今週の1枚(01.03.05)
Kings Cross 日曜の朝の風景(その1)
今週のお題は、日本人は「キンクロ」と呼び、地元オージーは"Cross"という、Kings Crossです。
なにかと悪名高いキングス・クロスですが、なにがそんなに悪名高いのかというと、実はあんまりよく語られていないようにも思います。かいつまんでいえば「酒と麻薬と売春婦の街」という調子で、まあそうなんだけど、イメージが先行しすぎてるキライもなきにしもあらず。
こちらに来られるワーホリの人でも、最初はキングスクロス=恐いというイメージを抱いている人が多いです。で、大体語学学校に一ヶ月も行ってますと、友達と一緒にキングスクロスに行く機会の一つくらいはあるもんで、最初はおっかなびっくり行くわけですが、いざ行ってみたら「別にどってことないじゃん?恐くないじゃん」ってなるのが、一つの典型的なパターンになってたりするように思います。
実際、そんな言うほど犯罪者やジャンキーがウヨウヨしてるわけではない、、というか、圧倒的大多数は普通の人だし、店の大多数は普通の飲食店や土産物屋だし、夜歩けば呼び込みがうるさいけどその程度だし。だいたい広さ的にも、日本でいえば都内の各駅停車駅の駅前商店街ほどの広さもない。バックパッカーの一大メッカでもあるし、同時に高級ホテルも林立してるから、世界中の若者や観光客が主役であったりします。
じゃあ全然普通の街なのか?というと、当然そんなことはないです。少なくとも多くのオーストラリアの街がそうであるように、「自然に恵まれた閑静でヘルシーな住宅街」ってわけでは全然無いです。オーストラリアには珍しいくらい、殆ど唯一って言っていいくらい、不健康な歓楽街だと思います。
同じ夜の歓楽街、繁華街であっても、カジノのような区画整理された清潔さはないし、Newtownのような健康な土着性みたいなものもない。同じ繁華街なんだけど、キングスクロスだけちょっと別格という感じがします。
なにがそんなに別格なのかと考えてみると、簡単に言っちゃえばドラッグとセックス(売春)。カジュアルに楽しむ程度であればどってことないのですが、日常生活がドラッグや売春に埋め尽くされていたら、これはちょっとヤバい。ハッピーに人生やってたら、破滅的なジャンキーになることもないですし、売春やって身を立てることもない。それをやるってのは、やっぱりそこには人生どっかでコケちゃった虚無と絶望があったりするのでしょう。そして、それはオーストラリア社会における、意外なくらい高い自殺率、若者の高い失業率と通底するものがあるのでしょう。
数年前、キングスクロスの裏通りで売春婦の射殺体が転がってるのが発見されました。学生時代は明るく利発な女の子で、生徒総代にまで選ばれるくらいだったのですが、それが何故か転落し、家出をし、麻薬中毒になり、売春で生計を立て、わずか2年後には死体で発見されていたという。そこには脈絡不明の虚無があり、当時は結構新聞の紙面を賑わせたものです。ところで、去年も売春婦の射殺死体が発見されてます。これは殆ど話題になってませんが、この「話題にならなさ方」こそが異様だという記事もありました。
キングスクロスの街の表通りを行き交う通行人の大多数は、バックパッカーの若者、観光客、レストランを楽しむローカルだったりするのですが、この街のもう一人の主役は(他に行き所がなくて)居ついてしまっている家出少年少女、若年失業者、ジャンキー、娼婦達だったりします。
僕は、この街自体はそんなに恐いとは思いませんし、普通に歩いてる分には夜であろうがそれほど危険だとも思わない。でも、危険だから恐いっていうのではなく、なんつーか、人間がもってる暗黒的なものを霊媒のように引き寄せてくるこの街のキャラがちょっと恐いです。でもそれはキングスクロスのせいではなく、こういった場所は、ある程度の規模の都市だったら必ずどっかに抱えてるとは思います。また、コケて中々起き上がるキッカケが見つからない人々にとっては、キングスクロスこそが、迎え入れてくれる、一番「優しい」街に映るのでしょう。
キングスクロスの入口の巨大なコカコーラの看板と後ろにそびえる高層ビル。
この看板付近からシティ方面を望む。
シティとキングスクロスをつなぐ大通り(William St)は、なぜかレンタカー屋が密集しています。
キングスクロス駅へ向かう通路とエレベーター。
写真右、スーツケースを転がしてホテルに向かう旅行者。
目抜き通りのDarlinghurst Rd。
写真左、早起きというよりは、一晩騒いで徹夜明けって感じの若者。
この写真を撮ってたら、労務者風のおっちゃんが追い抜きざま、"Hey, taking pictures of shithouse ?!" とニヤッと笑って声をかけてきました。『兄ちゃん、こんなゴミ貯めみたいな所の写真撮ってどうすんだよ?』ってな意味。
空港から直行でチェックインする御一行様。
ここはその昔日航ホテルだった頃、JALの乗務員の宿になってたようですが、この人達は別のアジア系の航空会社のようでした。スチュワーデスさんの制服を見てもあんまり見覚えがなかった。
「いかにも」な土産物屋さん。「こううん」って、「幸運」のことでしょうか。
写真左、異様に逞しいおねーさんだなと思ったら、昨晩のマディグラ・パレード帰りのお兄さんですな。
もともとは馬車に乗った貴婦人達の社交場であったキングスクロス。この町は、何層構造にもなっているのでしょう。もう少し見てみたいと思います。
写真・文/田村
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