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英語雑記帳


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私はクラスの壁の花






シドニーの語学学校に行きはじめた方から、時々「泣き」が入ることがあります。「ちゃんとレベル分けテストして入ったはずなのに、クラスのレベルが高すぎて付いていけない」というものです。たしかにレベル分けテストの時、まぐれアタリが重なることもあるでしょうし、学校のレベル分けが荒すぎるということもあるでしょう。が、こういう方に詳しく事情を伺うと、ほとんどの場合は性格的なものに起因している場合が多いです。

日本で我々が受けてきた学校教育は、世界各国と比較するとかなり特異なようです。日本の学校では、授業中のルールがあります。いわく、「授業中はおとなしく先生の言うことを聞くもの」「自信のある時だけ手をあげて、先生にさされたら発言するもの」などなど。授業中はとにかく静かにしていることが最低限のエチケットみたいなもので、おとなしくしてりゃ多少居眠りしようが、マンガを読んでいようが、早弁していようが、先生もおおめに見てくれたりします。

ところが、これが海外に出ると全然当てはまらない。韓国、タイなどアジア系の留学生は日本人と似たような授業態度だったりしますが、彼らは例外的といっていいでしょう。中国系、ヨーロッパ系、ラテンアメリカ系の学生たちの元気なこと!! 先生が説明している最中だろうが何だろうが、思い付いたことがあったら喋りだします。それも、手をあげて先生にさされてから・・などというまどろっこしい手順を踏むこともなく、どんどん口を挟みます。ボヤボヤしてるうちに、周囲では活発なディスカッションが繰り広げられたりして、我々日本人は「・・・・」状態に追い込まれます。

さらにマズイことに、バンバン発言する他国からの留学生はこれまたクセのある母国語にひきずられた「ちょすご英語」を喋るから、もう何言ってんのかわかんない、よって「私だけ取り残されてる・・」と感じられてしまう。クラスの「壁の花」状態。


私が語学学校に行っていた時は、ベトナムから奨学生がたくさん来ていて、クラスの半分を占めていました。彼らときたら、おとなしく黙っている瞬間などほとんどないほど、常に喋っている。雑談をするのではなく、大きな声で先生に向かって議論を挑んでるような感じ。問題集の答えあわせの時なんか、先生が「正解はBです」と言えば、「そんなはずはない、正解はAだ!」と主張し、理由をとうとうと述べ、「あなたの答えは間違っている」と先生とのバトルを繰り広げます。日本だったら、先生が言う回答はたとえ間違っていても正解なのに。

まあ、ベトナム人が皆そうなのかどうかは分かりません。なにしろ、奨学生ということで、かなりのエリート揃いでしたから、自信過剰気味の人が多かったのかもしれません。

とにかく、そんな次第で、「クラスメイトがすごい積極的に発言するので、何も言えない自分がアホみたいに感じられてしまう」という事態に陥るわけです。ここで「全然授業に付いていけない、私にはこのクラスのレベルが高すぎるんだと思う」という結論に達してしまうのです。が、実際、どこがどのように難しいと感じるのかをよくよく聴いていくと、文法や読み書きでは余裕で付いていってることが多いです。まあ、一種のカルチャーショックなんでしょう。




こういう状態にぶちあたってしまった人は、「悟る」しかないです。そう、「あの人たちはよく喋るのだ」と。確かに自分はあの人たちのように流暢(というか機関銃のように、の方が正確かもしれない)には喋れないかもしれない。でも、だからといって、自分の英語力があの人たちより劣っているというわけではない。うまく話せないのは慣れの問題なので、そのまま2〜3週間も一緒にやってりゃ喋れるようになります。それより、何が違うって、「喋りたい」というパッションがあるかどうか、なんだろうと思います。

誰かが何か言ったらとにかく口出さずにいられない、先生と意見が違ったら発言したくてうずうずする・・・そういう性分なんでしょう。実際、彼らが言ってることが聞き取れるようになると、ほとんどがしょーもないジョークや雑談だったり、本題とはかけ離れたどうでもいいコトだったりすることに気付くでしょう。

もうひとつ、失礼ながらついでに指摘するなら、彼らは人の言うことなぞ聞いちゃいませんね。他人の意見には耳を貸さずに、とにかく自分の言いたいことを主張するという傾向はあるようです。もちろん皆が皆そうだってことじゃないけど、注意深く観察していると、相手のいうことをちゃんと聞かないままに反論している人とか、議論が噛み合わないまま言い合っている人たちとか、わりといます。

交渉社会の西洋では、自分の意見をハッキリ主張することを子供の頃から躾られるようですし、それが出来ないと生きづらい社会になっているんでしょう。また、中国でも自己主張しないと人口多いから食いっぱぐれるのかもしれないし(そうか?)、ラテン系の人たちはもともと陽気だから、思わず騒いでしまうんじゃないかな。

逆に、私たち日本人は、「自分が喋る前に、相手のいうことをよく聞きなさい」という躾を受けていますから、そこをそう簡単に転換することは出来ないんですね。だから、開き直ってください。私はそういう性格なのよ、と。

しかし、「喋りたい」というパッションが強い人ほど語学は早く上達する傾向はあると思うので、なりふり構わずガンガン喋る人たちに少しは見習うべきかもしれませんね。言いたいことがあれば、なんとかして伝えようと努力しますから、その分上達するのも早いでしょう。






ところで、ヨーロッパ人、ラテンアメリカ人がよく喋ることの理由は、もうひとつあるようです。以前に「シドニー雑記帳」でも書きましたが、言語体系が母国語と似ていることが彼らにとっては大きな強みでしょう。

ヨーロッパ系の言語は、もとを辿れば同じ語源ですから、単語も似てることが多いし、なんたって語順が同じというのは強いです。我々日本人は、英語に慣れるまで、いちいち頭の中で語順をひっくり返して組み立てなおす作業が必要ですが、彼らはその必要もない。極端に言えば、母国語をちょっと英語っぽく発音すれば、英語に聞えるようなもんです。東京人が関西弁を覚えるのと、さほど変わらないような気がします(それは言い過ぎか?)。

さらに、決まり文句やことわざ、ギャグセンスなどが似ていることも彼らにとっては有利です。母国語のセンスのままで、英語を理解できるので、我々のようにイチイチ辞書をひかなくても、会話全体のノリで推測がきくようです。

そういうわけで、我々日本人が英語を習得する大変さに比べれば、彼らヨーロッパ語圏の人たちは我々の半分の努力もせずに、自然と英語をマスターできるようになるわけです。

でも、それも限界があって、えてして彼らが得意なのはオーラル(話す/聞く)だけです。文法や読み書きになると、それなりに時間をかけてコツコツ勉強しなければマスターできません。英語を話すこと自体、楽勝の彼らにとって、文法や読み書きを勉強するといううっとうしい作業を好むはずもなく、やっぱり手を抜いてきた人が多いみたいです。だから、ヨーロッパ系の留学生は語学学校でもゼネラル英語コースや会話コースにはあまり興味を示さず、かえってケンブリッジ検定準備コースやビジネスコースなどを選ぶ傾向があるようです。

ですから、同じクラスのヨーロッパ系学生がものすごく喋れるからって、ビビらなくても大丈夫。文法問題をやったら彼らのお粗末さが露見することでしょう。簡単な単語のスペルも知らなかったり、作文させたらボロボロだったり。要するに、日本人とは得意分野が違うってことです。




一方、クラス運営をする先生たちにとっては、こんなふうに出身国によって得意分野が違うということは、悩みの種でもあるわけです。
レベル分けテストでは同じレベルとして集まっても、ヨーロッパ人は文法やフォーマルな文章を知りたがる一方で、日本人や韓国人は「そんな中学レベルの文法はどうでもいいから、もっと喋れるようになりたい」と言うし。で、えてして声の大きいヨーロッパ系学生の要望の方が通ってしまいがちなので、日本人学生にしてみると「この学校の授業はつまらない」という結論になりがち。先生も大変苦労されていることでしょう。

語学学校側もこのあたりの問題はしっかり認識しており、できるだけ皆が満足できるような授業をするよう配慮はしています。が、それでもどうしても主張の強い人たちに流されてしまうことはありえますので、「不平等だな」と感じたら先生なりカウンセラーの人なりにクレームした方がいいです。学校側も生徒の要望は吸い上げたいし、できるだけ平等に扱うよう努力したいとは思っているのですが、クレームすることに慣れていない日本人から要望を聞き出すのは簡単なことではない。学校側から「日本人はシャイだから、何を聞いてもGOODとしか言ってくれない」といった苛立ちの声も聞かれます。




こんなふうに、他国からの積極的な留学生のはざまで「壁の花」になってしまいがちな日本人ではありますが、喋れない=英語力がない、というわけではないので、めげずに積極的に発言していってください。クラスで授業中に発言することがはばかられるのなら、授業以外の時間に先生やカウンセラーにクレームするところから始めましょう。日本人は一般に交渉ごと、クレームすることに慣れていないけど、いい練習の場です。できるだけ要望をぶつけてみましょう。

オーストラリア人は下手な移民英語に慣れているせいか、しどろもどろの英語でも辛抱強く聞いてくれる傾向はあります。英語学校なら尚のこと、あなたはお客さんですから、聞く耳もってくれますよ。できれば授業中も他国からの留学生に気負いせず、積極的に発言していけたらいいですね。

是非がんばってください。


初出99年09月02日:福島





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