今週の1枚(10.05)
Fedral Election(総選挙)の風景
さる10月3日、オーストラリアでは連邦総選挙(Federal Election)が行なわれました。
僕らは永住権をもっていても市民権(国籍)を持ってないので投票権はありません。したがって蚊帳の外なのですが、それでも興味はあります。
オーストラリア独特の複雑な選挙システムにより、完全に開票が済み、当選者が確定するまで1週間くらい掛かるようですが、大勢はその日の晩に判明しました。
結論的には、現在の与党連合(リベラル(自由党)とナショナル(国民党)のコーリション)が僅差で政権維持となりそうです。ただ、前回(96年)の選挙のときに比べると、首の皮一枚残した勝利という感じです。なんせ、全148議席しかないのに野党レイバー(労働党)に40議席前後という圧倒的な差をつけて超絶対過半数を誇っていたのですが、今回の選挙で差はヒトケタに縮まってしまいました。逆にいえば、レイバーが30議席以上取り返したことになります。
今回の選挙の総括は、またこれから色々言われると思いますが、事前に言われていた焦点としては、@与党が提唱したGST(消費税)導入を国民がどう反応するか、Aポーリンハンソンのワンネーション党がどこまで議席を伸ばすか、などです。
古今東西、新しい税金を提唱して選挙に勝った政府はいないと言われてますし、日本でも自民党が消費税のときボロ負けしました。ただ、日本と違うのは、オーストラリアの場合、間接税が20〜40% と異様に高いので(車や文房具などが異様に高いのはそのため)、10% の消費税を導入しても、実質的に値段がかなり安くなるものも多いのですね。だから一概に増税とは言えない。事前の調査でも、消費税導入(間接税廃止)を支持する率は時として過半数を超えてました。
ところが、消費税が本来的に持ってる逆進性(金持ちより貧乏人の方が負担がきつくなる)が徐々に浸透してきて、徐々に議論が深まってました(年収いくらで子供何人だったら結局こうなるとかいうシュミレーションが盛んに行なわれていたり)。特に老人ケアや託児所などの福祉面や、これまでゼロだった食料品にも10% 掛かるとなると、考え直した人も多かったのかもしれません。
一方、人種差別的だとして何かと話題のポーリンハンソン率いるワンネーションですが、先日のQLD州選挙での大勝で、今度も台風の目になるかと思われましたが、蓋を開けてみればゼロでした。上院で一人出るかなというくらいで、ポーリンハンソン本人が落選しそうです(ほぼ確実)。
ワンネーションは、全国でも10%近く得票しているにも関わらず、議席ゼロというのは、ひとつには小選挙区制であること、もうひとつは後述のプリファレンス(順位投票)でNOという人が多かったことによるのでしょう。実際、ポーリンハンソンも第一順位得票では38% 位獲得して一位だったのですが、第二順位の積み上げ結果で他の候補に抜かれてしまったようです。
これをどうみるかですが、まあ全国各地、どこの町にもハンソン的な発想をする人(ハンソニストという)はそこそこ居るのだけど、政治的影響力を得るほどにはメジャーになれないということが一つ。もうひとつは、ハンソニズムに対して「それは絶対あかん」と反対するオーストラリア人がその数倍いたということでしょう。
ちなみにハンソンが目の仇にしているアボリジニーですが、NSW州の上院で、アボリジニーの候補が当選しました(デモクラッツ=民主党)。
オーストラリアは3年に一回という短いサイクルで選挙をするので、過去をみても一期だけで政権が交代することは稀のようです。今回もレイバーの政権奪回は果たされませんでしたが、その巻き返しでいえば(数え方によるけど)戦後最大とも言われています。だから「野党善戦、与党辛勝」といったところでしょう。
今後の政局ですが、大きな意味での対日関係ですが、貿易とかそのあたりはどっちが政権取っても変わべくもないでしょう。もっと僕らに関係するところ、つまり、移民の受入れ数の増減とか永住権ポイントテストのバーの上げ下げとかですが、大きな目でいえば良い方向に行くのかなという期待もあります。もともとレイバーは親マルチカルチャル路線です。加えて反移民・反アジアのポーリンハンソンの落選。これまでハンソンを通して「物言わぬ世論」が透けて見えているように言われ、それが政治家達の手足を縛ってたところはあります。「あんまりハンソンを批判すると、「普通のオーストラリア人」の感情から離れていると逆に非難されるのではないか」と。それがハワード首相の煮え切らない態度になって繋がったり、どことなく気兼ねしてた部分があったと思うのですが、それがちょっと変わるかもしれませんから。
ただし、議席ゼロといいながらも、ワンネーションの得票数は馬鹿にしたものではなく、事実与党から多くの票を食ってます(それが与党退潮のメインの原因)。ただ、その支持は、単に人種的な話から、都市優遇農村冷遇の反発や、経済の国際化・グローバリゼーションへの反発という部分に移行しているようにも僕には思えます。
オーストラリアの選挙はプリファレンシャル・システムという順位連記の投票システムを取ります。つまり、投票用紙に印刷されている各候補に、自分で順位をつけていくという投票方式です。写真は左は、各家庭に配られる「選挙の手引き」のパンフレットで、これに説明がされています。
票の集計方式の複雑さ、郵便投票などの各方式の採用とあいまって、最終集計が終るまで1週間くらい掛かるわけです。集計方式は、下院(The House of Representative)と上院(Senato)とで違います。
ちょっと重いけど(各140kbほどあります)、パンフレットのなかから下院と上院の投票・集計システムの解説のページをスキャンしたものをあげておきます。興味のある方はどうぞ。
簡単に解説しておきます。
下院の場合は、@各投票用紙で第一順位に書かれた候補の得票を単純に加算する。それで絶対過半数を超えたら当選。Aもし過半数を獲得した候補がいなかったら、ペケの候補を外し、その候補に投票された票から第二順位に書かれた候補にそれぞれ加算、Bそれでも誰も過半数に達しなかったら、さらにペケから二番目の候補の票から第二順位を加算、以下同じ、、という方法をとります。これだけの仕掛で、単純得票で一位だった人でも結構あっさり落選したりします(前述のポーリンハンソンがその例)。「この人が一番」という熱狂的ファンが多くてもそれが一部に留まっていれば、広範な層から支持を受けた人の方が通るわけですね。
ですので、各政党は"How to Vote"と呼ばれるパンフレットを配って、各党なりに他候補者の順位にも気を配らないとならないわけですね。前述のハンソンが落ちそうなのも、1位投票した人はそれなりに居ても、「ハンソンを一番にしなかった人達で、ハンソンを二番した人」が非常に少なかったことが窺われます。簡単にいえば、一部の人には支持されても、大勢には嫌われていたということでしょう。
上院のシステムになるとさらに複雑。これは各州ごとに何人と決っていて、NSW州の場合は6人ですが、当選するためには、総得票数を(当選枠+1)で割った数に1足した数の得票が必要とされます。で、もしある候補がこのボーダーを超えた場合、超過部分の票が第二順位の候補に加算されるというシステムになります。その際、単純に1票が加算されるのではなく、その候補が最終的に獲得した票によって加算されるべき「票の価値」が計算されるそうです。で、これで6人出揃わなかった場合は、下院と同じくまずペケ候補を外してその第二順位を加算という方法をとるようです。「なんでそんなややこしいこと、、」と思ってしまいますが、数学的によーく考えるとそれなりに合理性があるのでしょう。まあ、ここでは、「なるほど、こりゃ集計に時間がかかるわけだ」と納得するだけにしましょう(^^*)。
ただこんな投票方式が出来るのも、オーストラリアが義務投票制度で投票率がほぼ100%という前提事情もあるのでしょう。投票しないと罰金とのことですが実際に適用された例なんかどれだけあるのかな。どうしても投票したくなかったら、選挙人名簿に登載しなければいいそうですが、一般の感覚ではそんなことをするのはよほどの変人だと、オーストラリアの友達は言ってました。
ところで、写真は、家の近くの投票所(小学校だった)の前に貼られたリベラルのポスター。投票所の中までは入れませんでしたが、入り口では、各ボランティアの人達が訪れる人にパンフレットを配っていました。近所のおっちゃん、おばちゃん、にーちゃんが井戸端会議をしてるという風で、ハッピを着て連呼するという雰囲気ではないです(写真撮ったけどデジカメが駄目でパーでした。くそ)。
このポスターですが、結構エグイものです。写真に写ってるのはレイバーのナンバー2のガレスエバンス候補。レイバー政権時代は外務大臣をやってました。前回の選挙のとき、リベラル陣営が「レイバーは13年の長期政権で傲慢になっている。税金使って自分らは贅沢ばかりやっていた、会計も不明朗だ」というネガティブキャンペーンをやりました。そのときのTV広告で、ガレスエバンスもと外務大臣がとあるパーティーで陽気に踊ってるビデオをともに流して、いかにもレイバーが奢って税金を浪費しているかのイメージを作ったわけですね。3年前に見て「うわ、エグいわ、これ」と思ったのですが、よほど印象に残ったのでしょう、今回の選挙にも使われています。「また、あの(暗黒の)レイバー時代に戻るのか?オーストラリアにはそんな余裕がないはずだ」と煽ってます。
選挙の夜のTVの画面をそのままデジカメで撮りました。画質はボロボロですが、雰囲気だけでも。
写真左は、選挙特番のスタジオの風景。おんなじですね。
写真中央はスタジオにいる司会(ケリーオブライアン)と各党の代表。
写真右は、選挙区ごとの開票速報。西オーストラリア州、Cowan選挙区。グラフは左からリベラル、レイバー、ワンネーション、デモクラッツ、その他。開票76.8%。
スタジオと各選挙区との中継シーン。写真左はABC(国営放送)のもの、写真中央は民放。Tally roomというのは、集計センターのことでしょう。
写真右は、ほぼ当確を決めた候補者と奥さん。「背広にダルマ」という日本的な風景ではなく、そこらへんの村長選挙のような雰囲気なのが、いかにもオーストラリアです。
スタジオに詰める前述のガレスエバンス議員(写真左)、ティムフィッシャー国民党党首(副首相)。
野党党首キム・ビーズリーの演説中継。レイバー善戦は、彼のリーダーシップという評価も高まっています。前回のボロ負け以来3年間の冷や飯生活から、今回の伯仲にもっていけたということで、さすがにうれしそうです。"Back in town!"(レイバーは帰ってきた!)と支持者とともにやってました。
この人を知ってたらかなりオーストラリア通でしょう。ポーリンハンソンのワンネーション党の事実上の指令塔、オールドフィールド氏。もとはリベラルのマンリー市会議員だったのが、ワンネーションの参謀に転進。現在のワンネーションを動かしているのはこの人です。ハンソンは飾りというかカリスマでしょう。今回NSW州の上院に出馬するも、ほぼ落選確実。集計所での敗戦インタビューの風景。
写真・文/田村
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