今週の1枚(08.03)
Nutcote/ニュートラルベイの風景(その3)
3回連続でニュートラル・ベイですが、今回は地域というより、オーストラリア・カルチャーの話になるでしょうか。
ニュートラルベイの海沿いの一角に、Nutcoteという建物があります。これは、オーストラリア人だったら誰でも知ってるという著名なアーティスト(というかマンガ家になるのかな)、故May Gibbsの家です。ここまで載せている日本語ガイド本は絶無と言っていいでしょうし、日本人で知ってる人は殆どいないでしょう。
海外に住んでて一番ネックになるのは、土着のカルチャーですが、そのなかでも「その昔にやっていた子供向けのカルチャー」は、その土地に子供の頃から住んでないとわからない。日本でいえば、「星飛雄馬」「大リーグボール」みたいなもので、一定の年齢以上の日本人だったら誰でも知っているけど、辞書に載ってるわけではないし、かなり細かな日本紹介文献でも書いてないでしょう。でも皆知っている。
そういうブラックボックスみたいな領域があるわけで、それが我々にとっては悩みの種だったりします。なぜなら古い話ではありながらも、今なおギャグのネタに使われたり、それを知らないと意味が分からないということが往々にしてあるからです。漫才で「お前は星一徹か?」なんてギャグやっても、そこで笑える外人さんは殆どいないのと同じです。皆が大笑いしているのに1人だけ詰まらなくて寂しいのですが、でも調べようがないんですよね。
さて、メイ・ギブスという人ですが、1877年イングランド生まれの女性作家(4歳のときにオーストラリアに移住)です。この人の描くキャラクターは、一定の年齢以上のオーストラリア人だったらほぼ間違いなく誰でも知ってるというくらいメジャーな存在だったようです。新聞の連載マンガやポスター、ポストカードなど、彼女の絵は広く使われていたようです。オーストラリアのサザエさんみたいなものでしょうか。
オーストラリアの子供向け本として古典的名作といわれる「Snugglepot and Cuddlepot」(写真左)は、「オーストラリア版の不思議の国のアリス」と言われ(本の紹介にそう書いてあった)、今なお広く親しまれているようです。他にも、Bib and Bob、Tiggy、Sccoty in Gumnut Land、Mr and Mrs Bear and Friends, Prince Dande Lionなどの作品があるとか。
その作品の特徴は、まあ、よくある擬人化した動物・植物達の世界なのですが、オーストラリア土着の動植物を全面的にフィーチャーしているところがポイントでしょう。Gumtree(ガムツリー、つまりユーカリの木ですが)は、それこそオーストラリアの至るところにあります。殆どそればっかりと言っても過言ではないくらいですが、そのユーカリの木の実(Gumnut)が主人公になるSnugglepot and Cuddlepotは、ユーカリの葉に腰掛けているキューピー風の赤ちゃん的なキャラクターとして描かれています(上記パンフ写真のイラスト参照)。そこに、カンガルーやらポッサムなどのメジャーどころは勿論、バンクシアマンなどが登場してくるわけです。バンクシアというのはオーストラリアの植物で、コップ洗いのタワシのような花が咲きます(だから通称「ボトルブラシ」という)。
メイギブソンは、ニュートラルベイにある家屋敷に1925年に移り住み、以後44年住み続けたそうです。ここで多くの作品が生まれたということですね。彼女の死後、この家は本人の遺志によってユニセフに行くはずだったのですがユニセフもお金が無くて所有できず、1970年に一般不動産として売られてしまいます。が、彼女の親族や友人、そして多くのファンがメイギブソン基金を作って当局に働きかけ、歴史的建造物として保護指定され、ノースシドニー市によって買い取られることになりました。現在は、市当局からメイギブソン・トラストという団体にリースされ、記念館として公開されています。
写真は、Nutcoteの入り口付近から母屋とハーバーを見下ろす。左遠方に映っているのがハーバーブリッジ。
建物は、道路から海辺までの細長い斜面に建てられています。写真左は道路に面した入り口付近。受付でもあり(入場料大人6ドル)、いろいろなメイギブソンの本やグッズが売られています。
入場料を払って、広々とした中庭の斜面を降りて行くと母屋があります。ここがメインの建物で、メイギブソンの生活の場でもあり、仕事場でもありました。
写真左の向こうに見えるのが、ニュートラルベイのフェリーの発着所です。写真左は、振り返って入り口の方を見上げたもの。
1930年代のアンティークな雰囲気をできるだけ保存しようとしています。ここで、ボランティアのガイドのおばさんにたっぷり30分近くガイドして貰いました。さすがボランティアを買って出るだけあって、本当によく知っておられる。メイギブソン・オタクという感じ。でも、本当に好きなんだなあと思いました。
建物内の撮影は禁じられていたので、外観と、中のテラスからの写真だけしかありません。決して豪邸ではないのですが、妙に落ち着きます。こんな家に住んでみたいもんです。
写真右は、バンクシアマンだと思います。
他にも家族連れがやってきてまして、子供たちが真剣に見てたのが印象的でした。今尚読まれているというのは本当みたいですね。
1998年08月03日
撮影/文:田村
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