病気と闘っていかなくてはならない。

医学はどんどん進歩し、ガンの治療も確実に進んでいるわけではあるが、それでも毎日たくさんの人がガンで亡くなっていく。私は個人的には、ストレスとそれに伴う免疫力の低下というものが、何らかの形でガンの発症や治療に関係していると思っている。

このご主人が、エマの死のため、落ち込んで、病状が悪化しないでほしいと思わずにはいられない。しかし、そんなこと不可能だ。最愛の妻の死を悲しまない人はいない。こんな形で、夫婦でガンと闘わなければならない運命を一体誰が授けたのだろう。


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