今週の1枚(00.09.25)
Olympic の風景(その2/カヌー・カヤック編)
前回に引き続き、「普通の地元民から見た」オリンピックです。
前回の分(聖火リレーとか開会式の街の様子など)を見たいひとはここをクリック。
今回は、19日に行なわれたカヌー・カヤックの予選の模様を。
日本ではマイナーだと思われるこの競技、なんで見にいったのか?というと、基本的に今回の観戦のモットーは、「こんなことでもないと観ない競技」を見ることにしたわけですね。
まあ、チケットが取りやすくて、比較的安いということもありますが、どーせマスコミ情報では同じような競技を繰り返しやるだけだろうし、現地にいるという地の利を生かすならば、テレビでは絶対わからないような「本当のこと」を知りたかったってのもあります。大体、テレビでやるようなシーンを見たいならテレビ見てればいいですもんね。一般ギャラリーでは逆立ちしても見れないような特等席にテレビのカメラはあるわけだし、それも何台も中継してくれるんだから。
そんなわけで、柔道(これも人気の初日−田村選手の出る日−は外して二日目)のほか、バドミントン、アーチェリー、そしてカヌーを見にいったわけです。あと、「ペンタスロン/近代五種」なんてのも見にいく予定です。
で、その「本当のこと」ってのはわかったのか?というと、結構わかったような気がします。なにかというと、言葉にしちゃうと詰まらないんだけど、「みんな、すごい頑張ってるんだな〜」ってことです。ね、言葉にしちゃうと詰まらんでしょ?でも、その「みんな」というのは、「メダルの取れそうな日本選手だけじゃないぜよ」って強烈な意味があります。メダルに縁がなかろうが、そして日本人であろうがなかろうが関係ないです。ハンパな気持でここまで来てる奴なんか一人もいるわけないんだし、誰だってとんでもない道のりをたどってきてるわけだし、どれもすごいわけです。
こんなことは言葉や頭では理解できるし、別に反論したい人もいないだろうけど、頭でわかってるのと現場で実感するのとでは、全然違う。その体感的な「全然違う」って部分が、「本当のこと」だと思います。
逆に言えば、オリンピックの「最悪の観戦方法」というのは、金メダルを取る選手が、金メダルを取るその試合、その決定的瞬間だけを見ることだと思います。こんなの、面白いわけないんですよね。
こんなこと書いてると、地元の有利さで見に行けたのを自慢してるだけみたいだけど、そーゆーことじゃなくて、やっぱりこーゆー事はその現場に居合わせたラッキーな奴が言わなアカンと思うのですね。ほんとは選手や関係者が本当のファン達が一番それを訴えたいのだろうけど、僕のようなド素人達が又それを言う事によって広がっていくと思うのですね。それが広がって一般認識になっていけば、また放映の形態も変わるだろうし、多くの人がより多くの興味深いスポーツに出会うキッカケにもなるだろうし。そうやって広げていかないと、得意科目しかやらないで段々先細りして失敗するアホな受験生みたいになっていきそうじゃん。
僕が見にいったのはどれも予選レベルだったし、ルールや見所も直前になってオリンピックのオフィシャルサイトで競技説明をダウンロードして勉強しただけで(って、これ相当充実してます。全部英語だけど)、競技場で最初見たときは何やってんだかよく判らんようなもんなんだけど、それもしばらく見てると段々飲み込めてきます。何時間も見ていくうちに、上手下手、強い弱いが素人目にもわかってきます。だんだん引き込まれるのですね。で、「うわ、この人すごい!」「げ、こいつバケモンかよ」って選手もわかってくるし、「今のプレイは素晴らしい!」ってのも素直に判るのですね。知らずしらずのうちに感動してるという。
そんでもって、「そんな国あったっけ?」みたいに、本当にいろんな国から選手が出てきますし、全然トップレベルに追いつかなくても一生懸命頑張ってるわけですね。そして、それを応援しているその国の人達が観客席のあちこちにいたりするわけですね。それは、なかなかいい風景なんですね。
そういったミクロとマクロを体感しつつ、さらに勝ちぬいていって対決するからいやがおうでも決勝が盛り上がるのでしょう。相撲だって、高校野球だって、幕下や一回戦から全部放映するからこそ決勝が盛り上がるわけでしょうし。結果だけ知りたいんだったら、株式市況と変わらんじゃん。
結局オリンピックで何に感動するのかっていえば、煎じ詰めれば「一生懸命頑張ってる人間の姿」というのは、やっぱり人の胸を打つからだと思います。その感動は、「自分の国が勝った」なんて、狭小でナルシスティックな喜びなんてよりも、ずっと大きくて、ずっと深い。だから、別にメダルでなくてもいいし、日本人でなくてもいいわけですし、はっきりいってオリンピックである必要もないんですよね。オリンピックというのは、僕みたいな不勉強な観客がその種目に接するための誘蛾灯みたいなもんで。
オーストラリアでは、テレビをつければプールばっか映っているし、日本では柔道、野球、サッカー、そして女子マラソンばっかでしょう。おそらく地球上、どこいっても自国選手中心に放映してるのでしょう。でも、ハッキリいって、それってクソだと思う。なにがクソかって、まずはそういう国別対抗みたいな意識が19世紀だと思う以上に、「一番美味しいところをみすみす逃してる」というのがクソです。感動のモトは、客観的に現場に実在してるのですよね。もう、河原の石ころみたいにゴロゴロしてる。で、それをフォローして放映できる技術力を人類は持ってる。なのに、それの観賞の仕方を未だに人類はマスターしとらんのか?って思ったりします。もう、ほんと、刺身にバーベキューソースかけて食ってるようなもんで、「何ちゅう食い方するんじゃ!」とイライラするくらいです。
今回のカヌーの試合も、上の写真のように、カンペキな放映カメラ設備が用意されているし、ギンギンに稼動してるわけですが、オーストラリアでは殆ど流されない。おそらくは日本でも流れてないでしょう。この貴重なフィルムはどこにいってしまったのかというと、メダル取得国のTVを受信しないと見られないのでしょうねえ。
というわけで、カヌー/カヤックです。この競技は個人的にほんの少し縁があります。
ちょっと前までウチのシェアメイトにカトーさんという人がおられました。その人は学生時代からカヌーやってまして、「今日はちょっとペンリスまで行ってきます」って言っては、中古の車の屋根にカヌー括り付けてやりにいってたわけです。そのカトーさんのカヌー仲間の後輩に、タロー君という人がいまして、シドニーに行なわれる世界大会に出場したりしてたわけです。タロー君は、カトーさんがウチに引越すときに手伝いに来てくれてたりして、そのときに皆でチャイナタウンで北京ダック食べたりして、それ以来の縁だったりするわけです。
そのタロー君が、今回、「日本代表、安藤太郎選手」として、出場することになったわけですね。
上の大きな写真が、そのタロー君の本番の勇姿です。
会場は、ペンリスというシティから50キロ離れた、ブルーマウンテンの麓にある川で行なわれました。会場はレガッタ系とカヌー/カヤック系の二つありまして、今回は後者。「人工急流すべり」コースですね。ここを、カヌーやカヤックに乗って、各選手がどんぶらこっこと下ってくるわけです。
写真上左は、会場の脇にある静かな川。写真中央は「これ、大丈夫なんかな?壊れないのかな?」という観客席。写真右端は会場の様子。
その日の朝に必死こいてプリントアウトして読んだところによりますと、コースはせいぜい300メートル程度ですが、ルールが結構キツい。単に下ればいいだけではなく、25個前後設置(上から釣り下げられている)ゲートを通過しなければなりません。スラロームというだけあって、要するにスキーの回転みたいなものなのですが、スキーと違うのは@ゲートの枠の中を通らねばならないことと、A6つ(だったかな)のゲートは、ぐるりと180度反転して急流「上り」をして遡行しなければならないことです。「上り」ゲートは、色が違って、赤白で塗られてます(下りは緑白)。
@のゲートくぐりですが、これもエグいのは狭くて、普通にやってたらパドルが当たるので、通過する瞬間はパドルをほぼ垂直にたてたり、身をのけぞらせたりしないとならないこと。急流でバランスとりながらこれをやるのは、傍目から見てても難しそうです。で、当たったらどうなるかというと2点(2秒)の減点。さらに、人工的に左右あちこちから水が噴き出ていたり、急にある部分だけ水の流れが止ってたりして、カヌーのコントロールがやたら難しいこと。で、つい、ゲートを通り過ぎてしまったら、それだけで50点(50秒)の減点。トップレベルのタイムが1コース120秒強くらいですから、50秒減点というのは事実上の死刑宣告だという。
さらに、Aの「鯉の滝登り」ですが、この目で見ても、どうしてあんなことができるのか不思議なくらいでした。オリンピックレベルということもあるのでしょう、皆さん、ポイントにくると魔法のようにクルリとカヌーが反転するのですね。で、そこからどれだけの腕のパワーがいるのか想像もつかないけど、ゴンゴン漕いで遡っていくという。
写真下二枚は、K2といわれる、二人乗りカヤック競技の様子。
と、ここまでルール説明を読んでから、下の各選手のプレイをご覧ください。以下いずれもK1(カヤック一人乗り)の様子です。
写真上右端:ヤラしいところにある「上りゲート」を遡行している選手の図
写真左端:流れの激しさから、「殆ど沈没してるんじゃないの?」みたいな状態で(水は流れ込まないような構造になってますが)、突き進む図
写真中央2枚:激流のなか、ほとんど洪水で流されるようなイキオイで赤ゲートを通過し(中央左)、この次の瞬間クルリと反転し、さらに遡り通過に成功し、さらにまた180度反転するわけですね(中央右)。どーしてあんなことができるのだろうか。
下の三枚。力漕する各選手。
タロー君登場です。
下の写真右2枚が一回目のトライアル、右二枚が2回目です。
結果からいえば、我らがタロー選手は、堂々の最下位でありました。
直接的な敗因は、最後の方のゲートで、ゲート未通過という「地獄の罰金50点」を食らってしまったからですね。しかも、1、2本目両方とも。
あとで彼に話を聞いたら、「あそこは左から急に流れが出てきて、さらにそのあとすぐに右からもでてくるので、メッチャクチャ難しい」そうです。だが、そう解説して貰わないとわからないくらい世界のトップクラスの選手は通り抜けていったわけで、それだけ世界のレベルは高いということでしょう。僕も「どんぶらこっこ」なんて気楽に書いてるけど、実はとんでもなく難しいことを皆さんやってるわけですね。
ちなみに、このゲート未通過地獄の罰金は、タロー選手だけでなく、他の選手も何人か食らってました。通過しそこなったゲートを再び通過するべく、下流から必死に漕ぎ戻る(これは想定されてないだけにかなりの苦行だと思われる)タロー選手の姿(二回目なんか転覆しながらも執念でクリアしてた)に、会場は拍手喝采でありました。
これ、身内贔屓でいってるわけではないし、日本人観客だけからでもないです(大体日本人で見にきてたのなんか、見たところ僕らいれて4人くらいしか見かけなかった)。ほんと、タイムもメダルも、それどころか翌日の決勝進出もパーになった瞬間で精神的にはグチャグチャだったろううに、それでも懸命に漕ぎあがっていくその姿には「絶対やりとげたる!」というオーラが出てたし、その何つーのかな、これも言葉にしちゃうとダサいんだけど、「敢闘精神」みたいなものはギンギンに伝わってたと思う。だから、普段は自分の国の選手を応援してる人々も、このときばかりは皆素直に「がんばれっ」って気持になったんだと思いますし、それは、ほんの数十秒のことだったけど、ほんと感動的だったです。一番わけへだてのない素直な拍手を貰った選手だったろうし、一番覚えてもらえた選手だったでしょう。
写真上左:試合を終えて観客席までやってきたタロー君。
まあ、タロー君本人は、そんなことで拍手を貰いたくはないだろうし、勝って拍手を貰いたかったでしょう。すごい無念そうだったし、「観客席歩いてても皆が声かけてくるんですよ、恥かしいですよ〜!!」とか情け無さそうだったけど、そんなの全然恥かしくないよ。
それが証拠に試合が終わった後、誰よりも地元のオージーにサインをねだられるわ、写真を写されるわしてたもんね。右の二枚は、「安藤太郎」と漢字でサインしているタロー君の図。
その日の朝にプリントアウトしてルール勉強してる僕が言ってもなんの説得力もないけど、でも、あとで記録みたら、あのゲート未通過罰金を食らわずに、また遡行作業をしてなかったら、タイム的には全然悪くなかった。決勝進出も、入賞もそんなに遠い距離の話ではないタイムは出していたもん。だから、余計に、未通過が悔やまれるんだけど、これはもう本人も言うように、冷厳たる「世界の壁」なんでしょうね。
でもね〜、カヌーというのは出場選手見てたら、ヨーロピアンをはじめ殆ど全員西欧系なんですよね。アジア人なんか全然居ない。たった一人の例外がタロー君なわけで、そもそも日本から出場できたのも、彼が世界大会でいいランクにつけたからこそであって、彼が頑張ったから日本も出場できたわけですね。そうでなけばアジア全滅だもんね。
しかし、タロー君は既に日本に帰ってしまったけど、日本ではあれだけマスコミがひしめき合っていても、「日本の安藤選手は予選通過なりませんでした」とそれだけで片付けられるんだろうな。それすらも言ってもらえないかもしれないんだよな。なんだかな〜って思うよ。タロー君だけではなく、他にも沢山沢山選手は出てるんだし、それぞれに頑張ってきてるんだし。彼の場合は、まだ地元に住んでる僕らが少なくとも4名くらいの日本人は見にいったけど、もしかしたら誰一人日本人が見てない競技場で頑張ってる奴だっているかもしれんのだよな。
「頑張れ日本!」って何よ? メダルって何よ? マスコミって何なのよ? オリンピックって何なのよ? 人気種目って何よ? 日本の「主要選手」って何よ? 誰が決めるのよ? って、いろいろ思ってしまうのでした。
タロー君はすごく悔しそうだったけど、でも、いいよな〜。落ち込んだり、悔しがったり、頑張ったりする対象が「世界の壁」でしょ?僕も、一度は「世界の壁」とやらで落ち込んでみたいもんですわ。
というわけで、帰りしな、通りすがりの地元のオージーの兄ちゃんが、タロー君の肩をぽんと叩いて言った言葉でシメましょう。
" Good on you, mate!! "
カトーさん、日本で、タロー君に焼き肉でおごってやってくださいな(^^*)。
写真・文/田村
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